前回の記事の続きです。
建造物損壊罪(刑法260条)と
- 器物損壊罪(刑法261条)
- 住居侵入罪(刑法130条)
- 加重逃走罪(刑法98条)
- 窃盗罪(刑法235条)
- 騒乱罪(刑法106条)
- 内乱罪(刑法77条)
- 艦船破壊罪(126条2項)
- 殺人罪(刑法199条)又は傷害罪(刑法204条)
との関係を説明します。
① 器物損壊罪と建造物損壊罪との関係
器物損壊罪(刑法261条)は、「損壊罪」の基本犯なので、建造物損壊罪が成立する場合には同一客体について器物損壊罪は成立しません。
しかし、建造物の損壊とその建造物内の戸障子等の毀棄が同一機会においてなされたとしても、両者が別個独立の行為によってなされた場合には、建造物損壊罪と器物損壊罪の両罪が成立し、両罪は併合罪となります。
この点、参考となる以下の裁判例があります。
名古屋高裁判決(昭和32年9月12日)
家屋の損壊(建造物損壊罪)と同家屋内の戸障子等の毀棄(器物損壊罪)とが同一機会においてなされた事案で、建造物損壊罪と器物損壊罪の両罪が成立し、両罪は併合罪となるとした事例です。
裁判官は、
- 論旨(※弁護人の主張)は被告人は原判示家屋に対する損壊行為に引き続き同一機会に同一家屋内の戸障子等に対する損壊行為をなしたものであるから、建造物損壊と器物毀棄の別罪を構成するものでないというのであるが、家屋に対する損壊行為は当然にその家屋内の戸障子等に対する毀棄を伴うものでなく、しかも原判決挙示の証拠によれば、被告人は原判示の如く判示家屋内の鴨居大黒柱等をのこぎりでひいたり、斧で切って傷つけ、もって同家屋を損壊し、更に同家屋内の判示戸障子等を毀棄したものであって、右損壊と毀棄とは同一の行為に出たものでなく別個独立の行為によるものであることが明らかであるから、両者は併合罪を構成するものであって、前者が後者を吸収したり、両者を接続犯又は包括一罪の関係をもって論ずべきでない
と判示しました。
大審院判決(明治35年2月7日)
裁判官は、
- 建造物を破壊し、なお器具を毀棄したる場合において、特に器具毀棄の意思ありとするときは、建造物毀棄及び器物毀棄の二罪を構成す
と判示しました。
建造物損壊罪と器物損壊罪が観念的競合とされる場合
建造物損壊行為と器物損壊行為が、別個独立の行為ではなく、1個の行為と評価できる場合は、建造物損壊罪と器物損壊罪は、両罪が成立し、両罪は観念的競合になると考えられます。
例えば、ハンマーを一振りして、柱と戸の両方を同時に損壊した場合が該当します。
住居侵入罪と建造物損壊罪の関係
建造物の天井に穴を開けて建造物の内部に侵入した場合、建造物損壊罪と住居侵入罪(刑法130条)の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとされます。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
札幌地裁判決(昭和40年9月20日)
窃盗の目的で売店の共同便所天井1か所、食堂天井2か所、商店天井1か所、青果物買出人協同組合天井2か計6か所をこわれたペンチの先で順次突き破り、それぞれ長径50センチメートル、短径30センチメートル内外の不整円形の穴をあけ、建造物を損壊するとともに、右共同便所の天井にあけた穴から天井裏を通って、売店内に侵入し、同売店内の食堂において現金など窃取し、青果物買出人協同組合倉庫においてちり紙などを窃取した事案です。
裁判官は、
- 建造物損壊と住居侵入は、1個の行為で2個の罪名に触れる場合である
とし、建造物損壊罪と住居侵入罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしました。
② 加重逃走罪と建造物損壊罪の関係
勾留された被疑者や被告人が、収容されている刑事施設の天井の一部を損壊して逃走を企てた場合、建造物損壊の点は加重逃走罪(刑法98条)の構成要件的評価の対象に包含され、加重逃走罪のみが成立します。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
金沢地裁判決(昭和57年1月13日)
既決、未決の囚人が逃走のため拘禁場の天井の一部を損壊した場合、加重逃走罪のほか建造物損壊罪が成立するかが争われた事例です。
裁判官は、
- 検察官は、判示所為について加重逃走未遂罪の外に建造物損壊罪の成立を主張するが、本件事案の如く、既決、未決の囚人が拘禁場である建造物の天井の一部を損壊して逃走を企てた場合については、右建造物損壊の点は加重逃走罪の構成要件的評価の対象に包含されているものと考えるのが相当であるから、本件においては加重逃走未遂罪が成立するにとどまり、別個に建造物損壊罪は成立しないものと解する
と判示しました。
③ 窃盗罪と建造物損壊罪の関係
建造物の解体材料を領得する目的で他人の工場を解体し、その材料を領得した場合には、窃盗罪(刑法235条)と建造物損壊罪の両罪が成立します。
参考となる判例として以下のものがあります。
裁判官は、
- 建造物の解体材料を領得する目的で、他人の工場を解体し、その材料を領得した場合には、窃盗罪のほかに、建造物損壊罪が成立する
としました。
また、建造物損壊は、窃取行為の手段として通常用いられるべき行為ということはできないので、建造物損壊罪と窃盗罪は牽連犯の関係にはならないとされます。
この点を判示したのが以下の判例です。
裁判官は、
- 原判決は、認定事実第一において、建造物損壊を認め、これを独立の犯罪として取り扱ったものである
- 判示の右事実は必ずしも窃盜罪の性質上その手段として通常用いらるべき行為ということはできないから、原審はこれを刑法第54條にいわゆる犯罪(窃盜罪)の手段と見ずして独立の犯罪として取り扱ったのは正当である
と判示しました。
上記2つの判例から、窃盗目的で建造物を損壊して建造物内に侵入し、建造物内にあったものを盗んだ場合、建造物損壊罪と窃盗罪の両罪が成立し、両罪は併合罪の関係になるといえます。
④ 騒乱罪と建造物損壊罪との関係
騒乱罪(刑法106条)における暴行・脅迫行為の際に建造物損壊が行われれば、騒乱罪と建造物損壊罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合となります。
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(大正8年2月6日)
裁判官は、
- 建造物損壊の行為は、たとえ騒乱の際行われたりとするも、騒乱罪の構成要素をなすものいあらずして、別個独立の犯罪に触れるものとす
と判示しました。
⑤ 内乱罪と建造物損壊罪との関係
内乱罪(刑法77条)との関係では、建造物損壊罪は内乱罪に吸収されると考えられます(学説)。
⑥ 艦船破壊罪と建造物等損壊罪との関係
人の現在する艦船を破壊したときは、艦船破壊罪(126条2項)と建造物等損壊罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとされます(学説)。
⑦ 殺人罪・傷害罪と建造物損壊致死傷罪の関係
建造物損壊致死傷罪(刑法260条)で殺傷の故意があるときは、建造物損壊致死傷罪と殺人罪(刑法199条)又は傷害罪(刑法204条)の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとされます(学説)。