刑事訴訟法(捜査)

告訴とは?③ ~「親告罪における告訴と公訴棄却判決」「主観的・客観的告訴不可分の原則」「告訴前の捜査」「告訴期間(犯人を知った日とは)」を判例などで解説~

親告罪において、告訴は必須! 告訴がなければ公訴が棄却される

 今回は、親告罪における告訴のポイントを説明します。

 親告罪(名誉棄損罪、器物損壊罪など)における告訴は、

告訴が訴訟条件になっている

ことがポイントになります。

 これは、親告罪は、

被害者からの告訴がなければ、犯人を裁判にかけることができない

ことを意味します。

 もし、親告罪において、被害者からの告訴がないのに、検察官が犯人を起訴したとしたら、裁判所は、訴訟条件を欠くとして、

公訴棄却の判決

(「裁判は行いませんよ!」という判決)

を出すことになります。

 刑訴法338条4に、

『公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるときは、判決で公訴を棄却しなければならない』

旨の規定があります。

 検察官が親告罪を起訴したのに、告訴がされていないという状態は、刑訴法338条4の『公訴提起の手続がその規定に違反したため無効である』に該当するため、公訴棄却の判決を受けることになるのです。

親告罪の告訴不可分の原則(「主観的告訴不可分の原則」と「客観的告訴不可分の原則」)

主観的告訴不可分の原則

 犯人が複数人いる共犯事件で、犯人のうち一人の共犯者について、告訴をしたり、または、告訴を取消したときは、ほかの共犯者に対しても、告訴または告訴取消しの効力が及びます。

 たとえば、A、B、Cの3人が共同して器物損壊罪を犯した場合で、被害者がAに対して告訴したとしたら、ほかのBとCにもその告訴の効力が及ぶことになります。

 このルールを

主観的告訴不可分の原則

といいます。

 被害者が、処罰を求めたい犯人を、被害者の主観で選んで告訴したとしても、告訴の効力は犯人全員に及び、一部の犯人だけを分けて処罰できないのです。

 根拠法令は、刑訴法238条Ⅰにあり、

『親告罪について共犯の1人又は数人に対してした告訴又はその取消は、他の共犯に対しても、その効力を生ずる』

と規定されています。

共犯者の一人が親族である場合、親族に告訴不可分の原則は適用されない

 共犯者の一人が、親・兄弟姉妹などの親族だった場合、親族ではない犯人に対してした告訴の効力は、親族には及びません。

 たとえば、A、B、Cの3人が共同して器物損壊罪を犯した場合で、Aが被害者の母親だっとします。

 被害者は、母親であるAを除く、BとCに対して告訴をしたとします。

 すると、告訴の効力は、BとCのみに対して及び、母親であるAには及びません。

 つまり、親族に対いては、告訴不可分の原則は適用されないのです。

 これは、「家族については許したい」という被害者の心情をくんだものと考えられます。

客観的告訴不可分の原則

 次に、客観的告訴不可分の原則について説明します。

 先ほど説明した主観的告訴不可分の原則は、

犯人単位で告訴が不可分である

という考え方でした。

 これから説明する客観的告訴不可分の原則は、

犯罪事実単位で告訴が不可分である

という考え方になります。

 それでは、客観的告訴不可分の原則を詳しく説明していきます。

 犯罪の一部について、告訴、または、告訴の取消しがあったときに、その犯罪全体について、告訴の効力が生じる原則を

客観的告訴不可分の原則

といいます。

 たとえば、犯人が家の中で暴れまわり、一連の行為でテレビと本棚を壊す器物損壊罪を犯したとします。

 このときに、被害者がテレビを壊した犯罪事実で犯人を告訴したとしても、その告訴の効力は本棚を壊した犯罪事実にも及ぶことになります。

 告訴の効力は、客観的に認定できる犯罪事実全体に及ぶのです。

 ちなみに、客観的告訴不可分の原則については、主観的告訴不可分の原則(刑訴法238条Ⅰ)と異なり、刑事訴訟法上の規定は置かれていません。

非親告罪に対しては、告訴不可分の原則は適用されない

 複数の犯罪が一罪を構成する犯罪の中に、非親告罪と親告罪が競合して存在する場合において、非親告罪である犯罪についてのみ告訴がされた場合は、告訴不可分の原則は適用されません。

