刑法(傷害罪)

傷害罪(31) ~「傷害罪において訴因罰条変更の要否について言及した判例」「訴因罰条変更手続が必要かどうかは、被告人の防御に不利益を生ずるか否かによって決せられる」を判例で解説~

 傷害罪の裁判において、訴因罰条変更の要否について言及した判例を判例を紹介します。

 訴因罰条変更とは、検察官が既に起訴した訴因公訴事実)や罰条(罰条とは、たとえば、傷害罪であれば、『傷害罪 刑法204条』の記載のように、起訴状判決書に犯罪事実と共に記載する罪名とその罪名の条文をいう)を変更する請求を裁判官に行い、裁判官が検察官の請求に基づき、訴因や罰条の変更を決定する手続きをいいます。

共同正犯を同時犯と認定するのに訴因罰条変更の手続を要しないとした判例

 共同正犯(傷害の共犯)を同時犯(同時傷害:刑法207条)と認定するのに訴因罰条変更の手続を要しないとした判例として、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和25年11月30日)

 訴因罰条変更することなく、傷害罪の共同正犯(刑法204条刑法60条)を同時傷害(刑法207条)で認定して判決を言い渡した事案で、裁判官は、

  • 原判決の認定した事実は、本件起訴状に記載された公訴事実とその同一性を異にしないばかりでなく、その訴因も罪名も同一であって、刑法207条のごとき規定は、刑訴256条4項にいわゆる罰条には含まれないものと解するを相当とするから、原判決には、起訴のない事実について判決を為し、又は刑訴256条312条等に反した訴訟手続法上の違法も認められない

と判示し、訴因罰条変更することなく、「傷害罪の共同正犯」を「同時傷害」(刑法207条)で認定して判決したことについて、違法はないとしました。

 傷害の同時犯(同時傷害:刑法207条)を傷害罪の共同正犯と認定するのに訴因罰条変更の手続を要しないとした以下の判例があります。

最高裁判決(昭和33年7月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 傷害の同時犯として起訴されたものを共同正犯と認定しても、そのことによって被告人に不当な不意打ちを加え、その防御権の行使に実質的な不利益を与えるおそれはないのであるから、訴因変更の手続を必要としないものと解するのが相当である

と判示しました。

東京高裁判決(昭和30年12月15日)

 この判例は、刑法第207条第60条第204条に該当する傷害並びに暴力行為等処罰に関する法律第1条、刑法第208条に該当する暴行の2個の訴因を、訴因罰条の変更手続を経て、刑法第204条、第60条に該当する1個の訴因に変更することを適法とした事例です。

 裁判官は、

  • この訴因及び罰条の変更は、公訴事実の同一性を害するとは認められないし、その他訴因及び罰条の変更は適式に為されなかったものとすべき根拠は認められない

と判示し、訴因罰条変更により、『同時傷害の特例、傷害罪の共犯、集団暴行、暴行』の訴因を、『傷害罪の共犯』に変更したことは、公訴事実の同一性を害さないので、適法であるとしました。

訴因罰条変更手続が必要かどうかは、被告人の防御に不利益を生ずるか否かによって決せられる

 訴因罰条変更手続が必要かどうかは、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるか否かによって決せられます。

 この点について示した以下の判例があります。

最高裁決定(昭和34年10月26日)

 この判例は、起訴状に罰条の記載の遺脱があっても、公訴事実と罪名との記載により罰条を推認することができ、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないと認められる場合には、公訴提起の効力に影響を及ぼさないとしました。

最高裁決定(昭和53年2月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて、被告人の防御に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条であってもこれを適用することができるものというべきである
  • 本件の場合、暴力行為等処罰に関する法律1条の罪にあたる事実が訴因によって十分に明示されているから、原審が、起訴状に記載された刑法208条の罰条を変更させる手続を経ないで、右法律1条を適用したからといって、被告人の防御に実質的な不利益が生じたものとはいえない

と判示し、被告人の防御に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで判決をすることができるとしました。

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