法律(刑法)

占有の帰属とは?② ~「財物の占有が移転するとき(委託・受託関係があるとき)」「梱包された荷物の占有」「客に提供された財物の占有」を判例などで解説~

財物の占有が移転するとき(委託・受託関係があるとき)

 財物の占有がAさんからBさんに移るときとは、どのような場合でしょうか。

 さっそく結論を言うと、財物の占有は、AさんからBさんに、

財物が委託されたとき

に、その占有が移るとされます。

 たとえば、Aさんが自分の車を修理してもらうために、車の修理工であるBさんに預けたとします。

 この時に、委託者であるAさんが、車の修理の受託者であるBさんに対し、車を預けたという委託・受託関係が生じ、車の占有は、AさんからBさんに移ります。

 ここでもし、Bさんが、Aさんから修理を委託されて預かった車を、勝手に売却して奪い取った場合、自己が占有する他人の財物を奪ったとして業務上横領罪が成立します。

 ちなみに、Aさんが、Bさんに対し、まだ車の修理を委託しておらず、Aさんに車の占有がある状態で、BさんがAさんの車を奪った場合は、窃盗罪が成立します。

 このように、占有が他人に移るかどうかの判断基準は、財物に対する

委託・受託関係があるか

が一つのポイントになります。

 委託・受託関係があり、財物の占有が移っているかどうかで、

横領罪が成立するか、窃盗罪が成立するか

が変わってくるため、財物の占有が誰にあるか(財物の占有が誰に帰属するか)を考える必要が生じてくるのです。

「財物の占有が移るとき」をもう少し詳しく解説

 財物が合意(委託・受託関係など)に基づいて、他人の管理下に置かれた場合には、その財物の占有がだれに属するかは、

合意の解釈

によって決せられます。

 合意の解釈に当たっては、

  • 合意の目的
  • 財物の種類・形状・性質
  • 両当事者の職業・地位・相互関係

など、合意の際の具体的事情が総合的に考慮されます。

 特に、

  • 自己が財物に対して直接実力行使し、元の管理者の実質的支配を排除できる事情が存在する
  • 財物の元の管理者から独立し、元の管理者から細かい指揮監督を受けることなく、自らの管理責任と判断にもとづいて、財物に対して実力行使ができる

といったことは、自己の占有を肯定する有力な事情になります。

 一般的な感覚としては、

契約に基づく委託・受託関係

があれば、占有の移転が認められると捉えてよいでしょう。

 しかし、契約に基づかない

お願いレベルの依頼関係

では、占有の移転は認められない場合が多いと捉えればよいでしょう。

財物の占有の移転に関する判例一覧

東京高裁判例(昭和59年10月30日)

 知人Aからバッグを一時的に預かり、そのバッグの中から現金を盗んだ事件について、裁判官は、

  • 被告人は、Aから施錠されていない集金かばんを預かったものであって、集金かばんの在中物である現金に対して被告人の事実上の支配がある程度及んでいたことは否定できない
  • しかし、集金かばんは、Aがわずか200数十メートル離れた店に弁当を買いに行って帰ってくるまでの約30分の間、監視するとの趣旨で預けられたものである
  • また、集金かばんは、施錠されていなかったとはいえ、上蓋の止め金はかけられていて、被告人がその在中物を取り出すことは許されていたものとは到底認めることはできない
  • よって、Aにおいて、なお集金バッグ内の現金につき、実質的な事実的支配を有していたもとの認められる

と述べて、横領罪ではなく、窃盗罪の成立を認めました。

最高裁判例(昭和32年1月24日)

 落とし主の意にもとづき、海中に落とした落とし物(麻袋)を引き上げようとする者からの依頼を受け、海中にある落とし物の所在場所の概括的支持を受けて、落とし物を海中にて発見したが、それを岸壁直下付近の泥の中に隠してして浮上し、落とし物不発見の旨を伝え、依頼人を立ち去らせた後に、海中にある落とし物を引き揚げて奪って逃走した事件で、裁判官は、

  • 本件のように、海中に取り落した物件については、落主の意に基づきこれを引揚げようとする者が、その落下場所の大体の位置を指示し、その引揚方を人に依頼した結果、該物件がその付近で発見されたときは、依頼者は、その物件に対し管理支配意思と支配可能な状態とを有するものといえる
  • 依頼者は、その物件の現実の握持なく、現物を見ておらず、かつ、その物件を監視していなくとも、所持すなわち事実上の支配管理を有するものと解すべき

と述べて、横領罪ではなく、窃盗罪の成立を認めました。

東京高裁判例(昭和31年3月20日)

 Aは、同居人が所有するタンスの中に、同居人の同意を得て、自分の物を入れておいた。そうしたところ、同居人がその同居人所有のタンスの中から、Aが入れておいた物品を奪い取った事件で、裁判官は、

  • Aは、被告人(同居人)と同居し、被告人の承諾を得て、被告人所有のタンスの中に被告人所有の物品と一緒に入れておいた事実を認めることはできる
  • けれども、それはAが被告人からそのタンスの容器を借り受けて、その中に自ら保管していたにとどまり、被告人にその物品の保管を委託したものではない
  • そのため、被告人が全面的にAの物の占有を取得したといえないのはもちろん、Aがその物品の占有を全く喪失したものとは認められない

と述べて、Aが被告人(同居人)所有のタンスの中に入れたAの物の占有は、Aにあると認め、被告人の行為は横領罪ではなく、窃盗罪に当たると判断しました。

最高裁判例(昭和39年7月7日)

