恐喝罪における暴行行為
刑法の考え方として、暴行の概念は、以下の4種類に区別されます。
- 全ての有形力の行使
- 人体に向けられた有形力の行使
- 人体に加えられた有形力の行使
- 人体に加えられ、かつ相手方の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使
※ 有形力→殴るけるなどの物理的攻撃
これらの中で、④の人体に加えられ、かつ相手方の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使は、強盗罪における暴行になるので、恐喝罪における暴行から除外されます。
結果として、恐喝罪における暴行は、④以外の暴行となり、相手方の反抗を抑圧する程度に至らないものである限り、暴行態様に制限はありません。
恐喝罪と強盗罪を区別する基準
恐喝とは、
財物その他の財産の利益を供与させる手段として行われる脅迫又は暴行
の行為です。
なので、同じく、暴行又は脅迫をもって、財物又は財産上の利益を得る強盗との差異が問題になります。
この点について、以下の判例において、恐喝罪と強盗罪を区別する基準が示されており、
- 暴行又は脅迫が、客観的に被害者の反抗を抑圧するに足りない程度のものであれば恐喝罪が成立する
- 被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであれば強盗罪が成立する
との基準が示されています。
裁判官は、
- 他人に暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合に、それが恐喝罪となるか強盗罪となるかは、その暴行又は脅迫が、社会通念上、一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかという客観的基準によって決せられるのであって、具体的事案の被害者の主観を基準として、その被害者の反抗を抑圧する程度であったかどうかということによって決せられるものではない
- 原判決は、 被告人ら3名が被害者方に至り、匕首を示して同人を脅迫し、同人の差出した現金200円を強取、更に財布を取った事実を認定しているのであるから、右の脅迫は社会通念上、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであることは明らかである
- 従って、右認定事実は、強盗罪に該当するものであって、仮りに被害者Aに対してたまたま同人の反抗を抑圧する程度に至らなかったとしても恐喝罪となるものではない
と判示して、暴行又は脅迫が、客観的に被害者の反抗を抑圧するに足りない程度のものであれば恐喝罪が成立し、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであれば強盗罪が成立するとの基準を示しました。
なお、暴行又は脅迫が被害者の反抗を抑圧するに足りない程度のものか否かの判断は、客観的基準によって決せられるのであって、
被害者の主観を基準として決せられるのではない
ことが要点になります。
客観的基準とは、被害者の性別・年齢、犯行場所の状況、時刻、凶器、加害者の服装・態度・数、被害者と加害者との関係などが該当し、これら具体的事情を総合考慮した上で客観的に決することになります。
財物交付における被害者の意思の介入の有無がポイントになる
恐喝罪は、被害者が財産的処分行為(恐喝犯人に財産を交付する行為)をするに際し、瑕疵ある意思に基づくものの、
被害者の意思が介在して
財物又は財産上の利益を取得するところに犯罪成立の核心があります。
なので、被害者の反抗が抑圧される程度の暴行又は脅迫がなされれば、そこにはもはや被害者の意思が介在するとはいえず、
被害者の意思が介在しないで
財物又は財産上の利益の移転がなされることになるので、恐喝罪は成立せず、強盗罪が成立します。
ただし、暴行又は脅追によって、その場で被害者の反抗が抑圧されても、加害者が、なお被害者の任意の交付を待ち、例えば翌日に履行を求める場合は、強盗罪の成立はなく、恐喝罪が成立することになります。