 たとえば、近くに住むじいちゃんの家に侵入して窃盗をした場合、住居侵入罪・親族間の窃盗罪という一罪(科刑上一罪)が成立します。

 住居侵入罪は、非親告罪です。

 親族間の窃盗罪は、親告罪です。

 このとき、住居侵入罪の犯罪事実のみ告訴した場合、親告罪である親族間の窃盗罪の犯罪事実に対して告訴の効力は及びません。

 非親告罪と親告罪が競合する犯罪事実については、告訴不可分の原則は適用されないのです。

被害者が複数いる場合、被害者の一人がした告訴に告訴不可分の原則は適用されない

 被害者が複数人いる親告罪の犯罪事実について、被害者の一人がした告訴の効力は、ほかの被害者の犯罪事実にまで及ばす、告訴不可分の原則は適用されません。

 たとえば、犯人が、被害者A、B、Cの3人に関して、「A、B、Cは自己破産している」という1通の文書を世の中にばらまいて、1通の文書で被害者3人の名誉を棄損した(名誉棄損罪)とします。

 このとき、被害者Aが犯人を告訴したとします。

 被害者Aの告訴の効力は、自分自身であるAを被害者とする名誉棄損の犯罪事実のみに適用され、ほかの被害者B、Cの犯罪事実には適用されません。

 この点について、以下の判例があります。

昭和30年6月21日名古屋高裁判決

 数人の名誉を同時に1つの行為によって毀損した事案で、被害者の一部の者だけで告訴した場合、その告訴の効力は、ほかの被害者に関係する犯罪事実には及ばないとしました。

 裁判官は、

  • 親告罪である名誉毀損罪において、被害者の一部が告訴した場合、その告訴した被害者に対する犯罪についてのみ告訴が有効で、告訴をしない他の被害者に関係する部分にまで右の告訴の効力は及ぼさない
  • このことは、右の犯罪が処断上一罪と認められる場合においても同一であると解すべきものである

と判示しました。

法人と法人の代表者や従業員を罰する両罰規定が適用される犯罪において、告訴不可分の規定が定められている場合がある

 両罰規定とは、『法人に所属する法人の代表者や従業員が、法人の業務に関連して違法な行為をした場合、代表者や従業員個人だけでなく、法人も併せて罰せられる規定』をいいます。

 例えば、著作権法違反124条1項は、

  • 法人の代表者(法人格を有しない社団又は財団の管理人を含む。)又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する
  • 1号 第119条第1項若しくは第2項第3号から第6号まで(※著作権侵害の罪)又は第122条の2第1項(秘密保持命令違反の罪) 三億円以下の罰金刑
  • 2号 第119条第2項第1号若しくは第2号又は第120条から第122条まで 各本条の罰金刑

と規定しており、「法人」と「法人の代表者や従業員」の両方を処罰する規定を定めています。

 さらに、その条文の3項において、

  • 第1項の場合において、当該行為者に対してした告訴又は告訴の取消しは、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴又は告訴の取消しは、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする

として、「法人」に対してした告訴又は告訴の取消しは、「法人の代表者や従業員」に対しても効力を生じるとし、「法人」と「法人の代表者や従業員」の両罰規定が適用される犯罪について、告訴不可分の原則が適用される規定を置いています。

 このように、法人と法人の代表者や従業員を罰する両罰規定が適用される犯罪において、告訴不可分の規定が定められている場合があります。 

親告罪において、告訴がなくても捜査できるか?

 親告罪は、告訴がなければ、裁判を行うことができません。

 では、親告罪は、告訴がなければ、犯罪捜査もできないのでしょうか?

