刑法(横領罪)

横領罪(65) ~「横領被害者が親族の場合、告訴を要する(親族間の犯罪に関する特例)」「横領罪において告訴不可分の原則の考え方が取り入れられた事例」を判例で解説~

横領被害者が親族の場合、告訴を要する(親族間の犯罪に関する特例)

 横領罪は、一定の親族が被害者となる場合には、親告罪となり、横領犯人を起訴するのに告訴を要します(刑法255条)。

(親告罪と告訴についての詳しい説明は、前の記事参照)

横領罪において告訴不可分の原則の考え方が取り入れられた事例

 告訴不可分の原則とは、

  1. 犯人が複数人いる共犯事件で、犯人のうち一人の共犯者について、告訴をしたり、または、告訴を取消したときは、ほかの共犯者に対しても、告訴または告訴取消しの効力が及ぶこと(主観的告訴不可分の原則)
  2. 犯罪の一部について、告訴、または、告訴の取消しがあったときに、その犯罪全体について、告訴の効力が生じること(客観的告訴不可分の原則)

をいいます(詳しくは前の記事参照)。

 横領罪において、横領された被害品が共有物であり、その被害品の持ち主の一人が、犯人の親族であった場合、その横領罪は親告罪となり、犯人を起訴して処罰するためには、告訴がなされる必要があります。

 この場合の告訴について、親族である被害者の告訴がなくても、ほかの被害品の共有者の告訴があるのだから、その告訴は、不可分的に被害共有物全部に関する犯罪の訴追に対し効力を及ぼすから(客観的告訴不可分の原則)、他の共有者の告訴がなくとも訴訟条件の欠缺はないとした以下の判例があります。

最高裁決定(昭和35年12月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被害者Aの告訴は、法定の期間内に適法になされていることは記録上明らかである
  • しかも、共有者の一人が共有物に関する犯罪に対して告訴をしたときは、告訴人が被害共有物について有する持分の多少にかかわらず、その告訴は不可分的に被害共有物全部に関する犯罪の訴追に対し効力を及ぼすものであるから、被害者Aの告訴が存する以上、同人らの共有にかかる本件不動産の売却代金を被告人が着服横領したという事実につき審理判決するための訴訟条件に欠くるところは存しない

と判示し、訴訟手続に問題はないとしました。

 もっとも、親族である被害者からも告訴をとっていれば、有効な告訴を欠くとして裁判で争いになることはなったと考えられます。

横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧

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