繰り返しになりますが、恐喝罪成立の核心は、財産的処分行為につき、被害者の意思(瑕疵ある意思ではあるが)の介在があるか否かによります。
言い換えると、被害者に思案を巡らせる余地を与え、被害者が前後を顧みて利害得失を考え、加害者の害を恐れて、任意の交付をするのは恐喝罪になり、被害者に思案を巡らせる余地を与えず、前後を顧みて利害得失を考える余地も与えない場合は強盗罪になります。
恐喝罪と強盗罪の成否に言及した判例
恐喝罪と強盗罪の成否について言及した判例を紹介します。
これから判例を見ていくにあたり、強盗罪(又は強盗致傷罪)が成立するのか、それとも恐喝罪(又は恐喝罪と傷害罪の両罪)が成立するのかは、暴行又は脅迫が被害者の反抗を抑圧するに足る程度であるか否かの判断にかかってくることを念頭に置くとよいです。
暴行又は脅迫が被害者の反抗を抑圧するに足る程度であるかどうかが、強盗罪(又は強盗致傷罪)となるか、恐喝罪(又は恐喝罪と傷害罪)となるかを分ける基準になります。
恐喝罪ではなく、強盗罪の成立を認めた判例
東京高裁判決(昭和38年6月17日)
この判例は、恐喝罪ではなく、強盗罪の成立を認めた判例です。
夜間、人影の少ない暗い場所で、20歳前後のカップルに対し、 顔面を殴ったり、みずおちを突き、腕をねじあげた上、足を蹴り、「静かにしろ、兄貴達が来ている。俺たちは山谷に住んでいる。刺すぞ。」などと脅迫して金員を奪取した事案です。
裁判官は、
- ほとんど助を求める手段もないような場所において、屈強な被告人両名より脅迫されたり、暴行を受けたりしたので、何をされるかとの心配で、逃げるに逃げられず、抵抗しない方がよいと思っていたことが明らかである
- 被害者は、被告人両名の前記脅迫暴行により精神および身体の自由を完全に制圧されないにしても、少なくとも、精神および身体の自由を著しく制圧されその反抗を抑圧させたものと解するのが相当である
と判示し、恐喝罪ではなく、強盗罪の成立を認めました。
この判例は、被害者の性別、年齢、犯行場所の状況、時刻、加害者の態度・数などを総合考慮して、恐喝罪ではなく、強盗罪の成立を認めた点が注目されます。
東京高裁判決(昭和41年9月12日)
この判例は、恐喝罪ではなく、強盗罪の成立を認めた判例です。
この判例で、裁判官は、
- 弁護人は、被告人が被害者に示したのは、靴ベラであったから、本件は強盗というに当たらないというが、被告人が被害者に示したものは、白光がし、先端が尖っていて、被害者の胸部に突きつけた際、先端が同人着用のワイシャツに引っかかったことが認められるから、被害者がそれを刃物と思い込んで恐怖を感じたことは、十分首肯し得るところである
- それが靴ベラであったとしても、被告人は刃物に擬して被害者の胸部に突きつけ、同人をして刃物に突きつけられたものと認識させるに足る状況にあったのであるから、被告人の行為が一般に反抗を抑圧するに足るものであることは言うを俟たず
- 従って、かかる手段をもって金品を奪取した本件の行為が強盗に当たることは多言を要しない
と判示し、恐喝罪ではなく、強盗罪の成立を認めました。
強盗致傷罪ではなく、傷害罪と恐喝罪の成立を認めた判例
東京高裁判決(昭和33年10月28日)
この判例は、強盗致傷罪ではなく、傷害罪と恐喝罪の成立を認めた判例です。
事案の内容は、
- 被告人A・Bが恐喝を共謀して、国鉄船橋駅ホームから東武鉄道ホームに架設された陸橋の階段をたまたま通りかかったCに対し、Aが突然背後から右手で背中を突き、BはCの面前に立ちふさがり、前後からCをはさみ、「腹がすいたから金を貸せ。」「金がないというが、もしあればどうするんだ。」などとこもごも申し向け、また、Aは右手拳でCの左ほほを1回殴るなどして金員を要求した
- しかし、Cがこれに応ぜず、隙をみてホームに進入停車した東武電車に駆け込んだので、被告人らもCを追いかけて電車に乗車し、BはCの横の座席にかけ、AはCの前面に立ちふさがって取り囲み、午後6時過ぎころ電車が発車すると、進行中の車内でC に住所や勤務先をたずねたり、乗車券を呈示させたりした上、Bは「生意気な顔をしていやがる。あまりでかい顔をするな。六実駅に着いたらお前の顔を見られないようにしてやる。」などと言った
