刑法(現住建造物等放火)

現住建造物等放火罪(12) ~「放火行為と焼損との因果関係」「既遂時期」を説明~

 前回の記事の続きです。

放火行為と焼損との因果関係

 現住建造物等放火罪(刑法108条)の構成要件的結果は「焼損」です。

 放火罪が成立するためには、放火行為と焼損との間に因果関係が認められることが必要になります。

 放火行為と焼損(焼燬)との因果関係について触れた裁判例として以下のものがあります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和30年5月17日)

 住家の床下に油の燃焼による放火装置を施した場合、家人が油の燃える臭いを感じ床板を開いて床下を調べ、発火点を発見して消火すべく緊急の措置として発火点近くの床下を破壊し開口を造るようなことは通常一般人の予想しうるところであって、かかる他人の過失又は緊急行為としての開口作出が被告人の放火行為に介入競合して住家床板等を焼損する結果を生じたときでも、被告人の放火行為と焼損との間に因果関係を認めるのが相当であるとし、現住建造物等放火罪が成立するとしました。

大阪高裁判決(平成9年10月16日)

 交番から至近距離でガソリン入りのポリタンクを倒して点火し交番の床板等を焼損した事案で、消火に当たろうとした消防士がガソリン入りのポリタンクを蹴飛ばしたという不手際が介在したとしても、消火活動において通常予測しうるところであるから、放火行為と焼損との間に因果関係が認められるとし、現住建造物等放火罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は交番焼損の結果が発生するに足りる状態を自ら作出したものであるのみならず、本件においては、消防士の前記行為は、消火活動の過程において行われたもので、もとより火災を拡大させようと意図したものではなく、たとえ消防士に過失があったとしても、本件のような消火活動の不手際によって迅速な消火がなされず、場合によっては一時的に火災が拡大するようなことも通常予測しえられるところであるから、被告人の行為と本件床板等の焼損の結果との間の因果関係を肯定することができる

と判示しました。

既遂時期(焼損の結果を生じたとき、公共の危険の発生は既遂の要件ではない)

 現住建造物等放火罪(刑法108条)は、

焼損の結果を生じたこと

により既遂となります。

※ 既遂の説明は前の記事参照

 本罪は抽象的公共危険犯であり、客体の焼損の結果を生ずれば当然に公共の危険の発生があると擬制され、公共の危険の発生は構成要件的結果には属さないから、既遂の要件ではありません。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治44年4月24日)

 裁判官は、

  • 放火罪は公共の危険に対する犯罪なるをもって刑法第108条第109条第1項に規定する放火罪にありては、その行為中に当然公共に対する危険の観念を包含するものとして特に公共の危険を生せしめたる事実をもって犯罪構成の要件となさず

と判示しました。

大審院判決(昭和6年12月23日)

 裁判官は、

  • 刑法第108条所定の放火罪は、火を放ちて現に人の住居に使用し又は人の現在する建造物等に放火して、もってこれを焼燬するによりて成立し、よって公共の危険を生せしめたりや否は問うところにあらず

と判示しました。