刑法(横領罪)

横領罪(5) ~「横領罪における動産の占有の認定に関する具体的事例」を判例で解説~

横領罪における動産の占有の認定に関する具体的事例

 横領罪(刑法252条)は、委託信任関係により、物の占有が犯人にある状態で、その物を領得することで成立します。

 なので、横領罪を認定するに当たっては、委託信任により、物の占有が犯人にあることが認定される必要があります。

 この記事では、横領罪における動産の占有の認定に関する具体的事例を紹介します。

① 郵便切手が貼ってある郵便物を委託されたときには、切手も同様に委託されたものとなり、その切手を領得すれば、横領罪が成立する(大審院判決 明治31年1月31日)

② 他人からノコギリを借り受けた者が、これを共同組合に使用させていても、ノコギリの占有は直接の借主に属し、これを領得すれば横領罪が成立する(大審院判決 大正3年6月6日)

受託者が、委任事務の処理により受け取り、委任者に引き渡すべき物も、委託を受けた金額物件に当たり、これを領得すれば横領罪が成立する(大審院判決 明治34年6月27日)

寄託者の依頼に応じて倉庫証券を発行した倉庫会社は、寄託者ではなく、その証券所持人のためにその寄託物を保管占有するため、寄託物を領得すれば横領罪が成立する(大審院判決 大正8年12月22日)

⑤ 他人から借り受けて乗り回していた普通乗用自動車のダッシュボードから、その他人名義の運転免許証を領得した事案で、約1日間自由に乗り回すことができ、その間、所有者の現実の支配の及ぶ可能性が極めて少なかった上、運転免許証は、その自動車の施錠のない場所に自動車の運行に必要で、時には呈示を求められる車体検査証等とともに入れられており、所有者においてそれを知って自動車を貸しているという事情のもとでは、所有者は自動車とともに包括的にその保管を委託して占有を移転していたとして、窃盗罪ではなく横領罪の成立を認めた(岡山地裁判決 昭和46年2月19日)

⑥ 旅客の宿泊客が利用する衣類、下駄、夜具類の占有は、宿泊客ではなく旅館に属し、旅館の衣類等を領得すれば、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する(最高裁決定 昭和31年1月19日

⑦ 古物商の店舗で顧客を装って衣類を着用して、小便に行ってくると告げて表に出て逃走した場合、衣服の占有は顧客ではなく、古物商にあり、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する(広島高裁判決 昭和30年9月6日

⑧ 図書館で館内閲覧のため貸出を受けた書籍の占有は図書館の管理者にあり、同書籍を領得すれば、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する(東京高裁判決 昭和48年9月3日)

⑨ アパートの所有者が使用していた居室を、タンス等が置かれたままの状態で入居したが、タンス等を近く搬出予定であると告げられ、その使用を許されていなかった場合には、アパート所有者がタンス在中の衣類に対する占有を有するとし、タンスの中を衣類を領得すれば、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する(東京地裁判決 昭和41年5月25日)

⑩ 小学校時代の同級生の家に数日滞在させてもらっていた者が、風呂屋に入っている間の留守番を頼まれても、その家具家財の占有は家人に属すとし、家人の家具家財を領得すれば、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する(名古屋高裁判決 昭和34年9月15日

⑪ 他人から一時スーツケースの監視を依頼されていても、スーツケースの占有は依頼者にあり、スーツケースを領得すれば、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する(東京高裁判決 昭和35年3月1日)

⑫ 同僚が夕食のため、近くの弁当屋に弁当を買いに行って帰ってくるまでの間、同僚から集金かばんを預かった場合、鞄に施錠がされていなくとも、かばん在中の現金の占有はかばんを預けた同僚にあり、かばん在中の現金を領得すれば、横領罪ではなく、窃盗罪が成立する(東京高裁判決 昭和59年10月30日)

会社役員などの保管責任者に対する物の占有の認定

 会社の取締役などの責任者については、職責上保管する会社の金員を占有する場合のように、一定の職務上の地位に基づいて占有の帰属が認められる場合もあれば、事情によっては占有が認められない場合もあります。

① 代表取締役が、会社の金員に対する占有を有していないとの主張に対し、原審では、決済を行っていた状況から占有を認め、控訴審では、代表取締役としての職務に照らしてそのような主張には理由がないとし、代表取締役の金員に対する占有を認め、横領罪の成立を認めた(原審 千葉地裁判決 平成8年6月12日、控訴審 東京高裁判決 平成11年3月1日)

② 代表権がある取締役であっても、副社長のような職については、社長業務全般を補佐するということから当然に会社資金に対する占有者になるものではなく、会社組織において現実になされている職務の実態を検討して判断しなげればならず、会社資金の管理に関係していないなどとして占有を否定し、横領罪の成立を否定した(東京地裁判決 昭和46年9月20日)

③ 取締役であっても、会社を代表する資格がない平取締役であって、営業に関して有料駐車場業部門の現場責任者として日常の業務を掌理していたにすぎず、会社の所有財産一般の管理等について包括的な権限を与えられていないなどとして占有者に当たらないとし、横領罪の成立を否定した(東京高裁判決 昭和42年12月26日)

④ 県の信用農業協同組合連合会の理事ないし代表監事に関し、同連合会の業務執行そのものについての権限はなく、事業推進費、業務管理費等の予算を業務上保管する立場にないとし、組合の金員の占有者に当たらないとし、横領罪の成立を否定した(東京高裁判決 昭和51年9月7日)

裁判所執行官が差し押さえた物に対する占有の認定

執達吏差押手続により動産を差し押さえ、封印を施したまま債務者の妻に看守を命じた場合には、その動産の占有は執達吏にある(大審院判決 大正6年2月6日)

仮処分の執行として執達吏保管中の自動車につき、その点検・整備のため移動許可を受けて一時占有していても、自動車の占有は執達吏にある(函館地裁判決 昭和40年9月16日)

次の記事

横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧

 横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