- Cが救いを求めて車掌室に駆け込むと、そのあとを追いかけて、「こんなところへなぜはい入るのか。早く出ろ。」などと言って車掌室からCを連れ出してつきまとい、午後6時25分ころ、電車が六実駅に到着するや、被告人らはCの両腕を両脇から抱え込んで下車させた
- Cがこれを振り払って逃げ出したところ、そのあとを追いかけ、同駅ホームにおいて、BはCに足払いをかけ、よろめくCの前面から両手でその両肩をつかんで押しつけ、膝部でCの顔面を2、3回蹴り上げ、Cがその場に仰向けに転倒したところ、靴をはいた足で、Cの顔面を数回蹴り、Cがよろめきながら立ち上がろうとするや、片手でCの頭髪をつかみ、片手で顔面を殴った
- たまりかねてCが居合わせた駅長に救いを求めると、Aは「この野郎、生意気だ。」と怒鳴り、Bと共にCの顔面を数回殴ってCに全治5日間を要する顔面打撲傷及び擦過傷を負わせた上、被告人らは、更にCの両脇から両腕をつかんで駅前通りの暗闇の路地に連れ込み、道路端のトタン塀にCを押しつけながら、Bが「お前の家はどこだ。お前の家へ行って母親と掛け合ってやる。」「こんなにズボンを汚してしまい、どうしてくれるんだ。」 と暗に金員を要求し、かつ、1回Cの顔面を殴って、その要求に応じなければ、更に危言を加うべき気勢を示して脅迫し、よってCから600円を喝取した
というものです。
裁判官は、
- いまだ被告人らがCに対し暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧して金員を強取したものとは認め難いところであるから、原判決が被告人の所為を傷害及び恐喝の罪と認めず、強盗傷人の罪と認定処断したのは、すなわち、事実を誤認したものといわなければならない
と判示し、強盗致傷罪ではなく、傷害罪と恐喝罪の2罪が成立するとしました。
この判例は、執拗な暴行・脅迫を行っていますが、被害者は男で、犯行時刻はタ方で、場所は電車の中や戸外であり、凶器は用いていないことなどが総合考慮され、強盗致傷罪が否定されたものと考えられています。
東京高裁判決(昭和59年10月25日)
この判例は、強盗致傷罪ではなく、傷害罪と恐喝罪の成立を認めた判例です。
被告人が別れた元の妻Aから金を無心しようとして家に押しかけ、元妻Aを縛ったり、猿ぐつわをかませたりして怪我を負わせた上、たんすの中から現金在中のBの給料袋を奪い取った事案です。
裁判官は、
- A子は外形的には両手を縛られ、さらにオルガン用の椅子の脚に右足首を縛られ(もっとも被告人が給料袋を持って出る段階では・両手の緊縛のみである)、いかにもその反抗を抑圧されていたかの感がある
- しかしながら、A子はもともと被告人と夫婦であり、離婚後も近くに住んでいて孫を通じての往来もあり、さらに本件の10日前には、同女は被告人の懇願を容れて、無理して10万円を貸してやっている仲であるから、被告人に対する惻隠の情を残していたものであって、その中指にかみついたとき出血がひどいのを見て、被告人に怪我をさせて悪かったと思って中指を口から放してやっており、A子が縛られて寝ている側で被告人が座って中指の手当をしながら定期預金のことを切り出したときの会話も、加害者の強圧の下での会話というよりは、もともと夫である被告人の金の無心と愚痴に対して、今まで苦労させられた妻として、そんな要求には応じられないとの強い姿勢での応接のし方であったと見るべきである
- その上、被告人はA子の定期預金の金は、被告人がBにかけた迷惑の償いとしてBにやったからもうないという返答を聞くや、自己が息子Bにかけた不始末に思いを致し、その返答に納得して定期預金からの金の要求はその場で諦めているのである
- その後、被告人は、現金20万円を要求したが、これに対してもA子は強い姿勢でにべもなく拒否しており、拒否された被告人はA子が緊縛されて不自由であるにもかかわらず、部屋の中を同女の金員を求めて物色したりなどしてはいないのである
- 以上のことから、被告人は強取の意思がなかったのみならず、A子に対する緊縛などの暴行を強取の手段としておらず、また緊縛されていたとはいえ、A子もまた被告人の右のような定期預金からの金の要求に対しては、十分に精神的な余裕を保って主体的に応対しているのであるから、A子と被告人との特別の関係、部屋の状況、金員要求の具体的内容、その応答の経緯からみて、右暴行はいまだもっていわゆる反抗を抑圧する状態には至っていなかったということができるものである
