前回の記事では、緊急避難(自分を守るために行った避難行為)について書きました。
今回は、過剰避難について書きます。
過剰避難とは
過剰避難とは、
行き過ぎた緊急避難行為
をいいます。
緊急避難が認められるためには、
- 危険を避けるための必要な唯一の方法であって、ほかに方法がなかったこと(補充の原則)
- 避難行為によって侵害された法益(守られるべき権利)が、避難行為によって危険から免れた法益よりも大きくなかったこと(法益権衡の原則)
が必要になります。
平たくいうと、緊急避難が成立するためには、避難行為が必要最小限である必要があるのです。
避難行為が必要最小限の限度を超えると、過剰避難となります。
過剰避難になるとどうなる?
緊急避難が認められれば、違法性が阻却され(違法ではないとされ)、犯罪が成立しません。
たとえば、自分に向かって突っ込んできた車を避けるために、隣にいた通行人にぶつかってケガをさせても、緊急避難が認められれば、傷害罪は成立しません。
しかし、過剰避難になると、そうはいきません。
過剰避難になると、違法性が阻却されず(違法とされ)、犯罪が成立します。
たとえば、山登りをしていて、山頂からサッカーボールくらいの石が転がってきたので、隣にいた友人を突き飛ばして石を避けた結果、友人を谷底に転落させて死亡させた場合、緊急避難は成立せず、過剰避難となり、過失致死罪が成立する可能性があります。
過剰避難となっても刑が減軽・免除され得る
過剰避難になると、違法性が阻却されず、犯罪は成立しますが、情状によって、刑を減軽または免除されることがあります(刑法37条1項ただし書き)。
これは、避難者は、危険にさらされ、やむを得ず避難行為をしたのであるから、違法性が阻却されないにしても、違法性が減少することがあるためです。
過剰避難の判例
過剰避難の成立を認めた判例として、堺簡易裁判所判決(S61.8.27)があります。
熱が出た8歳の娘を病院に連れて行くため、制限速度50キロの道路を33キロオーバーの88キロで走行した速度違反の事件について、過剰防衛を認め、刑を免除しました。
これに対し、似たような事件で過剰避難が認められなかった東京高裁判決(S46.5.24)もあります。
急病人を無免許運転をして、約10キロメートル先の病院に連れていった事件について、無免許運転は、危険を避ける唯一の手段ではなかったとして、過剰避難は成立しないとした判例があります。
過剰避難になるかどうかは、個別の事件ごとに判断されることになります。
次回
次回は、誤想避難、誤想過剰避難について書きます。