刑法(暴行罪)

暴行罪(2) ~「暴行の具体例(身体に接触する暴行の裁判例、身体に接触しない暴行の裁判例)」「音、光、熱、電気などのエネルギー作用を用いた攻撃も暴行になる」を解説~

暴行の具体例

 暴行罪(刑法208条)における暴行とは、「人の身体に向けられた有形力の行使(攻撃が身体に接触する必要はない)」です(詳しくは前回記事参照)。

 どのような行為が暴行として認定されるかについて、裁判例を紹介します。

身体に接触する暴行の裁判例

 暴行罪における暴行の典型的な暴行の形態は、殴る、蹴るなどの身体の接触による力学的な作用です。

 殴る、蹴るのほかに、判例において暴行と認定された行為として以下のものがあります。

  • 帳簿を取り返すため他人に組みつく(大審院判決 明示35年12月4日)
  • 人の毛髪、ひげを裁断し、もしくは剃去(ていきょ)する(大審院判決 明示45年6月20日)
  • 手をもって人の肩を押し、土間に転落させる(大審院判決 大正11年1月24日)
  • 逮捕に至らない程度に身体の自由の拘束する(大審院判決 昭和7年2月29日)
  • 電車に乗ろうとする人の服をつかんで引っ張る(大審院判決 昭和8年4月15日)
  • 仰向けに倒れた女子の上に乗りかかる(大阪高裁判決 昭和29年11月30日)
  • 通りがかりの女性に抱きついて帽子で口をふさぐ(名古屋高裁金沢支部判決 昭和30年3月8日)
  • スクラムを組んで気勢を上げながら押し体当りする(最高裁判決 昭和32年4月25日)
  • 塩をかける(福岡高裁判決 昭和46年10月11日)
  • のりがついたハケを振って、顔面などにのりを振りかける(松江地裁判決 昭和50年8月19 日)

身体に接触しない暴行の裁判例

 暴行は、攻撃が身体に直接接触しなくとも、行使された有形力の行使が暴行と認定される事例は多くあります。

 攻撃が命中しなくても暴行の認定をした事例を挙げます。

  • 大声で「何をボヤボヤしているのだ」など悪口を浴びせ、拳大の瓦の破片を被害者の方に投げつけ、なおも「殺すぞ」などと怒鳴りながら、そばにあったクワをふりあげて追いかける気勢を示した行為(最高裁判決 昭和25年11月9日
  • 狭い4畳半の室内で、被害者を脅かすために日本刀の抜き身を数回振り回した行為(最高裁決定 昭和39年1月28日
  • 被害者の数歩手前を狙った投石(東京高裁判決 昭和25年6月10日:手前に投げても石はなお、はねて先に飛ぶから、人に対する暴行といえる旨判示)
  • 被害者の所持する空缶を蹴った行為(名古屋高裁判決 昭和26年7月17日)
  • 警察官があごひもをかけてかぶっていた帽子を奪い取った行為(東京高裁判決 昭和26年10月2日)
  • おどろかせるつもりで椅子を投げつけた行為(仙台高裁判決 昭和30年12月8日)
  • 人の乗車している進行中の自動車めがけて、拳大の石を投げつけて命中させ、自動車の窓ガラス2か所を破壊した行為(東京高裁判決 昭和30年4月9日
  • 他人を脅かすために、その身体の真近である左脇を狙って発砲した行為(水戸地裁判決 昭和38年3月25日)
  • 施錠してある寝室の木製の扉を乱打したり蹴りつけたりし、扉を損壊して寝室に躍りこみそうな気勢を示した行為(東京高裁判決 昭和39年5月4日)
  • 被害者を脅すために、日本刀の抜き身を被害者の首や胸のあたりにほとんど接着せんばかりに突き付けた行為(東京高裁判決 昭和43年11月25日)
  • 被害者の目前で包丁を胸をめがけて突きつけた行為(東京高裁判決 昭和43年12月19日)
  • フォークリフトを被害者に向かって走向させ、これを被害者に衝突させるかのような気勢を示しながら、被害者の身体にフォークリフトを近接させた行為(東京高裁判決 昭和56年2月18日)

音、光、熱、電気などのエネルギー作用を用いた攻撃も暴行になる

 音、光、熱、電気などのエネルギー作用を身体に及ぼすのも、物理的には殴るなどの力学的作用と異なるところはなく、暴行罪を成立させます。

 実際に、音、光、熱、電気などのエネルギー作用を用いて、身体に害を加える行為が暴行として認定された判例として、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和29年8月20日)

 この判例は、太鼓を連打して音により被害者の身体に攻撃を加えた事案です。

 裁判官は、

  • 刑法208条にいう暴行とは、人の身体に対し、不法な攻撃を加えることをいうのである
  • 従って、被告人ら共同して課長らに対し、その身辺近くにおいてブラスバンド用の大太鼓、等を連打し、同人らをして頭脳の感覚鈍り意識朦朧たる気分を与え又は脳貧血を起さしめ、息詰る如き程度に達せしめたときは、人の身体に対し不法な攻撃を加えたものであって暴行と解すべきである

と判示し、暴行罪の成立を認めました。

 ポイントは、音、光、熱、電気などのエネルギー作用による暴行が、無条件に暴行罪を成立させるわけではない点にあります。

 音、光、熱、電気などのエネルギー作用による暴行が暴行罪として認められるためには、

暴行が傷害に達しないまでも、ある程度、人の生理機能に障害を与える程度のものであること

を必要とします。

大阪地裁判決(昭和42年5月13日)

 この判例は、携帯用拡声器を用いて耳もとで大声を発した行為につき暴行罪の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

  • K市の職員組合員である被告人が、K市との団体交渉中に憤激し、K市長の左耳もと近くで、所携の携帯用拡声器を通じて、大声で「市長」と怒鳴りつけ、K市長の左耳部に強い音響を与えて暴行を加えた

として、暴行罪の成立を認めました。

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暴行罪(1)~(6)の記事まとめ一覧

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