過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(1)~「自動車とは?」「運転とは?」を判例で解説~

過失運転致死傷罪の考え方は業務上過失致傷罪と同じである

 自動車運転上の過失により人に死傷の結果を生じさせた場合、過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)が成立します。

 昔は、自動車事故により人を死傷させた場合、刑法211条前段の業務上過失致死傷罪で処罰していました。

 これが平成19年の法改正により、過失致死傷罪の加重類型として、自動車運転過失致死傷罪が刑法211条2項(現在は2項は削除されている)に設けられ、自動車運転過失致死傷罪で処罰するようになりました。

 さらに、平成25年に自動車運転死傷行為処罰法の成立に伴い、自動車事故により人を死傷させた場合、同法5条の過失運転致死傷罪で処罰するようになりました。

 このような経緯から、過失運転致死傷罪の構成要件は業務上過失致死傷罪と同一であり、その解釈も異なるところはありません。

 過失運転致死傷罪に当たる行為については、かつてはその多くが業務上過失致死傷罪で処理されていることから、その際の解釈が、過失運転致死傷罪においても先例となります。

 過失犯一般に関する考え方(過失、信頼の原則、因果関係など)は、業務上過失致死傷罪の考え方が当てはまります(業務上過失致死傷罪の解説については前の記事参照)。

自動車とは?

 過失運転致死傷罪における「自動車」とは、

原動機により、レール又は架線を用いないで走行する車両

を意味します。

 具体的には、

  • 四輪の自動車
  • 自動二輪車(バイク)
  • 原動機付自転車(スクーター

が該当します。

 なお、「自動車」の法的定義は、自動車運転死傷行為処罰法1条に定義規定が置かれていて、「道路交通法第2条第1項第9号に規定する自動車及び同項10号に規定する原動機付自転車をいう」と規定していますが、これを読み解くと上記のような理解になります。

電動アシスト自転車は「自動車」に当たらない

 電動アシスト自転車が過失運転致死傷罪の「自動車」に当たるかが問題となります。

 電動アシスト自転車は原動機によって人の力を補うものですが、原動機付自転車(スクーター)と異なり、原動機が人力と独立した形では作動せず、自走しない構造となっています。

 また、道路交通法施行規則1条の3により、その走行速度や原動機が人の力を補う能力が一定程度に制限されていることから、「自動車」には当たらないものと考えられています。

運転とは?

 過失運転致死傷罪におけるにおける「運転」とは、

自動車の運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロールの下において自動車を動かす行為を意味し、発進に始まり、停止で終わるもの

と解されています。

運転の場所は道路に限定されない

 道路交通法上は、運転とは「道路において、車両又は路面電車をその本来の用い方に従って用いることをいう」(道路交通法2条1項17号)とされており、場所的な限定があります。

 これが意味するところは、道路交通法違反の罪の成立を認めるに当たっては、違反場所が道路であることが必要になります。

 たとえば、酒気帯び運転を自宅の敷地内で行っても、運転場所が道路ではないので、道路交通法違反65条1項の酒気帯び運転の罪は成立しません。

 これに対し、過失運転致死傷罪は、場所が道路に限定されません。

 これは、道路における危険を防止する道路交通法とは異なり、過失運転致死傷罪は、人の生命・身体の安全を保護法益とするものであり、同罪の成立を認めるに当たり、道路上の運転に限定する必要がないためです。

 なので、事故の場所が道路でないことを理由として、過失運転致死傷罪の成立が否定されることはありません。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(平成17年5月25日)

 コンビニエンスストア敷地内駐車場において、車両を後退させて駐車区画に駐車する際に起こした人身追突事故を起こし、けがをした被害者を救護せず、警察にも事故を申告せず、その場から立ち去った事案です。

 裁判官は、車両の「道路」における交通に起因する事故ではないとして、道路交通法違反(被害者の不救護と事故の不申告)の成立を否定しましたが、業務上過失傷害罪(現行法:過失運転致死傷罪)は成立するとしました。

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