電子計算機使用詐欺の後段の「財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供し」とは?
電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の後段は、
財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた
行為を罰する規定です。
「財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供し」とは、
行為者が真実に反する財産権の得喪・変更に係る電磁的記録を他人の事務処理に使用される電子計算機において用い得る状態に置くこと
を意味します。
具体的には、たとえば、
- 財産権の得喪・変更に係る備付型の元帳ファイルが人の事務処理に用いられているような場合に、内容虚偽のファイルを作ってこれを正規なものと差し替え、いつでも当該人の事務処理に用いられ得る状態に置くこと
- 残度数を増やすように改ざんした虚偽のテレホンカードを公衆電話機の差込口に挿入すること
が該当し、これらの行為をすれば、電子計算機使用詐欺罪の後段の犯罪が成立します。
これに反して、改ざんや変造ではなく、拾得や窃取したプリペイドカードを使用して財産上の利益を得たとしても、それだけでは虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供したとはいえないし、虚偽の情報又は不正の指令を電子計算機に与えたものとはいえません。
拾得したカードを使用すると、度数が減額されて記録内容が変わるものの、それはカード自体の残度数を客観的に記録しているものと考えられるので、虚偽の記録とはいえず、更にこれを使用したとしても、財産権の得喪・変更に係る虚偽の電磁的記録を用いたとはいえません。
なので、このような場合には、電子計算機使用詐欺罪の後段の罪は成立しません。
電子計算機使用詐欺罪の後段の罪は、有価証券偽変造・同行使罪で処分されることが多い
電子計算機使用詐欺罪の後段に当たる典型的な事例として、変造したテレホンカードやパッキーカード等のプリペイドカードの不正使用が挙げられます。
ただ、この種の行為は、有価証券偽変造・同行使罪にも該当する行為である上、電子計算機使用詐欺罪の前段の電子計算機使用詐欺罪の手段としてなされることが多く、実務上はほとんどの場合、有価証券偽変造・同行使罪や電子計算機使用詐欺罪の前段の罪で処理される傾向にあります。
そのため、電子計算機使用詐欺罪の後段が適用された判例はあまりありません。
電子計算機使用詐欺罪の後段が適用された判例
電子計算機使用詐欺罪の後段が適用された判例として、以下の判例があります。
東京地裁判決(平成24年6月25日)
この判例は、自動改札機を使用した不正乗車の事案です。
東京都内の鶯谷駅等において、130円区間有効の乗車券(本件乗車券)を購入し、これを自動改札機に投入して入場して列車に乗車し、栃木県内の宇都宮駅において、あらかじめ購入していた宇都宮駅の東京方面、福島方面の各隣駅(雀宮,岡本)間の回数券(本件回数券)を自動改札機に投入して出場し、その後、宇都宮駅で180円区間有効の乗車券を購入し、これを自動改札機に投入して入場して列車に乗車し、東京都内の渋谷駅において本件乗車券を自動精算機に投入して精算手続を行って精算券を入手し、これを自動改札機に投入して出場したというものです。
本件では、使用した乗車券、回数券は不正な改変がなされていないため、虚偽といえるかが問題となりましたが、裁判所は、
- 自動改札システムの目的・機能等に照らし、入場情報がない本件回数券を宇都宮駅の自動改札に投入する行為は、実質的には、宇都宮駅の自動改札機に対し、本件回数券を持った旅客が有効区間内の自動改札機未設置駅(岡本駅)から入場したとの入場情報を読み取らせるものであって、この入場情報は、被告人らの実際の乗車駅である鶯谷駅と異なるのであるから、本件回数券の電磁的記録は、自動改札機の事務処理システムにおける事務処理の目的に照らし、虚偽のものであるといえる
- 本件乗車券は、発駅を鴬谷駅とし,、これらの駅で入場したとの入場情報がエンコードされたものであって、復路の渋谷駅の自動精算機に投入される場面において、自動精算機の事務処理システムにおける事務処理の目的に照らし、被告人らの実際の乗車駅である宇都宮駅と異なる虚偽のものである
として、電子計算機使用詐欺罪の後段の罪の成立を認めました。