刑法(恐喝罪)

恐喝罪(5) ~恐喝罪における脅迫行為②「害悪の実現は恐喝罪の成否に影響しない」「害悪の実現がそれ自体違法でなくても恐喝罪は成立する」を判例で解説~

害悪の実現は恐喝罪の成否に影響しない

恐喝者が、害悪の実現について、真意を有していたか否かは、恐喝罪の成否に影響しない

 恐喝罪(刑法249条)において、恐喝者が、被害者に対し、害悪の告知をし、その害悪の実現について、恐喝者が真意を有していたか否かは、恐喝罪の成否に影響しません。

 例えば、恐喝者が、被害者に対して、「1万よこさないと殺すぞ」と言って1万円を恐喝した場合に、本当に被害者を殺すことを実現しようと思っていなくても、恐喝罪は成立します。

 この点について以下の判例があります。

大審院判決(大正8年7月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 不法に人をして畏怖せしむるに足るべき害悪を告知し、よって財物を交付せしめんとする以上は、恐喝罪の着手ありというを得べく、犯人がその害悪を実現せしむるの真意を有したりや否や、また被害者が現実に畏怖の念を抱くに至りたるや否は、恐喝未遂罪の成立に影響を及ぼすものにあらず

と判示しました。

害悪の実現が可能でるか否かは、恐喝罪の成否に影響しない

 害悪の実現が可能であるか否かも恐喝罪の成否に影響しません。

 なので、害悪の内容が虚偽の事項を含んでいて、その実現があり得なくても、相手方を畏怖させた場合は恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正8年9月13日)

 この判例で裁判官は、

  • 人に対し、不法の害悪を告知して、これを畏怖せしめて、よって財産上不法の利益を取得したる以上は、その害悪が実現すべきものなると否とを問わず、恐喝罪を構成すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正12年11月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝の手段として告知せられたる害悪が実現するに至るや否は、恐喝罪の成立に影響を及ぼさず

と判示しました。

害悪の実現がそれ自体違法でなくても恐喝罪は成立する

 害悪の実現がそれ自体違法でなくても恐喝罪は成立します。

 例えば、被害者が犯罪行為を行っており、犯人が「お前の犯罪行為を警察にばらされたくなければ金をよこせ」と言った恐喝した場合、恐喝の内容自体は、警察に犯罪事実を申告することなので違法ではありませんが、恐喝罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和29年4月6日)

 裁判官は、

  • 恐喝罪において、脅迫の内容をなす害悪の実現は、必ずしもそれ自体違法であることを要するものではないのであるから、他人の犯罪事実を知る者が、これを捜査官憲に申告すること自体は、もとより違法でなくても、これをたねにして、犯罪事実を捜査官憲に申告するもののように申し向けて他人を畏怖させ、口止料として金品を提供させることが、恐喝罪となることはいうまでもない

と判示しまし、恐喝罪が成立するとしました。

大審院判決(大正6年10月25日)

 被告人が、抱え芸妓A女の前借金を減額させようとして、抱え主に対し、A女に自由廃業をさせると告知した事案で、裁判官は、

  • 恐喝罪の手段として通知したる害悪の実現が違法にあらずとするも、これを告知して不法に財産上の利益を得たるときは、その所為、恐喝罪を構成するものとす

と判示し、芸子を自由廃業させることは違法行為ではありまんが、恐喝罪の成立を認めました。

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