前回の記事の続きです。
今回の記事では、横領罪の委託信任関係について、より詳しく説明します。
横領罪における委託信任関係の具体例
横領罪における委託信任関係は、使用貸借、賃貸借、寄託などの契約に基づくことが一般ですが、必ずしも契約に限られません。
法律上の義務として発生する委託信任関係を含む
横領罪における委託信任関係は、法律上の義務として発生する委託信任関係も含まれます。
具体的事例を挙げると、
- 後見人が被後見人の財産を保管する場合(大審院判決 明治35年7月3日)
- 株式会社の取締役が会社のすべての事務につき代表し、会社財産の管理保存について委託されている場合(大審院判決 明治38年3月13日)
が、法律上の義務として発生する委託信任関係となります。
事務管理・慣習・条理信義則に基づく委託信任関係を含む
横領罪における委託信任関係は、事務管理や、慣習・条理や、信義則に基づく委託信任関係でも構わないとされています。
この点について、参考となる判例として、次のものがあります。
仙台高裁判決(昭和28年10月19日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
東京高裁判決(昭和46年2月16日)
依頼者から、その所有する土地の売却斡旋を依頼され、土地の権利証、白紙委任状等の登記に必要な書類を預かっていた者が、売却交渉の便宜のため、依頼者の了解を得ないで自己名義への所有権移転登記を行った事例です。
裁判官は、事務管理として、自己名義に所有権移転登記をしたものとして、依頼者のために土地を占有していたものと認め、横領罪の成立を認めました。
東京高裁判決(昭和36年9月29日)
酩酊している相手が落とした腕時計を拾って保管していたところ、その腕時計を入質したことを、窃盗罪ではなく、横領罪と認定した事例です。
裁判官は、
- 被告人は、Bの保管にかかる同人の兄C所有の金側腕時計1個(価格約1万円相当)を拾得したが、当時Bが相当酩酊していたため、右時計をBに手渡しても再び遺失する懸念があったが、右時計を入質して金策することとし、質店に持参して入質した事実を認めることができる
- 果して然らば、被告人の右所為は、これを横領罪に問擬するは格別、窃盗罪をもつて処断すべきものとは認められない
旨判示し、占有保管中の物を領得したのだから、窃盗罪ではなく、横領罪が成立するとしました。
買い受けた油類の運搬途中に、警察官に現認され、その油類が盗品であるから所有者に無償返還するよう交渉を受けた者から依頼を受けた被告人が、その依頼者と共謀の上、警察官を欺いて、油類の返還を免れ、横領したという事案で、裁判官は、
- 依頼者が油類を取得するにつき平穏、公然、善意、無過失であったとしても、これが盗品又は遺失品であったとすれば、民法193条により2年間は所有者からの回復請求がなされ得るから、依頼者においては、盗品又は遺失品と気付いてから返還するまで、所有者のために、これを保管すべき法律上の義務があった
として、横領罪の成立を認めました。
この判例は、警察官から当該物件を所有者に無償返還するように交渉を受けた事実からすると、信義則ないし条理に基づく委託信任関係を認めたものと解し得るとの学説の意見があります。
次回記事に続く
続きは次回記事で書きます。
次回記事では、
- 委託信任関係は事実上のものであれば足り、法律上のものである必要はない
- 委託信任関係に基づかないものを横領しても、横領罪は成立しない
- 委託信任関係があると誤信しても横領罪は成立しない
ことについて説明します。