故意
強制性交等致死傷罪、強制わいせつ致死傷罪(刑法181条)は故意犯です。
なので、本罪の成立を認めるにあたり、強制性交又は強制わいせつを実行する故意が必要になります(故意犯の詳しい説明は前の記事参照)。
本罪は、基本犯(強制性交等罪、強制わいせつ罪)と死傷の結果とによって成り立つ結果的加重犯なので、基本犯の行為についての故意と、その行為と死傷の結果との間の因果関係が必要とされます(詳しくは前の記事参照)。
死傷の結果についての過失又は結果発生についての予見可能性は不要である
死傷の結果についての過失又は結果発生についての予見可能性を必要とするかどうかについて、判例は、
死傷の結果についての過失又は結果発生についての予見可能性を不要
としています。
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(明治44年4月28日)
裁判官は、
- 刑法第181条所定の罪は、同第176条ないし第179条の罪を犯し、その結果、人を死傷に致すことによって成立するものにして、被害者の死傷に関し、故意又は過失あることを必要とせず
- 刑法にいわゆる人を傷害すとは、他人の身体の現状を不良に変更するのいうにして、必ずしも身体の組織を物質的に破壊することを要せず
と判示しました。
より詳しく説明すると、判例は、わいせつ行為と死傷の因果関係があることを認めるには、死傷の結果について、過失又は結果発生についての予見可能性は必要とせず、わいせつ行為があったから死傷の結果が生じたという
条件関係の存在があれば足りる
としているということです。
参考となる判例として以下のものがあります。
大審院判決(大正14年4月23日)
この判例は、被告人が自身が梅毒に感染していたことを知らずに、女子を強制性交したことで、女子を梅毒に感染させた事案で、梅毒に感染したことを認識していなくても、女子を梅毒に感染させた傷害の責任を負うとして、強制性交等致傷罪の成立を認めた事例です。
強制性交と致傷との間に、条件関係の存在があることをもって致傷の責任を認めた事例であるといえます。
裁判官は、
- 刑法第177条ないし第181条に該当する犯罪において、姦淫の行為により被害者に被らしめたる死傷の結果に対しては、必ずしも犯人の主観的予見あることを要せず
- 犯行当時、普通の知識により客観的に観察して死傷の結果を予見し得べかりしをもって足るものとす
- 売笑婦に接してその梅毒に感染したる者が、13歳未満の婦女を姦淫し、よって梅毒を感染せしめたるときは、たとえ姦淫の当時、自己の梅毒にかかれることを認識せざりしとするも、傷害の結果につき、罪責を免れざるものとす
と判示しました。