遺失物等横領罪における行為の定義
行為の定義
遺失物等横領罪における行為は、横領することであり、
不法領得の意思をもって、占有を離れた他人の物を自己の事実上の支配内に置くこと
をいいます。
単に不法領得の意思を有するだけで、物を依然として犯人の占有を離れた状態に置いておく場合には、遺失物等横領罪を構成しません(大審院判例 大正6年9月17日)。
遺失物等横領罪が成立するためには、犯人が、その物を自己の事実上の支配内に置くことが必要になります。
占有の開始
占有の開始は、犯人自らが積極的に行う場合のみならず、犯人が意図せずに占有を開始した場合(偶然の事情等により第三者(行為者)の手中に入った場合、誤って占有した場合)でもよいとされます。
不法領得の意思
占有を離れた他人の物を、自己の事実上の支配内に置いたとしても、不法領得の意思の発現があったといえなければ、遺失物等横領罪は成立しません。
不法領得の意思とは、
権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思
をいいます。
分かりやすくいうと、
盗んだ物を自分のために利用して使う意思
のことです。
もし、不法領得の意思がない状態…たとえば、領得した物を捨てる意思で、その物を領得しても、遺失物等横領罪は成立せず、器物損壊罪(刑法261条)が成立する結果となります。
不法領得の意思については、前の記事で詳しく解説しています。
他人の占有物を遺失物・占有離脱物であると誤認して領得した場合は、窃盗罪ではなく、遺失物等横領罪が成立する
他人が占有(管理)している物を、遺失物(落とし物)または占有離脱物(置き忘れた物)であると誤認して領得した場合には、刑法38条2項が適用され、窃盗罪ではなく、遺失物等横領罪(遺失物横領罪または占有離脱物横領罪)が成立します。
刑法38条2項
重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない
例を挙げて説明します。
たとえば、コンビニのレジの脇に置かれている財布(※被害者が財布のすぐ隣にいて、被害者の財布に対する占有(管理)が及んでいるものとする)を盗んだ場合、通常は窃盗罪が成立します。
しかし、その財布を、被害者が置き忘れた占有離脱物だと勘違いして領得した場合は、外形的には窃盗罪でも、犯人自身の内心は、占有離脱物横領罪を犯す故意で財布を領得しているので、窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判例(昭和35年7月15日)
被害者が、混雑時の渋谷駅の山手線の出札口で切符を買った際に、出札口の台の上にカメラを放置し、友人と話しながら5分を超えない時間内に10mくらい歩いたところで置き忘れに気付き、すぐに引き返したが、その間に被告人が持ち去った事案で、裁判官は、
- 刑法上の占有は、人が物を実力的に支配する関係であって、その支配の態様は、物の形状その他具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものでなく、物の占有者の支配力の及ぶ場所に存するをもって足りる
- また、その物がなお占有者の支配内にあるかどうかは、通常人ならば何人も肯首するであろうところの社会通念によって決すべきである
- 本件における事実関係においては、社会通念上、本件カメラの占有は、なお被害者にあるものと判断すべきであり、本件場所が東京都内でも最も乗降客の多い渋谷駅付近であり、時間も最も混雑する頃で、人が相当混雑していたと思われること及び5分間も経っていたことを理由として、被害者の占有が失われ、本件カメラは、占有離脱物であるとすることは、当たらないといわなければならない
と判示し、被害者のカメラに対する占有は失われていないと判断しました。
この判例は、結論として、客観的には窃盗罪が成立するが、犯人の内心は、窃盗の故意ではなく、占有離脱物横領の故意でカメラを領得していることから、占有離脱物横領罪が成立すると判決しています。
理由は、窃盗罪や占有離脱物横領罪のような故意犯については、故意がなければ犯罪は成立しないという刑法のルール(刑法38条2項)になっているからです(詳しくは前の記事参照)。
遺失物等横領罪の既遂時期
遺失物(落とし物)・占有離脱物(置き忘れた物)であることを認識しながら、不法領得の意思をもって、これを領得する行為を行た時に、遺失物等横領罪は既遂となります。
領得する行為とは、不法領得の意思を発現する外部的行為(例えば、拾得や隠匿)をいいます。
領得する行為があった時点で、遺失物等横領罪は既遂となるので、領得した後に、領得した物を消費や売却するといった処分を行うことは、犯罪成立に必要な要件とされていません。
後から領得の意思が生じた場合の既遂時期
当初は領得の意思がなく、遺失物法が定める拾得者がとるべき手段(遺失者への返還、警察署長への提出など、遺失物法4条)を講ずるつもりであった者が、後になって考えを改めて、拾得物を費消・売却・隠匿などした場合には、拾得した時ではなく、費消等した時点で遺失物等横領罪は既遂になります(大審院判例 大正10年10月14日)。
遺失物等横領罪の罪数の判断基準
遺失物等横領罪は罪数は、
所有権侵害の個数
によって決することになります。
窃盗罪の罪数と比較すると理解しやすくなります。
窃盗罪の罪数は、
占有侵害の個数
で決せられます。
たとえば、窃盗罪の場合について、犯人がコンビニでバッグ1個を盗んだとします。
そのバッグは、Aさんが占有(管理)するもので、そのバッグの中にはBさん所有の財布が入っていたとします。
この場合の窃盗罪の公訴事実は、
被疑者は、コンビニにおいて、Aが管理する財布1個が入ったバッグ1個を窃取した
となります。
占有侵害の個数は、Aさんが占有(管理)する財布入りのバッグ1つなので、1個になります。
なので、窃盗罪の罪数も1個になります。
窃盗罪に対し、遺失物等横領罪は、所有権侵害の個数で罪数が決せされます。
たとえば、犯人がコンビニで、Aさんが置き忘れたバッグ1個を領得したとします。
そのバッグは、Aさんが所有するもので、バッグの中にはBさん所有の財布が入っていたとします。
この場合、遺失物等横領罪は、所有権侵害の個数で罪数が決せられるので、Aさん所有のバッグ1個と、Bさん所有の財布1個を領得した行為は、2個の占有離脱物横領罪を成立させることになります。
とはいえ、犯人が行っているのは、1回の領得行為であり、犯意も1個なので、上記2個の占有離脱物横領罪は包括一罪として、刑を科す上では一罪として処罰することになります。
この場合の犯罪事実は、
被疑者は、コンビニにおいて、Aが置き忘れたA所有のバッグ1個及びB所有の財布1個を発見したのに、正規の届出をせず、自己の用途に供する目的で同所から持ち去り、もって占有を離れた他人の物を横領した
となります。