「正しさ」を認める要素→情報の整合性である
何が正しくて、何が正しくないかを、脳はどのようにして認知するのでしょうか?
答えは、情報の整合性です。
脳は、情報の整合性をもって、「正しさ」を認知するのです。
情報が整合するものに、人は、
- 心地よさ
- 安心感
- 納得感
を感じます。
それらの感情が、「正しさ」という認知を作り上げるのです。
つまり、人は、‶ 情報の整合性がとれているもの ″ を ‶ 正しい ″ と認めるのです。
「正しさ」を認める要素は、情報の完全性ではない
あなたが新規に配属された会社において、Bさんから以下のような質問を受けました。
「Aさんは良いチームリーダーになれると思いますか?Aさんは、頭が良くて、社交的で、意志力も強い…」
あなたの頭の中に、すぐさま浮かんできた答えは、もちろんイエスです。
これは、脳が、その時点で入手できた情報に基づいて、ベストの答えを瞬時に導き出すためです。
しかし、その後に、Bさんから「でもAさんは、金に汚くて、陰で人の悪口を言うけど」と話が続いたらどうでしょう。
Aさんは良いチームリーダーになれる→イエスと出した答えは、くつがえります。
ポイントは、脳は、手持ちの情報で ‶ 正しさ ″ を判断するということです。
脳は、「情報の完全性」で ‶ 正しさ ″ を判断するわけではなく、「情報の整合性」で ‶ 正しさ ″ を判断するのです。
情報の完全性による判断は困難
情報の完全性をもって、‶ 正しさ ″ を判断するのが理想的です。
しかし、現実は、情報の完全性をもって、‶ 正しさ ″ を判断しません(できません)。
完全な情報を集めようとしたら、世の中のあらゆる事象を調べあげなければなりません。
人の動きや、情報の変化も考慮しなければなりません。
それは、人ひとりの能力では不可能なことです。
完全な情報を集めることに、時間と労力を投下している暇はないのです。
よっては、人は、「情報の完全性」ではなく、「情報の整合性」をもって‶ 正しさ ″ を判断するのです。
自分の見たものがすべて
スタンフォード大学で、人の「自分の見たものがすべて」と考える思考傾向の調査が行われました。
訴訟のシュミレーションにおいて、
- 片方の弁護士からの一方的な証拠だけを与えられたグループ(片方の証拠グループ)
- 双方の弁護士からそれぞれの証拠を与えられたグループ(双方の証拠グループ)
とで、被験者がどのような反応をするかを観察しました。
結論
片方の証拠グループは、双方の証拠グループより、自分の判断に自信を持った
片方の証拠グループは、片方のみ弁護士から与えられた一方的な情報だけで作り上げたストーリーのつじつまが合っているものだから、自信を持ったということです。
ストーリーの出来で重要なのは、情報の量ではありません。
情報の整合性です。
少ない情報でも、手持ちの情報の整合性がとれれば、出来の良いストリーを作り上げることができます。
全ての情報をそろえて、情報の完全性を目指す必要はないのです。
むしろ、手元に情報が少ししかないときの方が、うまいこと全ての情報を筋書き通りにはめ込むことができ、都合が良い場合が多いです。
脳は、限られた手元の情報に基づいて結論にとびつきます。
だから、自分の見たものがすべてだと決めてかかり、見えないものは存在しないとばかりに、探そうともしません。
あなたの周りにも、自分の考えに固執する人がいると思います。
自分の考えに固執する人は、自分の手持ちの情報がすべてであり、ほかの情報は存在しないものとして扱っているのです。
正しさで大切なのはストーリー
すべての情報は、すぐに嘘と分かって却下されるもの以外は、情報の整合性で正しさが判断されます。
大事なのは、整合のとれたストーリーになっているかどうかです。
そのストーリーは、入手できた手持ちの情報からこしらえられます。
ポイントは、整合がとれたストーリーになっていれば、ほとんどの人は、たとえ入手できた情報の量が少なく、質が疑わしくても、そのことを問題にしないということです。
情報の量や質を疑うことができる人は少数派です。
人は、現実第一主義であり、見たものがすべてという思考をするからです。
(捕捉)脳は自動でストーリーを組み上げる
脳は、関連性や因果関係を見つけたとたん、「見たものがすべて」効果が発動し、入手できた情報だけに基づいて、考えられる限りで最善のストーリーを瞬時に自動で組み上げます。
入手できた情報だけを使って、自動でストーリーをこしらえる思考は、日常生活で頻繁に行われているので、意識して気づけると良いと思います。
(追記)「自分の見たものがすべて」に関するバイアス
「自分の見たものがすべて」という思考は、情報の整合性をとりやすく、正しさの認知が容易になるので、楽です。
だからこそ、バイアス(偏見、固定観念などによる思考エラー)に陥りやすいので、気をつける必要があります。
「自分が見たものがすべて」に関するバイアスを2つ紹介します。
バイアスの存在を知っているだけで、バイアスを回避できる可能性が高まります。
① 自信過剰
情報伝達や意思決定に関し、自信を裏付けるのは、筋の通った説明です(情報の整合性がとれ、つじつまが合っているかどうかです)。
自分の中で、情報の整合性がとれていれば、ほとんど何も見ていなくても、もっともらしい説明ができ、自信たっぷりになれます。
そのため、判断に必須の情報が欠けていても、それに気づきません。
それどころか、自分の考えを反証する新しい情報が出てこようものなら、不快感を感じ、自分の手持ちの情報の一貫性をキープするため、その新しい情報を排除しようとします。
そして、「自分の見たものがすべてだ」という思考に凝り固まります。
これが自信過剰が生まれるメカニズムです。
② フレーミング効果
同じ情報でも、提示の仕方が違うだけで、違う感情がかき立てられます。
同じことを言っているにもかかわらず、「〇〇の伝染病にかかった場合の生存率は90%です」の方が、「〇〇の伝染病にかかった場合の死亡率は10%です」より心強く感じます。
同様に、飲料水に「糖質90%オフ」と表示してあったら、「糖質10%含有」よりダイエットに良さそうに感じます。
両者が同じ意味であることは、すぐに分かるのですが、たいていの人は表示されている通りにしか見ません。
「見たものが全て」になるのです。
この現象がフレーミング効果です。
フレーミング効果は、実質的に同じ意味を現す選択肢であっても、その表現方法が異なるだけで全く逆の選択を人にさせます。