刑法(総論)

犯罪の成立要件 ~「構成要件該当性、違法性、有責性」「違法性阻却事由」~

 犯罪はどのようにして成立するのでしょうか?

 犯罪の成立要件を知らず、いつの間にか自分が犯罪者になっていた…なんてことにはなりたくないですよね。

 犯罪の成立要件は決まっているので解説します。

3つの要件がそろうと犯罪は成立する

 犯罪は

  1. 構成要件該当性
  2. 違法性
  3. 有責性

の3つの要件がそろったときに成立します。

 犯罪の成否は、①構成要件該当性→②違法性の有無→③有責性の有無の順番で考えるのが基本になります。

 では、一つずつ見ていきましょう。

1 構成要件該当性

 一つ目の構成要件該当性について説明します。

 構成要件とは、

刑法などの法律に規定されている犯罪の成立要件

をいいます。

 たとえば、窃盗罪(万引き)は、刑法235条に以下のように規定されています。

刑法235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 この条文に記載されている他人の財物を窃取したの部分が、構成要件になります。

 構成要件とは、犯罪行為の型(類型)を定めたものと考えればOKです。

 鬼滅の刃でいうところの「壱ノ型」「弐ノ型」…のように、条文の中で『型』が定まっているのです。

 犯罪行為の型に当てはまる行為をすると、犯罪の構成要件に該当する行為をしたことになり、犯罪者になる大きな一歩を踏み出したことになります。

 逆にいえば、犯罪の型(構成要件)に当てはまらない行為であれば、どんなに悪い行為をしたとしても、犯罪者になることは100%ないということです。

 たとえば、コロナウィルスに感染した状態で、スーパーなどの人の多いところに行き、多くの人をコロナ感染させたとしても犯罪にはなりません(令和3年1月現在)。

 そのような犯罪の型が法律に規定されていないからです。

 ちなみに、法律に規定がないことは、どんなに悪質なことをやっても罪に問われないルールを「罪刑法定主義」といいます。 

2 違法性

 『他人の財物を窃取した(万引き)』などの構成要件に該当する行為をしたとしても、まだ犯罪者として確定していません。

 まだ善良な国民でいられる望があるのです。

 犯罪に該当する行為をやってしまったとしても、その行為に違法性がなければ、犯罪は成立しないのです。

 それでは、犯罪の成立要件の2つ目の「違法性」について説明します。

違法性とは?

 違法性とは、

法律で規定する「~してはならない」「~せよ」という禁止・命令の規定に違反すること

をいいます。

 例えば、

万引きをしてはいけない(窃盗罪)

してはいけないという禁止の規定に反する行為をすると、違法性のある行為となります。

 または、

建物から退去しなければならない(不退去罪)

しなければならないという命令の規定に反する行為をすると、違法性のある行為となります。

 ここまでをまとめます。

1 構成要件に該当する行為をする

2 行為に違法性が認められる

という段階までくると、犯罪者になることに大きく近づきます。

違法性阻却事由

 だがしかし、この段階で、犯罪者から逃れるルートが存在します。

 それは、「行為に違法性がない」と認めさせることです。

 「行為に違法性がない」と認めさせる要件を『違法性阻却事由』といいます。

 具体的に、違法性阻却事由とは、

のことをいいます。

 犯罪行為をしてしまっても、正当防衛か緊急避難が認められれば、その段階で無罪となります。

正当防衛

 正当防衛とは、

自分を守るために、やむを得ずにした反撃行為

をいいます。

 たとえば、『通り魔から包丁で切りつけられそうになったので、近くにあった鉄パイプで通り魔を殴りつけた』という場合です。

 鉄パイプで人を殴りつけてケガをさせれば傷害罪になりますが、正当防衛が認められれば、無罪となります。

緊急避難

 緊急避難とは、

危険を避けるために、やむを得ずにした犯罪行為

をいいます。

 たとえば、『道を歩いていたらトラックが突っ込んできたので、隣にいた通行人を突き飛ばして脇道に逃げ、トラックにひかれるのを回避した』ような場合です。

 突き飛ばされた通行人がケガをしたとしても、緊急避難が認められれば、傷害罪は成立せず、無罪になります。

3 有責性

 犯罪の成立要件の3つ目の有責性について説明します。

 有責性とは、

違法行為について、責任を問いうること(非難可能性)

をいいます。

 たとえば、

  • 幼児
  • 高度の精神病者

が殺人を犯したとしても、有責性がないため、無罪になります。

 有責性の有無は、「犯罪を犯した人を責められるか?」という観点から判断されます。

 善悪の区別がつかない幼児や、自我のない精神病者が人を殺したとしても、「わけが分からずやったことだから責任は問えないよね」となるわけです。

 ちなみに、有責性があり、刑事責任が問えることを、『責任能力がある』と表現されます。

 責任能力がある場合は、犯罪を犯した責任をとらせるため、刑務所に入れたり、罰金をとったりすることができることなります。

 2019年に京アニのスタジオにガソリンをまいて放火殺人を犯した犯人が鑑定留置(精神病がないか検査するため、病院などの施設に留置すること)されたのですが、これは有責性の有無(責任能力の有無)を調べていたわけです。

 素人目では、「鑑定留置なんてしなくても、犯人は明らかに責任能力があるだろ」と思うところですが、有責性の有無(責任能力の有無)は、犯罪の成否を左右する重要な要素なので、しっかりと鑑定留置して検査するのです。

 裁判になってから、凄腕の弁護士が「実は、犯人に有責性(責任能力)がなかった」なんてことを証明したら無罪になってしまうからです。

まとめ

 犯罪は、

  • 構成要件該当性
  • 違法性
  • 有責性

の3つの要素が全てそろったときに成立します。

 3つの要素のうち、一つでも欠ければ、犯罪は成立せず、無罪となります。

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