 畑の所有者が、畑上にある立木の所有者に、その立木を永久に伐採しない旨確約した後に、その立木を売却するために伐採した事件で、裁判官は、

  • 本件のように、他人の立木が生えている土地の所有者に対し、その立木を永久に伐採しないことを確約しているような場合には、その立木の所持は、その立木の所有者にあるものと解するのが相当である

と述べ、横領罪ではなく、窃盗罪が成立すると判断しました。

梱包された荷物の中身だけを領得するか、梱包された荷物そのものを領得するかで、窃盗罪と横領罪が区別される

 判例は、運送物や梱包された荷物などの包装物について、占有が誰にあるかを判断する基準として、

封印・結束・封緘などの有無

を重視しています。

 包装物に、封印・結束・封緘がない場合で、包装物全部、または、包装物の中身を領得した場合、横領罪が成立すると結論づける傾向が確認できます。

 反対に、包装物に、封印・結束・封緘がある場合で、包装物の中にある個々の物品を領得した場合、窃盗罪が成立すると結論づける傾向が確認できます。

最高裁判例(昭和32年4月25)

 梱包した衣類が入ったカゴを預かり、預かったカゴを保管中の者が、カゴの中に入った衣類を質屋に入れる目的で、カゴの梱包を解き、カゴから衣類を取り出した事件で、裁判官は、

  • 本件のごとく被告人が他人からその所有の衣類在中の縄掛け梱包した行李1個を預り保管していたような場合は、所有者たる他人は行李在中の衣類に対し、その所持を失うものでない
  • 被告人が他から金借する質種に供する目的で、ほしいままに梱包を解き、行李から衣類を取出したときは、衣類の窃盗罪を構成し横領罪を構成しない

と判示しました。

大審院判例(明治44年12月15日)

 封印を施してある行嚢を通信事務員から委託されて、行嚢を運送中の郵便集配人が、行嚢の封印を破壊して、165円の価格表記郵便物を取り出して領得した事件で、裁判官は、

  • 委託者がある容器に物品を入れ、これに封印を施し、これを他人に委託したる場合は、その在中の物品は、個別に特定して、これを寄託したものと見ることはできない
  • よって、その物品の占有は、依然として委託者にあって、未だ受託者にはないと言わざるを得ない
  • もし、受託者が容器の封印を開き、在中の物品を取り出し、委託者の占有を侵害するものなれば、窃盗罪を構成する

と判示しました。

大審院判例(大正7年11月19日)

 郵便局の取扱いにかかる紙幣在中の普通郵便物を配達中の郵便集配人が領得した事件について、業務上横領罪に当たるとしました。

大審院判例(昭和14年5月25日)

 受託者たる海運業者に雇われ、受託者所有の重油船の船長として、重油の運送に従事していた者が、フタに封印のある船倉と封印のない船倉から、それぞれ重油を汲み取った事件で、裁判官は、

  • フタに封印のある船倉の重油の占有は委託者にあり、封印のない船倉の重油は受託者の代理人である船長にある

として、フタに封印のある船倉の重油を汲み取った行為を窃盗罪、封印のない船倉の重油を汲み取った行為を業務上横領罪としました。

財物が来店した客などに提供された場合は窃盗罪が成立する

 たとえば、アクセサリー店が客にネックレスを渡して客に試着させたところ、客がネックレスを試着したまま逃走して、ネックレスを奪ったという場合は、窃盗罪が成立します。

 財物が来店した客などに提供された場合には、

  • 提供の場所が、提供者の包括的に支配する場所である
  • 店員が財物を監視しているなど、財物に対し、容易に実力行使が可能な状況にある
  • 財物の提供を受けた者も、提供者の包括的に支配する場所内か、その実力行使の容易な領域内で、提供者の監視のもとで、その財物を利用すべきことが提供の趣旨に含まれる

ことから、財物の占有は、未だ提供者にあり、その財物を奪った場合は、窃盗罪が成立するという考え方になります。

東京高裁判例(昭和30年4月2日)

 時計店の店員が、被告人から時計を見せてくれと要求されたので、顧客と思い、時計を見せるため被告人に渡したところ、被告人がすきに乗じて時計を奪って逃げ出した事件について、裁判官は、

  • 店員が時計を被告人に交付したのは、被告人にこれを一時見せるために過ぎないのである
  • その際、未だ店員は時計に対する事実上の支配をし管理する状態を失わないのであるから、間もなくその事実上の支配を侵害し、時計を奪取した被告人の行為を、窃盗罪に門疑した原判決は正当である
  • 店員が時計を被告人に渡したことを目して、被告人の事実上の支配内に移した処分行為と解することはできない

と判示しました。

広島高裁判例(昭和30年9月6日)

 古着店の店頭において顧客のように装って、上着を見せてくれるように要求して、店主から出して見せてもらった上着を、その着用を試みているうちに、「ちょっと小便に行ってくる」といってこれを着たまま表に出て逃走した事件で、裁判官は、

  • 上着の交付は一時見せるためのものにすぎず、店主の占有は失われない

として窃盗罪の成立を認めました。

最高裁判例(昭和31年1月19日)

 料金の支払いの意思がないのにあるように装って宿泊した旅館において提供を受けた浴衣などを着用したまま外出し逃走した事件で、裁判官は、

  • 本件のように、被告人が旅舘に宿泊し、普通に旅舘が旅客に提供するその所有の丹前、浴衣を着て、帯をしめ、下駄をはいたままの状態で外出しても、その丹前等の所持は所有者である旅舘に存するものと解するを相当とする

と判示し、浴衣などを着用したまま外出し逃走した行為に対し、窃盗罪の成立を認めました。

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