鑑定とは?
刑事事件における『鑑定』とは、
特別の学識・経験・技能を持つ者が、専門知識を用いて得た判断の報告
をいいます。
刑事事件における鑑定は、
- 捜査手法
- 刑事事件の裁判における犯罪の証明方法
の一つです。
たとえば、刑事事件において、
- 犯人の精神状態(責任能力の有無)
- 覚醒剤などの違法薬物かどうかの判断
- 偽のブランド品かどうかの判断
などは、警察官などの捜査機関では知識がなく、分からないため、医師などの専門家に判断してもらう必要があります。
犯罪の証明のために、専門家に専門的な判断の報告を得て、その報告を犯罪の証明に活用するのが鑑定を行うの目的になります。
鑑定嘱託とは?
捜査機関は、犯罪の証明のために、鑑定を専門家に依頼しなければなりません。
鑑定を専門家に依頼することを
鑑定嘱託
といいます。
根拠法令は、刑訴法223条Ⅰにあり、
『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者…に鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる』
と規定されています。
「嘱託」とは、「依頼する」という意味です。
捜査機関が専門家に鑑定を依頼するので、鑑定嘱託と呼ばれるわけです。
鑑定嘱託における強制処分
捜査機関が、専門家に鑑定嘱託するに当たり、専門家が鑑定を成し遂げるために強制処分を行う必要がある場合は、捜査機関は、裁判官に対し、強制処分をするための令状を請求しなければなりません(刑訴法225条)。
その強制処分とは、
- 鑑定留置(刑訴法167条、224条)
- 鑑定人による住居等への立ち入り(刑訴法168条Ⅰ)
- 鑑定人による身体を検査(刑訴法168条Ⅰ)
- 鑑定人による死体の解剖(刑訴法168条Ⅰ)
- 鑑定人による墳墓の発掘(刑訴法168条Ⅰ)
- 鑑定人による物の破壊(刑訴法168条Ⅰ)
になります。
鑑定は、「捜査機関による鑑定嘱託(任意)」と「裁判所による鑑定命令(強制)」の2パターンがある
鑑定は、
- 捜査機関が専門家に嘱託(依頼)する任意のパターン
- 裁判所が専門家に命令する強制のパターン
の2パターンがあります。
捜査機関が専門家に鑑定を嘱託(依頼)する任意のパターンについては、鑑定嘱託を受けた専門家は、鑑定を行うことを拒否することができます。
これに対し、裁判所が専門家に鑑定を命令する強制のパターンについては、専門家は鑑定を拒否することができません。
根拠法令は、刑訴法165条にあり、
『裁判所は、学識経験のある者に鑑定を命ずることができる』
と規定しています。
もし、専門家が、裁判所の鑑定命令に従わず、裁判に出頭せず、鑑定結果を報告しなかった場合は、
に処せられることになります。
ちなみに、たとえ鑑定人(専門家)が裁判所に出頭しなかったとしても、勾引(手錠をかけられて裁判所に強制的に連れていかれること)まではされません(刑訴法171条)。
証人(犯罪被害者や目撃者などの犯罪事実に関することなどについて裁判所で証言する人)が、裁判所からの召喚(「裁判に出廷して証言しろ!」という命令)に応じなかった場合は、勾引されることになります。
しかし、鑑定命令を受けた専門家の場合は、勾引まではされません。
これは、専門家については、証人と違い
代替性
があるからです。
証人は、犯罪被害者や目撃者などが該当し、犯罪被害などを経験した者でなければ証言できないので、代替性がありません。
これに対し、鑑定を行う専門家は、「その人でなければ鑑定できない」ということはありなせん。
鑑定命令に応じない専門家がいれば、ほかの専門家に鑑定を命じればよいだけなので、代替性があります。
このことから、鑑定命令を受けた専門家が、鑑定命令に応じず、裁判所に出頭しなくても、勾引まではされないのです。