刑法(総論)

教唆犯とは? ~「教唆犯の成立条件・刑の重さ」「間接教唆」を解説~

教唆犯とは?

 教唆犯(きょうさはん)とは、

人をそそのかして犯罪を実行させた者

をいいます(刑法61条1項)。

 たとえば、殺人をした犯人Aが、友人Bに対し、

「殺人に使った包丁が家にある。その包丁を川に投げ捨ててくれ」

と言って証拠隠滅を頼み、友人Bが犯人Aの言うとおりに包丁を川に投げ捨てたとします。

 この時、友人Bには、証拠隠滅罪が成立します。

 そして、友人Bをそそのかして証拠隠滅罪を行わせた犯人Aに対しては、

証拠隠滅罪の教唆犯

が成立することになります。

教唆犯の成立条件

 教唆犯は、

  1. 人をそそのかすこと
  2. そそのかされた相手が犯罪の実行を決意すること
  3. そそのかされた人が犯罪を実行すること

の3つの要件がそろうと成立します。

「① 人をそそのかすこと」について

 人をそそのかす方法(教唆の方法)に制限はありません。

 命令、指示、見返りの提供など、どのような方法をとっても教唆犯は成立します。

 教唆は、明示的に行われることはもちろん、暗示的・黙示的なものでも成立します。

「② そそのかされた相手が犯罪の実行を決意すること」について

 教唆とは、

まだ犯罪の実行を決意していない他人をそそのかして、犯罪実行の決意を生じさせること

をいいます。

 これは、教唆といえるためには、そそのかす相手が、

まだ犯罪の実行を決意していない

状態が必要なことを意味します。

 もし、そそのかす相手が、そもそも犯罪の実行を決意していたのであれば、教唆犯は成立しません。

 なお、もともと犯罪の実行を決意していた相手に対し、教唆を行い、相手が犯罪の実行の決意を強めて犯罪を実行した場合は、幇助犯が成立することになります。

「③ そそのかされた人が犯罪を実行すること」について

 教唆犯が犯罪の実行を決意しても、実際に犯罪を実行しなければ、教唆犯は成立しません。

 たとえば、Aが、Bに万引き(窃盗)の教唆を行ったが、Bがおじけづいて万引きをしなかった場合は、犯罪自体が起こっていないので、Aに窃盗罪の教唆犯は成立しません。

 なお、Bが万引きを実行したが、失敗するなどして、やり遂げることができなかった場合は、Bは犯罪の実行はしているので、Aには窃盗未遂罪の教唆犯が成立します。

教唆犯の故意

 犯罪(故意犯)が成立するためには、故意(犯罪を犯そうとする意思)が必要になります。

 故意(犯罪を犯そうとする意思)は、構成要件的故意と呼ばれ、故意犯の成立に必ず必要になる要素です。

 教唆犯の故意は、「他人に犯罪の実行を決意させようとする意思」と定義されています。

 ポイントは、他人に犯罪の実行を決意させようとする意思があれば足り、犯罪結果の発生まで意欲する必要はない点にあります。

 たとえば、教唆者Aが、友人Bに万引きをするように教唆したときに、Aが「こいつはバカだから万引きを成功させることはできないだろう」と思って教唆していたとしても、教唆犯は成立します。

 Aが、「Bが万引きを成功できるとは思っていなかった。だから教唆犯の故意はない!」と言い訳しても通用せず、Aは窃盗罪の教唆犯で処罰されます。

教唆犯の刑の重さ

 教唆犯には正犯(犯罪を実行した者)と同じ重さの刑が科されます(刑法61条1項)。

 「他人をそそのかす行為をしただけだ」「犯罪の実行行為はしていない」とうったえても、刑が軽くなることはありません。

 たとえば、正犯(犯罪を実行した者)が窃盗罪で懲役1年の刑を科せられたとしたら、正犯を教唆した教唆犯も、懲役1年と同等の刑の重さで処罰されることになります。

未遂の場合

 正犯の犯罪が未遂に終わったときは、教唆犯は、正犯と同様、未遂犯に準じて処罰されます。

 たとえば、正犯(犯罪を実行した者)が窃盗未遂罪で処罰された場合、刑が減軽または免除されます(刑法43条)。

 正犯の処罰内容に合わせて、教唆者も、窃盗未遂罪の教唆犯として、刑が減軽または免除されます。

拘留または科料の罪に対する教唆者

 拘留または科料の罪に対する教唆者は、‶ 特別の規定 ″ がなければ教唆犯で処罰されません(刑法64条)。

 ‶ 特別の規定 ″とは、たとえば、軽犯罪法3条が該当します。

 軽犯罪法3条は、「第1条の罪を教唆し、又は幇助した者は、正犯に準ずる」と規定しています。

 軽犯罪法に違反する罪は、拘留または科料しか科せられることのない罪です。

 なので、刑法64条だけを当てはめて考えると、軽犯罪法違反の教唆犯は成立しないことになります。

 しかし、軽犯罪法には、3条の「第1条の罪を教唆し、又は幇助した者は、正犯に準ずる」という‶ 特別の規定 ″ があることで、軽犯罪法違反の教唆犯が成立するという法律の設計になってるのです。

教唆犯が処罰されるためには、正犯者が処罰される必要はない

 教唆犯が処罰されるためには、正犯者が処罰される必要はありません。

 たとえば、Aに教唆されて窃盗罪を犯したBが不起訴になった(起訴されて刑罰を受けずに済んだ)とします。

 Bが不起訴になったのだから、教唆者のAは処罰できないということにはなりません。

 Bが不起訴になって処罰されなかったとしても、教唆者Aのみを窃盗罪の教唆犯として処罰することが可能です。

間接教唆

 教唆者を教唆することを間接教唆といいます。

 教唆者A、教唆者B、被教唆者C(犯罪実行者)の3名の登場人物がいる状態です。

 まずAがBを教唆する➡次にBがCを教唆し、Cに犯罪を実行させる…という状況です。

 この場合、教唆者Aが間接教唆犯となります。

 間接教唆犯も、正犯と同じ刑の重さで処罰されます(刑法61条2項)。

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