と判示し、強盗致傷罪ではなく、傷害罪と恐喝罪の2罪が成立するとしました。
この判例は、被害者と加害者とが、元は夫婦という特別の関係にあったことと、暴行及び金員要求の具体的経緯が考慮され、強盗致傷罪ではなく、傷害罪と恐喝罪の2罪が成立するとされたと考えられています。
大阪地裁判決(昭和43年12月23日)
この判例は、強盗致傷罪の訴因について傷害罪と恐喝(未遂)罪の成立を認めた判例です。
この判例は、強盗致傷罪の訴因で起訴されましたが、裁判官において、恐喝罪と傷害罪の両罪が観念的競合の関係で成立すると認定しました。
被告人とMが別れ話の際にののしり合いのけんかになり、被告人がMから一万円をおどしとっていこうと考え、Mに対し、「金を出せ」と要求し、暴行を加えて一万円を奪い取ろうとしたがMの抵抗により奪い取れなかったが、代わりに衣類など喝取し、その際、Mに約1か月の加療を要する傷害を負わせたという事実により、強盗致傷罪で起訴された事案です。
裁判官は、
- Mは、被告人に非常に立腹し、自分を馬鹿にしたということで、繰り返し被告人を強く罵倒したこと、Mの応接ぶりをみても、一万円札を自分の靴下の中に隠したり、被告人の「金が欲しいか、命が欲しいか」との趣旨の脅迫に対して、「どちらも欲しい」と応じるなど、9歳年下の被告人に対して相当の余裕がみられること、被告人においても、脅しが功を奏しないため「荷物を置いていくから金を貸してくれ」と哀願するなど、なんとかMを言いくるめて一万円を出させようとしていること、頑強に拒むMに結局根負けして一万円を諦めてしまっていること、被告人とMは1年3か月前から同棲していたのであって、両者の間には相応の一種の信頼関係が存し、そのために被告人の暴行脅迫がかなりの程度のものであるのに、に対し、さほど大きな影響を与えるに至らなかったことがうかがえること、等の諸事実を総合すれば、結局、被告人のMに対する暴行脅迫は相当程度のもではあったけれども、被告人とMとの関係等からみて、なおいまだMの反抗を抑圧するに足る程度のものであったと認める十分な証拠はないというべきである
- また、被告人において、金品強取すなわちMの反抗を抑圧してまで金員を奪取するというほどの故意の存したことについても相当の疑いが残るのであって、被告人の所為について強盗致傷罪の成立を認めることはできない
- また、弁護人は、本件被告人の所為は夫婦間の痴話喧嘩のこうじたものであり、かつMは一万円はもとより衣類についても頑強にその提供を拒んでいたのであるから、たとえその拒絶がなかば嫉妬によるものであったにせよ、暴行脅迫を加えて金品の交付を受けようとした被告人の所為は財産罪を構成するものといわなければならない
- 以上の次第であるから、被告人の衣類等領得の点については恐喝罪の成立を認めるのが相当であり、なお一連の暴行は主として金品の喝取に向けられたものであるから、これによる傷害罪の点については、右恐喝罪と観念的競合の関係にあるのと解するのが相当である
と判示し、強盗致傷罪ではなく、恐喝罪と傷害罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。
札幌地裁判決(平成4年10月30日)
この判例は、凶器を使用しないでひったくり類似の犯行を、強盗致傷の訴因で起訴された事案について、恐喝未遂罪と傷害罪の事実を認定しました。
裁判官は、
- 被告人は、被害者の犯行を抑圧するに足りない程度の暴行を加えて金品を奪い取ろうとしたが、これができなかった
- その際、被害者に傷害を負わせたということに帰するから、本件では、恐喝未遂罪と傷害罪が成立するというべきである
と判示し、強盗致傷罪ではなく、恐喝未遂罪と傷害罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。
強盗罪ではなく、恐喝罪の成立を認めた判例
名古屋高裁金沢支部判決(昭和28年5月14日)
この判例は、強盗罪ではなく、恐喝罪の成立を認めた判例です。
