刑事訴訟法(公判)

伝聞証拠⑯~刑訴法325条の供述の任意性の調査の説明

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、刑訴法324条の「被告人から」又は「被告人以外の者から」の伝聞供述の証拠能力の説明をしました。

 今回の記事では、刑訴法325条の供述の任意性の調査の説明をします。

刑訴法325条の供述の任意性の調査の説明

 刑訴法325条は、

裁判所は、刑訴法321条から324条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であっても、あらかじめ、その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ、これを証拠とすることができない

と規定します。

 これは、刑訴法321条から324条証拠能力が認められた書面(供述書供述録取書)又は供述(伝聞供述)であっても、その書面に記載された原供述、又はその伝聞供述の内容となった原供述の任意性を調査したうえでなければ、証拠としてはいけないというものです。

 刑訴法325条証拠能力に関する規定ではなく、裁判所に任意性の調査義務を課した規定にすぎないと解されています。

 なお、裁判所の調査の結果、任意性が認められない場合は、任意性が要件とされている供述証拠(刑訴法319条1項322条324条1項)については証拠能力がないとされ、裁判所はその供述を証拠として用いることはできません。

供述の任意性の調査の時期

 供述の任意性の調査の時期は、証拠調べの前、証拠調べの際、証拠調べ終了後の適当な時期のいすれでもよいとされます。

 参考となる以下の裁判例・判例があります。

福岡高裁判決(昭和30年4月25日)

 供述の任意性の調査は適当な方法で行えばよいとした事例です。

 裁判官は、

  • 刑事訴訟法第325条が「裁判所は、前四条の規定により証拠とすることができる書面又は供述であっても、あらかじめ、その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ、これを証拠とすることができない」旨規定していること及び原審各公判調書に原裁判所が各証人尋問調書あるいは供述調書等の取調を為すに先立ち、これらの書面に記載されている供述の任意性につき特段の証拠調べその他の調査をした旨の記載がないけれども、右記載がないことの故をもって直ちに原裁判所が任意性の調査をしなかったものとは断じ難い
  • その調査の方法については、供述調書若しくは供述自体の形式内容を検討し、あるいは事前たると事後たるとを問わず他の機会にその供述者若しくは調書作成者につき為された取調べの結果と比照する等裁判所が適当と認める方法によることができ、かつその調査の時期についても必ずしも証拠調べの事前においてこれを行うことを要せず、その証拠調べを為すに当たり、あるいはその後の訴訟手続進行の過程において、若しくはいよいよ判決を為すに当たりこれを行っても結局において差支えないものと解される

と判示しました。

最高裁判決(昭和54年10月16日)

 供述の任意性の調査は、証拠調べの後にしたとしても差し支えないとした事例です。

 裁判官は、

  • 刑訴法325条の規定は、裁判所が、同法321条ないし324条の規定により証拠能力の認められる書面又は供述についても、さらにその書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述の任意性を適当と認める方法によって調査することにより、任意性の程度が低いため証明力が乏しいか、若しくは任意性がないため証拠能力あるいは証明力を欠く書面又は供述を証拠として取り調べて不当な心証を形成することをできる限り防止しようとする趣旨のものと解される
  • したがって、刑訴法325条にいう任意性の調査は、任意性が証拠能力にも関係することがあるところから、通常、当該書面又は供述の証拠調べに先立って同法321条ないし324条による証拠能力の要件を調査するに際しあわせて行われることが多いと考えられるが、必ずしも右の場合のようにその証拠調べの前にされなければならないわけのものではなく、裁判所が右書面又は供述の証拠調べ後にその証明力を評価するにあたってその調査をしたとしても差し支えないものと解すべきである

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年2月12日)

 公判廷外における被告人の自白の任意性の有無の調査は、必ずしも証人の取調べによるの要なく、裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができるとした事例です。

 裁判官は、

  • 相被告人Bが、司法警察官に対してなした供述調書の任意性の調査は、裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができるものであり、必ずしも証人の取調べによって認定するの要ない

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年10月9日)

 供述の任意性は、供述調書の署名・押印の有無、供述内容などにより調査してもよいとした事例です。

 裁判官は、

  • 供述調書の任意性を被告人が争ったからといって、必ず検察官をして、その供述の任意性について立証せしめなければならないものでなく、裁判所が適当の方法によって、調査の結果その任意性について心証を得た以上これを証拠とすることは妨げないのであり、これが調査の方法についても格別の制限はなく、また、その調査の事実を必ず調書に記載しなければならないものではない
  • かつ、当該供述調書における供述者の署名、捺印のみならずその記載内容すなわちその供
  • 述調書にあらわれた供述の内容それ自体もまたこれが調査の一資料たるを失わないものといわなければならない

と判示しました。

最高裁判決(昭和29年12月23日)

 刑訴法326条の同意があるときは、刑訴法325条による供述の任意性調査は必要でないとした事例です。

 裁判官は、

  • 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときは、刑訴321条ないし325条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる

と判示しました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

刑訴法326条の同意証拠の証拠能力

の説明をします。

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