前回の記事の続きです。
前回の記事では、
- 被害者参加人(被害者参加制度を利用できる者)
- 被害者参加制度の対象犯罪
- 被害者参加制度を利用する方法
- 被害者参加人のための国選弁護制度
を説明しました。
今回の記事では、
- 被害者参加制度で被害者参加人ができること(公判期日への出席、検察官に対する意見陳述、証人尋問、被告人質問、弁論としての意見陳述)
を説明します。
被害者参加制度で被害者参加人ができること
被害者参加制度で、被害者参加人ができることは
- 公判期日への出席
- 検察官に対する意見陳述
- 証人尋問
- 被告人質問
- 弁論としての意見陳述
に分けられます。
以下でそれぞれについて説明します。
① 公判期日への出席
裁判所から被害者参加の許可決定がなされると、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士(被害者参加弁護士)は、公判に出席(参加)することができます(刑訴法316条の34第1項)。
ただし、裁判所は、審理の状況、被害者参加人又は被害者参加弁護士の数、その他の事情を考慮して、相当でないと認めるときは、公判の全部又は一部への出席を許さないことができます(刑訴法316条の34第4項)。
公判に出席するとは、具体的には、法廷内に入り、検察官の隣の席に座り、検察官の訴訟活動に加わるという意味です。
② 検察官に対する意見陳述
被害者参加人又は被害者参加弁護士は、検察官に対し、被告事件についての刑事訴訟法の規定による検察官の権限の行使に関し、意見を述べることができます(刑訴法316条の35前段)。
この場合において、検察官は、検察官の権限を行使し又は行使しないこととしたときは、必要に応じ、意見を述べた者に対し、その理由を説明しなければなりません(刑訴法316条の35後ろ段)。
「刑事訴訟法の規定による検察官の権限の行使」の代表例として、証拠調べ請求(裁判所に犯罪事実を証明するための証拠を提出すること)が挙げられます。
検察官がどのような証拠を裁判所に提出するかは、検察官の自由であるところ、被害者参加人又は被害者参加弁護士は、検察官が裁判所にどのような証拠を提出するかについて、「この証拠を提出してほしい」などの意見を述べるといったことが考えられます。
③ 証人尋問
裁判所は、証人を尋問する場合において、被害者参加人又は被害者参加弁護士から、
証人を尋問したい
との申出があるときは、被告人又は被告人の弁護人の意見を聴き、審理の状況、申出に係る尋問事項の内容、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、
『情状』に関する事項(犯罪事実に関するものを除く)についての『証人の供述の証明力を争うために必要な事項』
について、被害者参加人又は被害者参加弁護士に証人の尋問をすることを許すものとされます(刑訴法316条の36第1項)。
この証人尋問をしたい旨の申出は、検察官の証人に対する尋問が終わった後(検察官の尋問がないときは、被告人又は弁護人の尋問が終わった後) 、直ちに、尋問事項を明らかにして、検察官に対して申し出をしなければなりません(刑訴法316条の36第2項前段)。
被害者参加人又は被害者参加弁護士から、証人尋問をしたい旨の申出があった場合、検察官は、被害者参加人又は被害者参加弁護士が明らかにした尋問事項について、意見(尋問を許可すべきなどの意見)を付して裁判所に通知します(刑訴法316条の36第2項後段)。
※ 証人尋問については、前の記事で詳しく説明しています。
『情状』とは?
情状とは、
- 被告人から一度も謝罪を受けていないこと
- 示談の状況
などの犯罪事実の認定に関係しない事項で、裁判官が被告人の刑の重さを決める上で考慮されるべき事情をいいます。
『犯罪事実に関するものを除く』とは?
被害者参加人又は被害者参加弁護士が尋問することができる事項から除かれる「犯罪事実」とは、犯罪事実そのものはもちろん、犯情(犯行の態様・動機、被告人の犯行における役割など犯罪事実自体に属する情状)を含むとされます。
なので、被害者参加人等は、情状に関する事項であっても、犯情に関する事項について、証人を尋問をすることはできません。
『証人の供述の証明力を争うために必要な事項』とは?
『証人の供述の証明力を争うために必要な事項』とは、
証人が既にした証言の証明力を減殺するために必要な事項
をいいます。
例えば、「証人が言っていることは正しくないこと」を指摘するために必要な質問を尋問事項として挙げることが考えられます。
具体的には、
- 証言の信用性に関する事項(証人の記憶、表現の正確性などを指摘する尋問事項)
- 証人の信用性に関する事項(証人と被告人が利害関係にあること、証人が偏見や予断をもっていることなどを指摘する尋問事項)
が尋問事項として挙げられます。
④ 被告人質問
裁判所は、被害者参加人又は被害者参加弁護士から、
公判廷で被告人に対して質問したい(被告人質問をしたい)
との申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、被害者参加人等が『刑事訴訟法の規定による意見の陳述をするために必要があると認める場合』(※この意味は後ほど説明)であって、審理の状況、申出に係る質問をする事項の内容、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、申出をした者が被告人に対してその質問を発することを許すことになります(刑訴法316の37第1項)。
この申出は、あらかじめ、質問をする事項を明らかにして、検察官にしなければなりません(刑訴法316の37第2項)。
この申出を受けた検察官は、被害者参加人又は被害者参加弁護士が質問をすることを希望する質問事項について、検察官自らが質問をする場合を除き、意見(質問をすることを認めるべきなどの意見)を付して裁判所に通知します(刑訴法316の37第2項後段)。
『刑事訴訟法の規定による意見の陳述をするために必要がある場合』とは?
