強要罪における「脅迫」
強要罪(刑法223条)の行為は、
相手方又は親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は、権利の行使を妨害すること
です。
今回は、強要罪における 「脅迫」について説明ます。
脅迫の程度
強要罪における脅迫は、
意思決定の自由を多少なりとも害し得るものであれば足り、反抗を不能又は著しく困難ならしめるものであることを要しない
と解されています。
強要罪における脅迫を、脅迫罪(刑法222条)における脅迫と比較します。
脅迫罪における脅迫は、『相手を畏怖させるに足りる程度』であることが必要とされます。
これに対し、強要罪における脅迫は、『客観的にみて相手方に恐怖心を生ぜしめて義務のないことを行わせ又は権利の行使を妨げうる程度』のものであるが必要とされます。
他人のした暴行脅迫の結果を利用しての強要罪
ある者の行った暴行脅迫のために相手が畏怖しているとき、その者と一定の関係のある者が、その状態を利用して義務のないことを行わせたときは、強要罪が成立します。
この点を判示した判例として、次のものがあります。
大審院判決(昭和9年10月29日)
【事案】
被告人が、同業者として尊敬していた社長Tが、会社の内部対立の結果、株主総会により社長の地位を追われる形勢であることを知り、社長Tを排斥する取締役らを説得し翻意させようとして会社に行ったところ、既に、社長Tを排斥する取締役らを説得する目的を持った県会議員らがいた。
県会議員らは、約20名の職人を雇って飲酒させた上、株主総会の会場である会議室内及び室外廊下に参集させ、社長T排斥派の取締役4名に暴行脅迫を与え、取締役4名を恐怖させていた。
被告人は、既に畏怖していた取締役4名に対し、約20名の職人が暴行を加えるかしれない情勢を利用し、犯意継続の上、取締役4名を強要し、同所又は同会社社長室において、4名に順次「T社長と提携し、工業の発展に努むべき旨」の誓約書を認めさせ、取締役4名に義務のないことを行わせた。
【裁判官の判断】
裁判官は、
- 被告人は多衆のなしたる暴行脅迫の結果に乗じ、かつ、また被告人の言を聞かざれば、その多衆がいかなる暴行をもなすや計り難き情勢、すなわち脅迫状態を利用して義務なきことを行わしめた
- 他人のなしたる暴行脅迫の結果に乗じ、かつその他人のなしいる脅迫状態を利用し、人をして義務なきことを行わしめたるときは、いわゆる強要罪成立するものとする
と判示し、他人のした暴行脅迫の結果の利用する方法による強要罪の成立を認めました。
ちなみに、他人のした暴行脅迫の結果を利用しての強要罪については、学説においては、
- 行為者と無関係な者によって作られた脅迫状態の利用による強要については、強要罪の成立を認めるべきではない
という指摘があります。
上記判例の事案では、強要実行者である被告人は、暴行脅迫を行った約20名の職人と無関係ではないので、問題なく強要罪の成立が認められます。