前回の記事の続きです。
前回の記事では、刑訴法322条の被告人の供述代用書面(供述書・供述録取書)の説明をしました。
今回の記事では、刑訴法323条の特に信用できる書面の説明をします。
刑訴法323条の特に信用できる書面の説明
刑訴法323条の規定は、
刑訴法321条、321条の2、322条に掲げる書面以外の書面で、
1号:公務員の証明文書
(戸籍謄本、公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面」)
2号:業務文書
(商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面)
3号:その他の特信文書
(1号、2号に掲げる書面のほか、特に信用すべき情況の下に作成された書面)
に該当する書面は証拠とすることができる
とし、特に信用できる書面(1号~3号に該当する書面)の証拠能力を無条件で認める規定です。
刑訴法323条の1号~3号に該当する書面は、反対尋問をして書面の信用性を確認する必要がないほど、書面そのものに高度の信用性が認められるものなので、無条件で証拠能力が認められます。
無条件で証拠能力が認められることにつき、参考となる裁判例として以下のものがあります。
刑訴法323条に該当する書面は、当事者の同意がなくても証拠能力を有するとした裁判例です。
裁判官は、
- 刑訴法323条の条件を備えるものは、検察官及び被告人がこれを証拠とすることに同意しない場合でも、証拠能力を有する
と判示しました。
福岡高裁判決(昭和24年10月22日)
刑訴法323条に該当する書面は、当事者に異議があっても証拠能力を有するとした裁判例です。
裁判官は、刑訴法323条3号の「その他の特信文書」に当たる書面につき、
- これを証拠とすることにつき当事者一方に異議があった場合でも、裁判所が該書類は特に信用すべき情況の下に作成されたものだと認むるときは、該書類の証拠調べをなし、これに証拠能力を与えることは刑事訴訟法第323条第3号によって可能である
と判示しました。
それでは、これから1号、2号、3号の書面について詳しく説明します。
1号「公務員の証明文書」
刑訴法323条1号の「公務員の証明文書」は、
が該当します。
公務員の証明文書は、無条件で証拠能力が付与されます。
理由は、
- 公務員がその職務上作成した証明文書は、職責上作成することができる一定の事項を所定の公的な客観的資料に基づき証明したものであるから正確性が高いこと
- 作成した公務員をいちいち法廷に喚問したのでは公務に支障を生じること
- 原本を法廷に持ち出すことが困難であること(戸籍法施行規則7条)
など書面の信用性の情況的保障と必要性とが極めて高いことにあります。
書面の具体例
1号の公務員の証明文書に当たる書面として、以下のものが挙げられます。
- 市町村長作成の身上照会回答書(札幌高裁判決 昭和26年3月28日)
- 検察事務官作成の前科調書(名古屋高裁判決 昭和25年11月4日)
- 検察庁出納官吏作成の換価代金預人証明書(東京高裁判決 昭和25年7月27日)
2号「業務文書」
刑訴法323条2号の「業務文書」は、
- 商業帳簿、航海日誌
- その他業務の通常の過程において作成された書面
が該当し、無条件で証拠能力が付与されます。
無条件で証拠能力が付与される理由は、
- 業務の通常過程で作成される帳簿・日誌・記録等の業務文書は、その業務の都度、正確に継続的に記載されるものなので虚偽性が少なく信用性が高いこと
- 作成者の証人尋問を行い、作成者が記憶に基づいて証言するよりも書面自体を証拠にした方が正確であること
- 過去の事実や数字を口頭で再現させることは困難であること
など、信用性の情況的保障が極めて高い上、2号の業務文書は代替性がなく、証拠とする必要性も高いためです。
書面の具体例
2号の業務文書に当たる書面として、以下のものが挙げられます。
- 医師の診療録(カルテ)
- 商人の仕人帳・売上帳(大阪高裁判決 昭和25年9月9日)
- 会社の検量証明書(東京高裁判決 昭和29年4月8日)
- 米屋の未収金控悵(最高裁判決 昭和32年11月2日)
3号「その他の特信書面」
刑訴法323条3号の「その他の特信書面」は、
- 1号「公務員の証明文書」、2号「業務文書」に掲げるもののほか、特に信用すべき情況の下に作成された書面
をいい、これに該当すれば無条件で証拠能力が付与されます。
これは、1号「公務員の証明文書」や2号「業務文書」と同程度の高度の信用性を有する文書について、無条件で証拠能力を与えるものです。
なお、3号のその他の特信書面に当たらないものは、通常の供述書として、書面が被告人以外の者の作成にかかるときは刑訴法321条1項3号(3号書面)により、書面が被告人の作成にかかるときは刑訴法322条1項(被告人の供述代用書面)よって、証拠能力の有無を決することになります。
書面の具体例
3号のその他の特信書面に当たる書面として、以下のものが挙げられます。
- 公の記録や報告
- 統計表
- 価格表
- 株価表
- 気象状況
- 学術論文
- 家系図
- 検察庁の前科調べ回答電信訳文(最高裁判決 昭和25年9月30日)
- 服役者とその妻との往復信書(最高裁判決 昭和29年12月2日)
- 法人税の確定申告書(東京高裁判決 昭和28年7月13日)
- 小切手帳・金銭出納帳 (東京高裁判決 昭和36年6月21日)
- 脱税事件の裏帳簿(東高判昭37年4月26日)
- 貸金の貸借関係記載の手帳(仙台高裁判決 昭和27年4月5日)
次回の記事に続く
次回の記事では、
刑訴法324条の「被告人から」又は「被告人以外の者から」の伝聞供述の証拠能力
の説明をします。