勾留延長請求とは?
逮捕された被疑者は、検察官が裁判官に対して行った勾留請求が認められ、勾留状が発付されると、10日間、警察署の留置施設で勾留されます(刑訴法208条1項)。
まずは、検察官は、この10日間のうちに、犯罪捜査を遂げ、犯人を起訴するように試みなければなりません。
勾留されている犯人を起訴できれば、勾留状の効力で、判決が出るまでの間、犯人(被告人)の勾留を続けることができるからです(刑訴法60条2項)。
しかし、捜査が思うように進まず、勾留期間10日の間に、犯人を起訴できないとなれば、検察官は、勾留期間の延長を裁判官に求めることができます(刑訴法208条2項、刑訴法規則151条)。
勾留期間の延長を裁判官に求めることを
勾留延長請求
といいます。
この勾留延長請求は、通常の事件であれば、最大で10日間の勾留期間の延長を請求できます。
つまり、最初の勾留期間10日と合わせると、被疑者を最長で20日間勾留できることになります。
※ なお、国を脅かす罪(内乱・外患・外交・騒乱に関する罪)を犯した犯人に対しては、さらに5日間勾留を延長することができ、被疑者の勾留期間は最長で25日間になります(刑訴法208条の2)。
勾留延長請求に対する準抗告(不服申立て)
勾留請求に対して裁判官がした判断に準抗告(不服申立て)ができるように、勾留延長請求に対しても、裁判官がした判断について、検察官または被疑者(弁護人)は準抗告をすることができます(刑訴法429条1項2号)。
「勾留請求却下に対する準抗告」と「勾留延長請求却下に対する準抗告」の違い
「勾留請求却下に対する準抗告」の場合は、準抗告の結果が出るまで、被疑者が釈放にならないように、検察官は「裁判の執行停止の申立て」ができました。
しかし、「勾留延長請求却下に対する準抗告」については、被疑者が釈放にならないようにするための「裁判の執行停止の申立て」ができない場合があります。
その場合とは、準抗告の申立て中に、勾留期間の10日が経過した場合です。
これは、最初の勾留期間は10日であり、この10日間が過ぎた時点で、被疑者を勾留できる法的根拠がなくなるため、被疑者の釈放しか選択肢がなくなるためです。
最初の勾留期間は10日が過ぎると、被疑者が釈放にならないようにするための「裁判の執行停止の申立て」をする余地がない状況になるのです。
裁判官に勾留延長請求を却下され、被疑者を釈放せざるを得なくなった場合、検察官はどうする?
前述のとおり、勾留延長請求が却下され、勾留期間の10日が経過してしてしまった場合、検察官は被疑者を釈放しなければなりません。
ここでもし、被疑者が殺人犯などの凶悪犯で、逃亡するおそれがある者だとしたら、釈放するわけにはいきません。
そこで、被疑者を釈放せずに、勾留を継続する策として、
被疑者を直ちに起訴して、起訴後に発付される新たな勾留状の効力で勾留を継続する
という方法があります。
被疑者を直ちに起訴して、裁判官から勾留状を発してもらうことができれば、被疑者の勾留を継続することができます(刑訴法60条2項)。
この点については、最高裁判例(昭和53年10月31日)『勾留の裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告』があります。
この判例の事案は、勾留延長請求が却下されたため、検察官は、被疑者を直ちに釈放しなければならないところ、
釈放せずに被疑者を起訴し、裁判官から新たな勾留状の発付を得て、あらためて被疑者(被告人)の勾留を継続した
というものです(刑訴法60条1・2項)。
この判例では、
新たな勾留状が発付されて、被疑者をあらためて勾留するまでの間に、勾留期間の10日を過ぎていたことが不当勾留だ
として争われました。
結論として、裁判官は、
検察官が被疑者を釈放せずに身体の拘束を続けたことは、裁判所が起訴後の勾留状を発付するための審判に必要であった
と判断し、被疑者を釈放せずに勾留を継続した一連の勾留の効力は有効であるとしました。
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