法律(刑法)

財産罪における財物性とは? ~「財産罪の種類」「財物性の要件」「財物性が認められたもの、否定されたもの」「禁制品・不法原因給付物の財物性」を判例で解説~

財産罪とは?

 財産罪とは、

他人の財物を侵害する罪

をいいます。

財産罪の種類

 以下の犯罪が、財産罪に分類されます。

財物性とは?

 被害に遭った財物に、財物といえるだけの価値がなければ、犯罪(財産罪)は成立しません。

 この財物といえるだけの価値を

財物性

といいます。

 たとえば、被害者があとでゴミ箱に捨てようとしてバッグに入れていた使用済みティッシュを、窃盗犯人が盗んでも、使用済みティッシュには財物性がないため、窃盗罪は成立しないと考えられます。

 このように、犯罪の被害品に、財物性があるかどうかが、財産罪の成立の可否を分ける重要な判断基準になるのです。

財物性が認められる要件

 財物性は、

所有権の目的となり得るもの

という性質があれば認められます。

 さらに、財物性は、

経済的価値、金銭的価値はなくても、財物性は認められる

という点にポイントがあります。

 最高裁判例(昭和25年8月29日)において、

  • 強盗罪、窃盗罪において、奪取行為の目的となる財物とは、財産権、ことに所有権の目的となり得べき物を言い、それが金銭的ないし経済的価値を有するや否やは問うところではない

と判示しています。

 物に、客観的な経済的価値、金銭的価値がないからといって、財物性は否定されません。

 さらに、経済的価値・金銭的価値がないものでも、所有者にとって、

感情的価値、主観的価値

があれば、財物性が認められます。

 たとえば、ラブレターです。

 ラブレターは、経済的価値があるかどうかは微妙なところですが、所有者にとっては、感情的価値があります。

 経済的価値はなくても、感情的価値がある物についても、社会通念上、刑法的保護に値すると認められるときは、財物性があると認められます。

 なので、ラブレターを盗まれた場合、ラブレターには財物性ありと認められるので、窃盗罪が成立します。

 さらに、感情的価値、主観的価値は、ラブレターのように強い思い入れを抱くような積極的な価値でなくても構いません。

 たとえば、自分の秘密を記した日記のように、

他人の手に渡ったら、悪用されたり、羞恥心を感じるような消極的な価値があるもの

でも、感情的価値、主観的価値があるとして、財物性が認められます。

判例上、財物性が認められたもの

レシート(買上券)

 東京高裁判例(昭和36年7月4日)において、裁判官は、

  • 買上券なるものは、百貨店が顧客に対して発行した買上商品に対する代金の支払を証明する文書であって、それ自体の性質からしても独自の使用価値なしとすることはできない
  • また、その商品の返品、交換等に際しても、これが当該店舗で買つたものであることを証する資料となることは、われわれの日常経験するところであって、これをもって法律上保護に値する使用価値なしとすることはできない

と判示し、レシートの財物性を認めています。

消印済みの収入印紙

 最高裁判例(昭和30年8月9日)において、裁判官は、

  • 使用済の印紙であっても、財物であって盗罪の目的となりうる

と判示、使用済み収入印紙の財物性を認めています。

パチンコ玉

 名古屋高裁判例(昭和28年10月14日)において、裁判官は、

  • 商品と交換する以前においても、パチンコ玉はそれ自体相応の経済的価値を有し、財産的評価の対象となり得る
  • したがって、パチンコ玉は明らかに独立して財産権の目的となる

と判示し、パチンコ玉の財物性を認めています。

その他、判例上、財物性が認めらたもの

【証書類】

  • 賃貸証書
  • 委任状
  • 債権者の入手する前の債券証書
  • 債券債務の性質をもっている詫び書
  • 第三者の名あて人とした金員借用証書
  • 債務引受書
  • 売渡登記済証
  • 他人の物の売渡証書
  • 不動産の権利証
  • 為替証書
  • 先日付小切手
  • 保険証券
  • 銀行預金通帳

【証券類】

  • 法律上無効な切手・小切手
  • 保険契約が無効な場合の保険証券
  • 民法上無効であるが、外形上権利義務を証明するに足りる証書
  • 使用済みの乗車券

【用紙類】

  • 衆議院議員投票用紙
  • 村議会議員投票用紙
  • 小切手用紙
  • 印鑑証明用紙
  • 他人あての文書作成の用に供すべき白紙
  • 大学入試試験問題用紙
  • 競馬勝馬予想表
  • 犯行時以降の競輪の記事をも搭載した競輪に関する新聞紙
  • 情報が印字された用紙

 財物性の基本的な考え方として、

経済的価値も感情的価値も全くないといえない限りは、財物性は幅広く認められる

と捉えることができます。

判例上、財物性が否定されたもの

  • 野生の動物
  • 海、河川の水・砂利

などのように

民事上の所有物の目的となり得ないもの

については、判例上、財物性が否定されます。

 東京地裁判例(昭和32年9月20日)では、

  • 野生の動物、海・河川の水、砂利などのように民事上の所有物の目的となり得ないものは、財産罪の保護の対象にはならない

と判示しています。

 最高裁判例(昭和32年10月15日)では、

  • 地方行政庁が河川を管理するという一事によって、河川敷地内に存し移動の可能性ある砂利等を当然に管理占有することによるものではない
  • 砂利等は、流水の変化に伴ない移動を免かれないので、その占有を保持するため他に特段の事実上の支配がなされない限り、刑法の窃盗罪の規定によつて保護されるべき管理占有が地方行政庁によってなされているものと認めることはできない