 結論は、そんなことはありません。

 告訴がなければ裁判はできないものの、告訴がなくても犯罪捜査はできます。

 これは、犯罪捜査をしてみなければ、犯罪事実や犯人を特定できない場合があるからです。

 根拠法令は、犯罪捜査規範70条にあり、

『警察官は、親告罪に係る犯罪があることを知つた場合において、直ちにその捜査を行わなければ証拠の収集その他事後における捜査が著しく困難となるおそれがあると認めるときは、いまだ告訴がない場合においても、捜査しなければならない。この場合においては、被害者またはその家族の名誉、信用等を傷つけることのないよう、特に注意しなければならない。』

と規定しています。

 ちなみに、被害者などの告訴権者が、「告訴しません」などと明確な意思表示をしている場合は、公訴提起の可能性がないので、捜査を行うべきではないとされています。

 なので、告訴がいまだない場合は、被害者などの告訴権者に対し、告訴する意志があるかどうか確かめる必要があります。

 この点に関し、犯罪捜査規範121条において、

『逮捕状を請求するに当たって、当該事件が親告罪に係るものであって、いまだ告訴がないときは、告訴権者に対して告訴するかどうかを確かめなければならない』

と規定されています。

親告罪の告訴期間

 親告罪の告訴期間は

犯人を知った日から6か月

です。

 犯人を知った日から6か月を過ぎてしまうと、告訴ができなくなります。

 根拠法令は、刑訴法235条にあり、

『親告罪の告訴は、犯人を知つた日から6か月を経過したときは、これをすることができない』

『ただし、刑法第232条第2項の規定により外国の代表者が行う告訴及び日本国に派遣された外国の使節に対する同法第230条又は第231条の罪につきその使節が行う告訴については、この限りでない。』

と規定さています。

告訴期間のない親告罪もある

 告訴期間のない親告罪もあります。

 刑訴法235条の規定により、

  • 外国の代表者が行う告訴
  • 日本国に派遣された外国の使節に対する名誉棄損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条

については、告訴期間の制限はありません。

親告罪以外の犯罪については告訴期間はない

 親告罪は、犯人を知った日から6か月という告訴期間がありますが、親告罪以外の犯罪については、告訴期間の制限はありません。

 究極的には、親告罪以外の犯罪については、公訴時効が完成するまで告訴することができます。

 公訴時効が完成した後に、告訴をしても、犯人を罪に問えない(公訴を提起することができない)ので、告訴をしても犯人を処罰できません。

「犯人を知った日」とは?

 「犯人を知った日」とは、

犯人が誰なのかを特定できる程度に知った日

を意味します。

 「犯人が誰なのかを特定できる程度」とは、犯人の名前、住所などを詳細に知り、犯人を個人として特定できる程度を指します。

 犯罪事実を知っても、犯人が誰であるかが特定できないうちは、告訴期間6か月の進行は開始されません。

 これについては、以下の2つの判例があります。

昭和39年11月10日最高裁判所判例

『「犯人を知った」 とは、犯人が誰であるかを知ることをいい、告訴権者において、犯人の住所氏名などの詳細を知る必要はないけれども、少くとも犯人の何人たるかを特定し得る程度に認識することを要するものと解すべきである』

昭和39年4月27日東京高等裁判所判例

『いわゆる犯人を知ったとは、犯人が何人であるかを知ったことをいい、犯人の氏名、年令、職業、住居等の詳細を知る必要はないが、少くとも犯人を他の者と区別して特定することができる程度に認識しなければならない』

『しかし、親告罪の告訴は、犯人との関係その他諸般の事情を考慮して決定されるものであり、特に犯人が誰であるかは、告訴の意思決定に重要な意味をもつものであるから、被害者がかかる考慮をなし得る程度に犯人を特定し得ない以上、未だ犯人を知ったとはいい得ないものと解すべきである』

