刑法(恐喝罪)

恐喝罪(2) ~「恐喝罪が成立するための主観的要件(恐喝の故意、不法領得の意思)」を判例で解説~

恐喝罪が成立するための主観的要件(恐喝の故意、不法領得の意思)

恐喝罪における「故意」とは?

 恐喝罪(刑法249条)が成立するためには、犯罪成立の主観的要件として、

恐喝の故意

が必要になります。

 恐喝罪の故意は、

他人を恐喝して、畏怖に基づく処分行為により、財物又は財産上不法の利益を得、若しくは他人に得させることを表象・認容すること

です。

不法領得の意思を要する

 刑法249条1項の財物恐喝罪には、客観的要素としての財物の交付とともに、主観的違法要素としての

不法領得の意思

が必要になります。

 恐喝罪に関して、不法領得の意思の定義に言及した以下の判例があります。

高松高裁判決(昭和27年1月31日)

 この判例は、麻薬を喝取した事案です。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人は喝取した麻薬の入った瓶を破壊しており、麻薬を交付させるにつき、不法領得の意思はなかった

と主張をしました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 不法領得の意思とは、権利者の物に対する支配を排除して、その物を自己の事実上の支配に移し、所有権の内容を実現する可能性の生ずることの認識があれば、足り必ずしも利得する意思を要しないと解すべきであるから、論旨(※弁護人の主張)は首肯できない

と判示し、喝取した物に対する不法領得の意思が認められ、恐喝罪が成立するとしました。

 なお、この判例の事案は、被告人は喝取した麻薬の一部を他に贈与していることからも、利得の意思があったと認められる事案となっています。

喝取した物を後で返還する意思があったとしても、不法領得の意思は否定されず、恐喝罪が成立する

 終局的には喝取した物を返還する意思であっても、実質的に使用が妨げられる以上、不法領得の意思がないとはいえません。

 なので、後日、財物を終局的には返還するつもりで被害者から交付を受けたとしても、不法領得の意思があると認められ、恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

福岡高裁判決(昭和27年2月28日)

 裁判官は、

  • 人を恐喝して財物を交付させたときは、恐喝罪は直ちに成立し、犯人がその交付を受けた財物を後日返還すべき意思があると否とは恐喝罪の成立に何ら影響を及ぼすものではないのであるから、犯人が後日、話のつくまで財物を預かる意思があるからといって、人を恐喝して財物を交付させた以上、もとより恐喝罪の罪責を免れることはできない

と判示しました。

恐喝罪において不法領得の意思が否定された判例

 恐喝罪において、不法領得の意思が否定された判例があるので紹介します。

京都地裁判決(昭和35年7月4日)

 映画鑑賞の目的ではなく、映画館内で人を探すために、映画館の係員を脅迫して館内に無料で入場することは、不法の利得についての意思がないとして、恐喝罪の成立を否定し、無罪を言い渡しました。

 裁判官は、

  • 被告人は、その主張するように、相手を探すために入ったものであって、この場合、恐喝罪の要件である無料入場による不法の利得についての意思がないものといわざるを得ない
  • 無料入場と知りながら畏怖によって止むなく入場を通過したとする不法の利得についての処分行為がないことになるのであって、これまた恐喝の要件を欠くものと言わなければならない

と判示し、不法領得の意思がない場合は恐喝罪は成立しないとしました。

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