刑法(傷害致死罪)

傷害致死罪(20) ~「傷害致死罪における共同正犯」を判例で解説~

共同正犯とは?

 共同正犯(共犯)とは、

2人以上の行為者が共同して犯罪を犯した場合

をいいます。

 たとえば、2人の犯人が共同して被害者に殴るけるなどの暴行を加えて傷害を負わせた場合、「被告にAとBは、共謀の上、被害者Cに暴行を加え、傷害を負わせた」として、傷害罪の共同正犯(共犯)が成立することなります。

 共同正犯(共犯)の考え方については、前の記事で詳しく説明しています。

傷害致死罪における共同正犯

 傷害致死罪における共同正犯の考え方は、傷害罪における共同正犯(前の記事参照)の場合と同じです。

 参考となる判例を紹介しながら、傷害致死罪における共同正犯の考え方を説明します。

明示の合意を要しない

最高裁判決(昭和23年11月30日)

 この判例は、共同正犯を認定するに当たり、明示の合意は必要ないことを示した判例です。

 裁判官は、

  • 明示の意思の表示が無くても、暗黙にでも意思の連絡があれば、共謀があったといい得るのである
  • そして、原審 挙示の証拠によれば、被告人らの間に意思の連絡があったことは、これ認めることができる
  • 被害者の死亡は、被告人両名の共謀による暴行の結果として発生したものであるから、直接死因となった暴行をした者が、たとえ被告人Aであったとしても、共謀者たる被告人Bもまた死亡につき刑責を負わなければならない

と判示しました。

共謀者全員が一堂に会して謀義する必要はなく、順次共謀で足りる

最高裁判決(昭和33年6月17日)

 この判例は、共同正犯を認定するに当たり、共謀者全員が一堂に会して謀議する必要はなく、順次共謀で足りることを示した判例です。

 裁判官は、

  • Aの家を襲撃して暴行を加えることを共謀した者は、右共謀に基づく襲撃の結果、連行されたAを実行担当者らが、さらに某所で殴りつけることを謀議してこれを実行した事実を知らなかったとしても、その暴行の結果生じたAの死亡につき、傷害致死罪の成立を免れない

旨判示し、被告人らが次々と共謀してAを死亡させた行為について、被告人全員に対し、共同正犯として傷害致死罪の成立を認めました。

実行行為を行わなかった者も、致死の原因となった暴行を加えなかった者もすべて致死の責任を負う

 実行行為を行わなかった者も、致死の原因となった暴行を加えなかった者もすべて致死の責任を負うことを示しました判例として、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年5月8日)

 裁判官は、

  • 数名の者がある犯罪を行うことを通謀し、そのうち一部の者がその犯罪の実行行為を担当し遂行した揚合には、他の実行行為に携わらなかった者も、これを実行した者と同様にその犯罪の責を負うべきものである
  • この理は、数名の者が他人に対し暴行を加えようと通謀し、そのうち一部の者が他人に対し暴行を加え、これを死傷に致したときにもあてはまるのである

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年6月1日)

 裁判官は、

  • 他人の身体に対し暴行する意思で暴行を加え、よって、その他人に傷害を与えた場合には、たとえ傷害の意思がなかったときでも、傷害罪の責任を負う
  • また、その傷害を与えた結果、被害者を死にいたらしめたときは、傷害致死罪の責任を負うことは当然である
  • なお、共同暴行者中の一人が、暴行によって相手方に死傷の結果を与えれば、共同暴行者全員がその死傷の結果について責任を負わなけれぱならぬことも、またもちろんであるから、本件において、被告人と共同して被害者に暴行を加えた一人であるKが右被害者S対して、傷害を与え、その結果、Sを死にいたらしめた以上、被告人もまた傷害致死罪の責任は免れることができない

と判示しました。

最高裁判決(昭和23年10月6日)

 裁判官は、

  • 多衆一団となって他人に暴行を加えるととを謀議した者が、たまたま犯行現場に遅れて到着したため、又はその現場にいながら直接実行行為に加担しなかったとしても、他の共謀者の実行行為を介して自己の犯罪敢行の意思を実現したものと認められるときは、その衆団暴行に基く傷害又は傷害致死の罪につき、共同正犯たるの責を負うべきである

と判示しました。

共謀は、暴行の共謀で足りる

 共謀した内容が、傷害致死や傷害ではなく、暴行にとどまるものであったとしても、傷害致死の結果を発生させた場合は、共犯者全員に対し、傷害致死罪の共同正犯が成立します。

東京高裁判決(昭和36年3月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 数名の暴行の共犯者のうち、一人が加えた暴行により傷害致死の結果を惹起したときは、たとえ他の共犯者において右の暴行を予測しなかった場合においても、その結果に対し、共同正犯として責任を負うべきものである

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和38年10月31日)

 この判例で、裁判官は、

  • 共犯者の一人が刃物を使用し、傷害致死の結果を生ぜしめ、その余の共犯者は、単に、これを殴打することを考え、刃物の使用は全然予想しなかった揚合にも、その主観的、客観的事情を精密に検討し、諸般の状況上、そのようなことを予想し、これに応ずる対策を講ずるのでなければ、その被告人も刃物使用及びこれにより発生した結果に対する責任を免れなかったと判定すべき状態の下においては、他の被告人らも傷害致死の責任は免れない

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和39年4月14日)

 裁判官は、共犯者中の一部の者が、謀議の範囲を超えて、不意に現れた相手を殺害した場合、その余の共犯者にも傷害致死の刑責ありとしました。

東京高裁判決(昭和27年9月11日)

 共謀した内容が、傷害致死ではなく、傷害にとどまる場合でも、傷害致死の結果を発生させた場合は、共犯者全員に対し、傷害致死罪の共同正犯が成立します。

 この判例で、裁判官は、

  • 傷害の共謀の下に、共犯者の一部の者が殺意をもって相手を殺害した場合、他の共犯者は、傷害致死の刑責を負う

としました。

東京地判判決(平成9年2月25日)

 暴力団の殴り込みに対する反撃の事案で、応戦を決意して見張りについた暴力団組員らに、殺害までの共謀が生じていなかったとして、傷害致死罪を認定しました。

次回記事に続く

 次回の記事では、続きの記事として、

  • 承継的共同正犯
  • 共犯関係からの離脱
  • 共犯者のどちらの暴行で致死にいたらせたか不明な場合における共同正犯の認定

について説明します。

傷害致死罪(1)~(23)の記事まとめ一覧

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