刑事訴訟法(捜査)

勾留とは?② ~「勾留質問」「勾留請求却下と被疑者の釈放命令」「準抗告(勾留の裁判に対する不服の申立て)」を刑事訴訟法で解説~

裁判官による勾留の手続(勾留質問)

 裁判官は、検察官から勾留請求を受けると、被疑者に対し、

勾留質問

を行います。

 勾留質問とは、

逮捕された被疑者の勾留の必要性を判断するために、裁判官が、被疑者に対し、事件に対する陳述を聴くこと

をいいます(刑訴法61条)。

勾留質問の流れ

 勾留質問は、裁判所で行われます。

 逮捕中の被疑者は、勾留質問を行うために、裁判所に連れて行かれます。

 勾留質問に際し、裁判官は、被疑者に対し、以下の権利告知や質問などを行います。

  1. 逮捕事実を告げる(刑訴法207条2項
  2. 弁護人選任権と被疑者国選弁護人制度の説明をする(刑訴法207条2項,3項,4項
  3. 逮捕事実に関する被告人の陳述(言い分)を聴く(刑訴法61条

 これらの手続を行い、裁判官は、被疑者を勾留する必要があると判断すれば、勾留状を発布します(刑訴法207条5項)。

 裁判官が発布した勾留状は、検察官の手元に届きます。

 勾留状が発布されたら、勾留状を被疑者に示して、速やかに勾留状に記載された勾留場所となる警察署の留置施設に連れて行く必要があります(刑訴法73条2項)。

 そのため、検察官は、速やかに勾留状の執行を指揮し、検察事務官、司法警察職員に勾留状を執行させ、警察署の留置施設において、被疑者の勾留を開始します(刑訴法70条)。

勾留請求却下と被疑者の釈放命令

 裁判官は、勾留質問の結果、検察官の勾留請求を却下し、勾留状を発布する判断をしない場合は、検察官に対し、直ちに被疑者の釈放を命じなければなりません(刑訴法207条5項)。

 その上で、勾留請求却下の裁判(判断)をします(刑訴法規則140条)。

 裁判官が、勾留状を発布せず、勾留請求を却下し、被疑者の釈放を命じる判断をするパターンは、以下の2つのパターンがあります。

1つ目のパターン

刑訴法60条1項の勾留理由(住居不定、罪証隠滅のおしれ、逃亡のおそれ)がないと認められる場合

2つ目のパターン

勾留請求の時間制限を超えている場合(刑訴法206条2項)。

 勾留請求の時間制限を超えている場合とは、 刑訴法203条1項204条1項205条1・2項の時間制限を超えている場合をいいます。

 刑訴法203条1項の時間制限とは、警察官が被疑者を逮捕した場合に、逮捕から48時間以内に被疑者を検察官に送らなければならないという時間制限です。

 刑訴法204条1項の時間制限は、検察官が被疑者を逮捕した場合に、逮捕してから48時間以内(かつ、逮捕してから72時間以内)に裁判官に勾留請求しなければならないという時間制限です。

 刑訴法205条1・2項の時間制限は、先ほどの刑訴法203条1項の規定により、警察官から被疑者の送致を受けた検察官は、送致を受けてから48時間以内に裁判官に勾留請求しなければならないという時間制限です。

勾留の裁判に対する不服の申立て(準抗告)

 検察官の勾留請求が却下されれば、被疑者を釈放しなければならなくなり、検察官にとっては都合が悪いです。

 また、勾留請求が認められてしまった場合は、釈放されたい被疑者にとっては都合が悪いです。

 このように、裁判官が行った勾留の裁判に対して不満がある場合は、裁判官に対し、不服を申し立てることができます。

 この勾留の裁判に対する不服申立てを

準抗告(じゅんこうこく)

と呼びます(刑訴法429条1項2号)。

検察官が準抗告する場合(裁判の執行停止の申立て)

 裁判官が勾留請求却下の判断をした場合に、検察官は、被疑者が釈放されるのを防ぐために、準抗告を行うことができます。

 この時、準抗告と同時に、検察官は「裁判の執行停止の申立て」を行うことになります(刑訴法424条432条)。

 その理由は以下の①~④の説明のとおりです。

① 勾留請求が却下され、裁判官から被疑者の釈放命令があると、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければなりません(刑訴法207条5項)。

② ここで、これから被疑者が釈放されまいとして準抗告を申し立てるのに、被疑者を釈放するわけにはいきません。

③ 被疑者を釈放してしまえば、逃亡していなくなってしまうかもしれません。

④ そこで、勾留請求却下に対する「裁判の執行を申立て」を裁判官に対して行い、被疑者を直ちに釈放しなければならない事態を食い止めるのです。

 裁判官が、勾留請求却下に対する「裁判の執行を申立て」を認めれば、検察官は、勾留請求却下に対する準抗告の結論が出るまで、被疑者を釈放しないことができます。

 準抗告の結果、裁判官が「やはり勾留の必要はない。釈放だ!」と判断すれば、被疑者は釈放されることになります。

 反対に、裁判官が「考え直したところ、被疑者を勾留する必要がある。勾留状を発布する!」と考えをあらためれば、勾留状が発布され、被疑者の勾留を開始することになります。

被疑者(弁護人)が準抗告する場合

 検察官がした勾留請求が認められ、裁判官が勾留状を発布した場合は、勾留されたくない被疑者は、準抗告を申し立て、釈放を求めることができます(刑訴法429条1項2号)。

 被疑者は、法律の素人ですから、被疑者自身の力で準抗告を行うのは難しいでしょう。

 なので、準抗告は、被疑者についている弁護人が行うのが通常と考えられます。

 被疑者(弁護人)が準抗告を行う場合は、検察官が行う準抗告と異なり、「裁判の執行を申立て」を行う必要はありません。

 「裁判の執行を申立て」は、準抗告の結果が出るまで、被疑者が釈放されることを待ってもらうための申立てです。

 被疑者(弁護人)が準抗告を行う場合は、この申立てが必要になる状況にありません。

 また、被疑者(弁護人)が行う準抗告は、犯罪の嫌疑がないことを理由に行うことはできません(刑訴法420条3項)。

 「犯罪の嫌疑がない」とは、「被疑者が犯人ではない」と主張することです。

  「犯罪の嫌疑がない= 被疑者が犯人ではない」ことは、これから裁判をやって明らかにしていくことなので、勾留の裁判の段階で争うことはできないのです。

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