被告人が飯場で同じ土工の被害者Aが草履を履き違えたことで立腹し、1寸角、長さ3尺位の杉棒で殴ったことがあるので、Aは被告人の乱暴な性状に畏怖と警戒の念を有していたところ、被告人が飯場を出奔するに当たり、服装が整わなかったことから、すす竹という直径1 cmくらい、長さ4、5 尺の竹棒を携えて、隣室のAのもとに行き、「2、3日遊びに行って来るから背広を貸してくれ」と申し向け、かねて被告人に畏怖を感じていたAが暗黙裡に被告人の申出を承認したのを奇貨に、背広と短靴を押入れから取り出し、Aの前で背広に着替え自己の服装を脱ぎ捨てたまま立ち去った事案です。
裁判官は、
- 被告人は、Aが被告人の性行と所携(しょけい)の竹棒とを照らし合わせ、被告人に背広や靴を貸さないといえば竹棒で殴打されるかも知れないと畏怖しているのを利用して、A所有の前示物品を強いて貸借名下に自己に交付させる犯意があり、その犯意を実現したものと見るべき証明は十分であるが、その上、更に被告人に強盗の犯意、すなわちAの反抗を抑圧して意思の自由を剥奪するに足る高度の脅迫行為をもって目的物を強取する犯意を断定すべき証拠は十分ではないものというべきである
- むしろ、被告人が「遊びに行って来るから2、3日背広を貸してくれ」と申し向けた言葉は、被告人に対する相手方の畏怖状態を幾分でも緩和せしめ、目的物の交付を若干の自由意思によらしめようとの策略に出たものと推認し得ないでもないから、被告人に強取の犯意を認定するのは本件証拠の限界を行過ぎたものといわなければならない
と判示し、強盗罪ではなく、恐喝罪の成立を認めました。
この判例は、被害者は男で被告人と同じ土工であり、場所は飯場の被害者の部屋で、用いた道具は竹棒であることや、被害者と被告人との関係などが考慮され、強盗罪ではなく、恐喝罪の成立を認めたものと考えられています。
東京高裁判決(昭和37年10月31日)
この判例は、強盗罪ではなく、恐喝罪の成立を認めた判例です。
被告人ら3名が、カップルを襲って金品を取得しようと企て、人家より遠く離れた公園内で、時刻も夜9時に近くで人通りもなく、照明灯もない暗い淋しい場所で、若い男女のカップルに対し、いずれも不良風の3人組である被告人らが、刃渡り10cmくらいのナイフの刃を出し、これを女の被害者のひざの辺に触れさせ、あるいはプラプラさせて金品を要求した事案です。
裁判官は、
- 被告人らの脅迫行為が、相手方の自由意思を制圧し、その抵抗を抑圧するに足るものであるとは全証拠をもってするも、いささかこれを認めるに十分とはいえない
と判示して、強盗罪の成立を否定し、恐喝罪の成立を認めました。
この判例の判決に対しては、反対意見が強く、被害者の性別・年齢、犯行場所の状況、時刻、凶器の使用、加害者の風体、態・数などを総合考慮すれば本件脅迫行為は反抗を抑圧するに足りる程度のものであり、強盗罪の成立を認めるのが相当な事案であるとされています。
広島高裁判決(昭和45年7月6日)
この判例は、強盗罪ではなく、恐喝罪の成立を認めた判例です。
被告人が運転する自動車に甘言をもって乗車させて監禁した被害者(59歳の女性)を脅迫して金品を奪取した事案です。
裁判官は、
- 被害女性は、被告人から脅迫行為を受け、被告人の要求に応じないと、いかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖しながらも、手堤袋に在中の現金1万円だけは奪われまいとして、手堤袋入った風呂敷包みを固く手に取って放さず、被告人が「その包をかせ」と要求しても「これは書類だけですよ」などと言って、これを被告人に渡そうとしなかったことが認められる
- また、被告人が風呂敷包みを奪取した態様も、助手席にいた被害女性が最初は被告人に風呂敷包みを渡すまいとして拒んでいたが、被告人から重ねて「見せてみい」と要求された末、「ほじや見なさい」と言って、仕方なく風呂敷包みを手放したのを被告人が取り上げたというのである
- もともと被害女性に対する脅迫自体、刃物を示すとか、暴行を加えるとかの手段を伴ったものではないことに徴すると、脅迫行為をもって被害者の反抗を抑圧するに足りる程度に達していたものと認めるに足りない
と判示し、強盗罪の成立を否定し、恐喝罪が成立するとしました。