共犯者を知った場合の告訴期間の進行

 犯人に共犯者が複数人いる場合は、共犯者を一人でも特定して知れば、「犯人を知った日」に該当し、告訴期間6か月の進行が開始されます。

 犯人は、犯罪を行た張本人(正犯者)、共犯者教唆者幇助者であるとを問わず、犯罪に加担したいずれかの人物が特定できた時点から、告訴期間の進行は開始します。

被害者などの告訴権者が複数人いる場合の告訴期間の進行

 被害者などの告訴権者が複数人いる場合は、一人の告訴権者ごとに告訴期間は進行します。

 たとえば、被害者A、B、Cの3人がいて、被害者Aだけが犯人を特定した場合、Aだけの告訴期間の進行が開始されます。

 被害者Aが犯人を特定しても、ほかの被害者B、Cが犯人を特定していないのであれば、BとCの告訴期間の進行は開始しません。

 ゆえに、被害者Aについて、告訴期間が経過し、被害者Aが告訴権を失っても、ほかの被害者BとCの告訴権は失われません。

 根拠法令は、刑訴法236条にあり、

『告訴をすることができる者が数人ある場合には、1人の期間の徒過は、他の者に対しその効力を及ぼさない』

と規定しています。

犯罪行為継続中に犯人を知った場合、犯人を知った日とは、犯行の終了日を指す

 犯罪行為継続中に犯人を知った場合、犯人を知った日の起算日は、犯行の終了日を指すことになります。

 このことは、以下の判例で示されています。

昭和45年12月17日最高裁判所判例

 裁判官は、

『「犯人を知った日」とは、犯罪行為終了後の日を指すものであり、告訴権者が犯罪の継続中に犯人を知ったとしても、その日を親告罪における告訴の起算日とすることはできない』

と判示し、犯人を知った日の起算日は、犯行の終了日を指すとしました。

平成16年4月22日大阪高等裁判所判例

 ホームページの掲示板に自分の名誉を棄損する書き込みがあることを知った被害者が、犯人を知ってから6か月を経過した後に告訴をしたため、告訴の有効性が争われた事案で、裁判官は、

  • 刑訴法235条1項にいう「犯人を知った日」とは、犯行終了後において、告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい、犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって告訴期間の起算日とされることはない
  • 本件記事は、サーバコンピュータから削除されることなく、利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであった
  • よって、被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから、このような類型の名誉棄損罪においては、既遂に達した後も、未だ犯行は終了せず、継続している
  • そして、被害者の本件告訴は、犯罪が終了した後6か月以内であることが明らかであるから、適法である

旨を判示しました。

警察が、告訴期間内に告訴状を徴せず、告訴調書も作成しなった処理は著しく適性を欠いたものであるが、告訴権者から司法警察員に対し、口頭による告訴が行われたことが認められるとした判例

平成24年10月2日東京簡易裁判所判例

【事案の内容】

 交通上のトラブルから、犯人に車を蹴られて傷つけられた被害者が、被害当日に、警察に対し、「車を蹴られたので訴えたい。被害届を出したい。」と申し出た。

 その後、警察は捜査を開始した。

 捜査は進められていたが、告訴期間(犯人を知った日から6か月)が徒過した後に、警察官が告訴状が受理されていないことに気づいた。

 告訴状は、被害者が犯人を知った日から約7か月後に受理された。

【裁判官の判断】

 裁判官は、

  • 被害者は、本件犯行当日から、司法警察員に対し、一貫して犯人である被告人の処罰を求める意思を表示していたものである
  • しかし、犯人が当初から判明していたにもかかわらず、警察の処理として、告訴状を徴することも、公訴調書が作成されることもなかった
  • 刑事訴訟法241条は、告訴の存在を告訴状又は告訴調書によって明確にしておくことを要求する趣旨であると解されるから、警察の本件における親告罪の処理は、著しく適性を欠いたものと言わざるを得ない
  • しかしながら、本件事件が発生した日に、告訴権者である被害者によって、司法警察員に対し、口頭による告訴が行われたものと認めることができる
  • したがって、告訴の効力の効力を認めることができる

旨を述べ、警察が、告訴期間内に告訴状を徴せず、告訴調書も作成しなった処理は著しく適性を欠いたものであるが、告訴権者から司法警察員に対し、口頭による告訴が行われたことが認められるとして、器物損壊罪の成立を認めました。

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