『刑事訴訟法の規定による意見の陳述(この法律の規定による意見の陳述)』とは、
- 心情その他の被告事件に関する意見の陳述(刑訴法292条の2)※この刑訴法292条の2の陳述は、被害者参加制度とは別制度の陳述であり、「心情等の意見陳述制度」と呼ばれます
- 事実又は法律の適用についての意見の陳述(刑訴法316条の38)※この陳述は、以下で説明する「⑤弁論としての意見陳述」のことです
を指します。
①については、例えば、「犯罪被害を受けて夜も眠れず、今でも苦しんでいる。被告人には厳罰を望む。」などの被害者の気持ちに関する陳述が該当します。
②については、例えば、「被告人は被害者にわいせつ行為をしたのは証拠から明らかである。よって被告人には不同意わいせつ罪を適用し、懲役1年の刑に処すべきである。」などの犯罪事実又は法律の適用についての陳述が該当します。
『意見の陳述をするために必要がある場合』とは、
- 被害者参加人又は被害者参加弁護士が意見の陳述を行うか否か
- 行うとしてどのような内容の意見を陳述するか
を決するに当たり、
- 被告人が、被害者参加人又は被害者参加弁護士の質問に対してどのように対応するか
の状況や内容を見定めることが重要であると判断される場合をいいます。
なので、例えば、上記①の「心情その他の被告事件に関する意見の陳述」においては、
犯罪事実を認定するための証拠とする目的
で被害事実そのものを中心として陳述することは許されないと解されています。
例えば、上記②の「事実又は法律の適用についての意見の陳述」においては、訴因として特定された事実(公訴事実)の範囲内で意見を述べなければならないものとされているので、例えば、被害者参加人又は被害者参加弁護人が、傷害致死の訴因について、殺人の事実を立証する目的で被告人質問をしようとする場合には、「意見の陳述をするために必要があると認める場合」には当たらないとされると考えられます。
⑤ 弁論としての意見陳述
裁判所は、被害者参加人又は被害者参加弁護士から、
事実又は法律の適用について意見を陳述すること
の申出がある場合において、審理の状況、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公判期日において、検察官の意見の陳述の後に、訴因として特定された事実(公訴事実)の範囲内で、申出をした者がその意見を陳述することを許すことになります(刑訴法316条の38第1項)。
この申出は、あらかじめ、陳述する意見の要旨を明らかにして、検察官にしなければなりません(刑訴法316条の38第2項前段)。
この申出を受けた検察官は、意見(弁論としての意見陳述をすることを認めるべきなどの意見)を付して裁判所に通知します(刑訴法316条の38第2項後段)。
被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述は、検察官の行う論告と同じ性質のものである
被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述は、犯罪事実又は法律の適用についての意見を陳述するものですが、例えば、「被告人は被害者にわいせつ行為をしたのは証拠から明らかである。よって被告人には不同意わいせつ罪を適用し、懲役1年の刑に処すべきである」などの事実又は法律の適用についての陳述が該当します。
この陳述は、検察官の行う論告と同じ性質の陳述であり、言ってしまえば、被害者参加人又は被害者参加弁護士が行う論告と考えればよいです。
被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述は、証拠とはならない
被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述は、事実又は法律の適用についての意見を陳述するものであり、検察官の論告・弁護人の弁論(刑訴法293条)と同様に、
意見にすぎない
ものです。
なので、被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述は、
証拠とはならない
という性質のものです(刑訴法316条の38第4項)。
【参考】心情その他の被告事件に関する意見の陳述(刑訴法292条の2)は、情状事実として量刑の資料とすることができる
「被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述」でなされた陳述は証拠とすることができません。
これに対し、被害者による「心情その他の被告事件に関する意見の陳述(刑訴法292条の2)」は、犯罪事実の認定のための証拠とすることはできませんが(刑訴法292条の2第9項)、
情状事実として量刑の資料とすることはできる
とされます。
なお、被害者による「心情その他の被告事件に関する意見の陳述」は、刑訴法292条の2の「心情等の意見陳述制度」に基づくものであり、被害者参加制度とは別の制度です。
被害者による「心情その他の被告事件に関する意見の陳述(刑訴法292条の2)」は、例えば、「犯罪被害を受けて夜も眠れず、今でも苦しんでいる。被告人には厳罰を望む」などの被害者の気持ち(心情)に関する陳述が該当します。
このような被害者の陳述を、裁判官は、犯人の刑の重さ(量刑)を決める上での資料にすることができます。
つまり、裁判官は、被害者のこのような被害者の「心情その他の被告事件に関する意見の陳述」を汲み取って、犯人により重い刑を科すことができるということです。
これに対して、「被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述(刑訴法316条の38)」は、犯罪事実の認定のための証拠とすることができないことはもちろん、量刑の資料とすることもできません。
このことから言えることは、被害参加人は、
被害者参加人又は被害者参加弁護士による弁論としての意見陳述(刑訴法316条の38)
を行うのであれば、同時に、裁判官に量刑の資料としてもらえる
心情その他の被告事件に関する意見の陳述(刑訴法292条の2)(心情等の意見陳述制度)
も行った方がよいことになります。
次回の記事に続く
次回の記事では、被害者参加制度において被害者をサポートする措置である
- 被害者への付添い、遮へいの措置
- 被害者参加人に対する旅費等の支給制度
を説明します。