刑法(殺人罪)

殺人罪(7) ~「殺人罪における故意」を解説~

殺人罪における故意

 故意をもって犯罪を行う犯罪(故意犯)については、犯罪を犯す意思(故意)がなければ、犯罪は成立しません(詳しくは前の記事参照)。

 殺人罪(刑法199条)は故意犯なので、殺人罪の成立を認めるためには、殺人罪を行う故意が必要になります。

 殺人罪が成立するために必要な故意は、

行為の客体が生命のある人であることを認識し、かつ、自己の行為によって、その人の死という結果を生じさせることを意図し、あるいは死の結果が生じることを予見・認容すること

とされます。

事例

 殺人罪の故意に関する事例として、以下の事例が参考になります。

対象を人を思っていなかった場合は、殺人罪の故意は存在しない

最高裁決定(昭和53年3月22日)

 人を熊と誤認し、猟銃を発射し命中させて瀕死の重傷を負わせても、殺人未遂罪は成立せず、業務上過失傷害罪刑法211条前段)が成立するだけであるとしました。

 この事案は、対象を人と認識していなかったことから、殺人罪の故意が否定されたものです。

死の結果の予見は不確定的でもよい

 被害者の死を希望又は意欲する必要はなく、死の結果の予見は不確定的でもよいです。

 被害者の死を意図せず、かつ、死の結果の発生が不確実であると認識していた場合を不確定的殺意と呼びます。

 対して、死をもたらすことを意図した場合、及び、意図はしていないが死の結果の発生が確実であると認識していた場合(例えば、直接的に意図したのは建物の放火であるば、それに伴い建物内の人の死は免れないと認識していた場合)を確定的殺意と呼びます。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(大正11年5月6日)

 裁判官は、殺人の犯意の意義について、

  • 犯意は、罪となるべき事実の認識予見あるをもって足り、その事実の発生を希望することをようするものにあらず

と判示しました。

大審院判決(大正12年2月16日)

 裁判官は、

  • 殺人の手段たる行為が死の結果を発生し得べきことの認識ある以上は、その不確定なるときといえども、殺人の故意あるものとす

と判示しました。

殺害行為と被害者の死の因果関係を認識する必要はない

 自己の行為と被害者の死亡との間に存する詳細な囚果関係を認識する必要はありません。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(大正14年7月3日)

 裁判官は、

  • 殺害の意思をもって加えたる傷創が、普通健康者に対しては死亡の結果を生ずるに足らざるも、被害者が老衰病弱なりしため、死に至りたる場合においては、その創傷と死亡との間に因果関係なきものというを得ず
  • 殺害の意思をもって実行行為をなし、犯人がその行為と死亡との間に存する詳細の経過を認識せざるも、殺人罪の成立を妨げず

と判示しました。

 学説においても、故意の成立には、囚果関係の認識は不要であり、予見と異なる経路をたどって結果が発生した場合でも、故意の成否には影響しないと解すべきとされます。

 とはいえ、構成要件的に重要な因果関係の認識は必要とする説が一般的となっています。

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