刑法(横領罪)

横領罪(15) ~「譲渡担保の目的物を『債務者』が領得すれば横領罪となる」「担保の目的物を『債権者』が領得した場合は、背任罪の成立が認められる」を判例で解説~

 今回の記事では、横領罪(刑法252条)に関し、

  • 譲渡担保の目的物を「債務者」が領得すれば横領罪となる
  • 担保の目的物を「債権者」が領得した場合は、背任罪の成立が認められる

ことについて説明します。

譲渡担保とは?

 譲渡担保とは、担保の目的となる財産を移転することによって信用授受の目的を達する制度です。

 担保の目的である権利(主として物の所有権)を、債務者もしくは物上保証人(譲渡担保設定者)が、債権者(譲渡担保権者)に移転し、債務弁済されると、その権利が設定者(債務者・物上保証人)に復帰します。

 しかし、債務不履行が生じると、確定的に債権者に権利が帰属します。

 このような形式をとる担保方法を「譲渡担保」といいます。

 担保の目的物の占有(言い換えると支配・管理)を、譲渡担保権者に移転するものと、譲渡担保設定者のもとにとどめるものがあります(前者を「譲渡質」、後者を「譲渡抵当」と呼ぶこともあります)。

譲渡担保の目的物の所有権の所在の考え方(所有権は債権者にあるのか?債務者にあるのか?)

 民事判例において、譲渡担保の目的物の所有権が、債権者にあるのか、それとも、債務者にあるのかついての考え方は、以下のとおり示されています。

 譲渡担保は第三者に対する外部的関係では、債権者に所有権を移転させ、内部的には移転せず債務者に所有権が残ります(いわゆる「外部的にのみ移転型」)(大審院判決 明治45年7月8日)。

 しかし、当事者間の意思表示によっては、外部関係におけるとともに、内部関係においても所有権を移転することもできるとされます(いわゆる「内外部ともに移転型」)(大審院判決 大正5年9月20日)。

 なお、当事者の意思がいずれか明らかではないときは、内外部とも移転型と推定するものと解されます(大審院判決 大正13年12月24日)。

譲渡担保の目的物を債務者が領得すれば、横領罪となる

 刑事の判例も、上記の民事の判例の区分を前提とし、横領罪の成否を決しています。

大審院判決(昭和8年11月9日)

 土地に関する外部的にのみ移転型の譲渡担保において、弁済期に弁済がなければ内部関係でも完全に債権者に移転することを約した場合、弁済期に支払がされなければ移転登記をしなくとも所有権は完全に債権者に帰属することになるので、登記を有する債務者がこれを売却すれば横領罪が成立するとしました。

大審院判決(昭和11年3月30日)

 山林を売渡担保とし、内部関係においては、所有権を2年間債務者に留保していた場合、その間に山林を占有していた債権者が他に売却すれば横領罪となるとしました。

名古屋高裁判決(昭和25年6月20日)

 売渡担保に供した宅地や家屋を占有保管中に、これをほしいままに売却すれば横領罪が成立するとしました。

長野地裁判決(昭和41年11月2日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他から担保物として使用する目的で借り受けた株券を、信用組合に譲渡担保として差し入れ、同組合から融資を受けたときは、特別の事情が見受けられない本件においては、株券の所有権は内外ともに同組合に移転したものと解される余地があり、株券を借り受けた者が株券に対する占有を有するとはいえず、横領罪を構成しない

としました。

担保の目的物を債権者が領得した場合は、背任罪の成立が認められる

 上記判例のおり、譲渡担保の目的物を、「債務者」が領得すれば、横領罪となります。

 これ対して、譲渡担保の目的物を、「債権者」が領得した場合はどうなるでしょうか?

 この点について、判例は、背任罪刑法247条)の成立を認めています。

大阪高裁判決(昭和55年7月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 譲渡担保として土地の所有権を譲渡され、自己名義に所有権移転登記を得て保全中、当該土地に根抵当権を設定して登記を了するなどしたら背任罪に当たる

としました。

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