と判示し、河川の砂利は、

所有権の目的となり得ない

という観点から、財物性を否定しました。

 河川法の適用のある河川の砂利や、個人の私有に属さない海浜の砂利は、財物性が否定される可能性があります。

スリ事件では財物性が否定されやすい

 スリ事件は、万引きなどの窃盗に比べ、財物性が否定されやすい傾向にあります。

 具体的には、たとえば、電車内でスリをしてバッグから抜き取った物が、お札ではなく、メモ紙だった場合、メモ紙の財物性が否定されて、窃盗罪の既遂ではなく、窃盗罪の未遂が成立しやすい傾向がみられます。

 これは、ざっくり言うと、

犯人は、お金を盗むつもりでスリ行為に及んだのに、結果として、犯人にとっては主観的に無価値のメモ紙をとったにすぎず、スリは失敗に終わっているので、窃盗罪の既遂ではなく、窃盗罪の未遂が成立するにすぎない

という考え方によるものです。

 大阪高裁判例(昭和43年3月4日)では、スリで盗んだメモ紙について、

  • (スリの被害者にとって)メモ紙はすでにその必要性を喪失していたものであって、主観的価値がないか、少なくとも僅少であったと考えられる
  • そうだとすると、メモ紙は財産犯の客体として「財物」には該当しないものというほかない

と判示し、スリにおけるメモ紙の財物性を否定し、窃盗罪の既遂ではなく、未遂を認定しました。

 また、札幌簡裁判例(昭和51年12月6日)では、スリで盗んだはずれ馬券について、

  • はずれ馬券は、被害者にとって必要なく、主観的価値も存在しなかった
  • はずれ馬券は、もはや刑法上の保護に値する物とはいえず、窃盗罪の客体たる財物に該当しない

と判示し、スリにおけるはずれ馬券の財物性を否定し、窃盗罪の既遂ではなく、未遂を認定しました。

 ポイントは、スリ事件であったことから、メモ紙も、はずれ馬券も、財物性が否定された点にあります。

 もし、メモ紙、はずれ馬券が、当初から窃盗行為の対象とされていた場合は、犯人にとって、メモ紙、はずれ馬券に対し、主観的価値が存在していたことになり、財物性が肯定される結果になることも考えられます。

禁制品の財物性

 禁制品とは、

違法薬物、けん銃、刀など、一般人による所有・占有が法令上禁じられた物

をいいます。

 要するに「違法な物」です。

 ここで、禁制品でも財物性が認められ、窃盗や詐欺などの財産罪が成立するかが問題になります。

 結論として、禁制品でも財物性が認められ、窃盗や詐欺などの財産罪が成立します。

 最高裁判例(昭和25年4月11日)では、禁制品である元軍用アルコールの財物性を認めています。

 裁判官は、

  • 法律上その所持を禁ぜられている場合でも、現実にこれを所持している事実がある以上、社会の法的秩序を維持する必要からして、物の所持という事実上の状態それ自体が保護せられ、みだりに不正の手段によってこれを侵すことを許さぬものである

と判示し、禁制品に財物性が認められ、財産罪が成立することを認めています。

 最高裁判例(昭和26年8月9日)では、法律上所有を禁ぜらている密造濁酒の財物性を認めています。

 裁判官は、

  • 法律上その所持を禁じられている場合でも、現実にこれを所持している事実がある以上、社会の法的秩序を維持する必要上、物の所持という事実上の状態それ自体が保護され、みだりに不正手段によってこれを侵すことを許さぬものである
  • されば、Aが事実上所持していた本件濁酒が、所有ならびに所持を禁じられていたものであるとしても、被告人が不正手段によって所持を奪った行為に対し、窃盗罪として処断した原判決は正当であるばかりでなく、また判例に反するものでもない

と判示し、禁制品の密造酒の財物性を認め、窃盗罪の成立を認めました。

不法原因給付物の財物性

 不法原因給付物とは、

不法な原因に基づいて給付されたもの

をいいます。

 たとえば、

  • 窃盗・詐欺をして得た物
  • 偽造貨幣を制作したことの報酬として得たお金
  • 違法なギャンブルで得たお金

など、不法行為を行って得たお金やものが不法原因給付物に該当します。

 不法原因給付物は、裁判上返還請求をし得ない(民法708条)物ですが、その所有・所持が禁止されるわけではなく、財物性が一般に認められます。

 不法原因給付物でも、財物性が認められるので、不法原因給付物を盗む、詐取するなどすれば、窃盗罪、詐欺罪などの犯罪が成立します。

 判例上、不法原因給付物の財物性が認められ、犯罪の成立を認めた事例として、以下のものがあります。

  • 偽造通貨を作った資金や報酬としての金員を詐取➡詐欺罪成立
  • 賭博金の詐取➡詐欺罪成立
  • やみ米を買う偽り代金を詐取➡詐欺罪成立
  • 賭博により受領された金員を強取➡強盗罪成立