法律(刑事訴訟法)

犯罪捜査における写真・動画撮影の適法性 ~「令状による強制での撮影」「承諾ない撮影の適法条件と事例」「エックス線検査による撮影の違法性」を判例などで解説~

誰しも、承諾なしに写真・動画撮影されない自由を持つ

 日本国民は、承諾なしに、むやみやたらに、顔や身体を写真・動画撮影されない自由があることが憲法で保障されています。

 根拠法令は、憲法13条にあり、

『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』

という条文から、 日本国民は、承諾なしに、むやみやたらに、顔や体を写真・動画撮影されない自由をもっているという考え方が導かれます。

 一般人が、勝手に他人の身体の写真撮影や動画撮影をすると、肖像権侵害という民事事件になる可能性があります。

 肖像権侵害は、あくまで民事事件の問題であり、刑事事件の問題にはなりません。

 民事事件になって慰謝料をとられることはあっても、刑事事件になって懲役刑や罰金刑に処せられて前科がつくことはありません。

 YouTubeやTikTokで街中の様子をライブで撮影してインターネット上に流している動画がありますが、これは犯罪にはならないところがポイントです。

犯罪捜査における写真・動画撮影の適法性

令状がある場合の被疑者の写真・動画撮影は適法にできる

 裁判官の発する令状(身体検査令状捜索差押許可状検証許可状など)があれば、捜査機関は、強制的に被疑者や犯行現場の写真・動画撮影をすることができます。

 被疑者や事件関係者が、

「撮影するな!」

などと言って、撮影を承諾しなかったとしても、捜査機関は、

「これは令状が出ている強制捜査だから、撮影は拒否できない」

などと言って、強制的に適法な写真・動画撮影をすることができます。

身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影は令状がなくても強制できる

 捜査機関が、令状なしで、強制処分による写真・動画撮影をすることができる場合があります。

 それは、逮捕・勾留され、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影です。

 身体の拘束を受けている被疑者であれば、被疑者が撮影されることを拒否しても、捜査機関は、令状なしに、強制で被疑者の顔や全身の写真撮影をすることができます。

 ただし、この写真撮影において、被疑者を裸にすることはできません。

 根拠法令は、刑訴法218条3項にあり、

『身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、前項の令状によることを要しない』

と規定されています。

被疑者の承諾のない写真・動画撮影が適法にできる条件

 犯罪捜査において、内偵捜査などの捜査を行うにあたり、捜査機関が、ひそかに、犯人に気づかれないように、被疑者の顔や身体を写真・動画撮影することができるかが問題になります。

 結論として、一定の条件のもとに、捜査機関がひそかに犯人を写真・動画撮影をすることができます。

 その条件とは、

  • 写真・動画撮影の目的が正当であること
  • 犯罪を証明する証拠を得るための必要性と緊急性があること
  • 写真・動画撮影が、一般に許容される限度を超えない相当な方法で行われること

になります。

 たとえば、犯人の疑いのある者を、人物確認のために、内偵捜査をして、ひそかに写真撮影することは適法とされる可能性が高いです。

 この点については、最高裁判例(昭和44年12月24日)で詳細が示されています。

 以下、判例の内容を書きます。

 まず、憲法13条により、何人も、その承諾なしに、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を有することを示します。

 裁判官は、

  • 憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのである
  • これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる
  • そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである

と判示しました。

 次に、捜査機関が、正当な理由なく、犯人の容貌等を写真撮影することがはできないことを示します。

 裁判官は、

  • 警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない

と判示しました。

 しかし、公共の福祉のために必要であれば、捜査機関は、承諾なしに犯人の写真撮影をすることができることも示します。

 裁判官は、

  • しかしながら、個人の有する自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受ける
  • そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない

判示しました。

 最後に、捜査機関が承諾なしに犯人の撮影ができる条件を示します。

 裁判官は、

  • 次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである
  • すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである
  • このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになっても、憲法13条35条に違反しない

と判示しました。

 犯人を写真撮影したときに、その写真に第三者が写り込んでも違法ではないことも示されていることもポイントになります。

被疑者の承諾のない写真・動画撮影が適法とされた判例

最高裁判例(昭和44年12月24日)

 警察官が、公安委員会の許可条件に違反するデモ行進した犯人を写真撮影をしたことについて、裁判官は、

  • 警察官の写真撮影は、現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたものてあって、しかも多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動の性質からいって、証拠保全の必要性および緊急性が認められ、その方法も一般的に許容される限度をこえない相当なものであつたと認められる
  • たとえ、それが犯人ら集団行進者の同意もなく、その意思に反して行なわれたとしても、適法な職務執行行為であったといわなければならない

と判示し、被疑者の承諾のない写真撮影を適法としました。

最高裁判例(昭和61年2月14日)

 高速道路などに速度違反者を取り締まるために設置されているオービス(自動速度監視装置)が、自動で車両と車両運転手の写真撮影をすることについて、裁判官は、

  • 速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反しない
  • また、写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになっても、憲法13条21条に違反しないことは、当裁判所昭和44年12月24日大法廷判決(刑集二三巻一二号一六二五頁)の趣旨に徴して明らかである

と判示し、オービス(自動速度監視装置)による写真撮影を適法としました。

最高裁判例(平成20年4月15日)

 強盗殺人を行った犯人を特定するため、警察官が、

  • 捜査車両の中や付近に借りたマンションの部屋から、公道上を歩いている犯人をビデオカメラで撮影し
  • パチンコ店で遊技する犯人を、店内の防犯カメラや、警察官が用意した小型カメラで撮影した

ことについて、裁判官は、

  • 捜査機関において、被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められる
  • かつ、前記各ビデオ撮影は、強盗殺人等事件の捜査に関し、犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、これに必要な限度において、公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し、あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり、いずれも、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである
  • 以上からすれば、これらのビデオ撮影は、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なものというべきである

と判示し、犯人特定のために、ひそかに行われたビデオ撮影を適法としました。

エックス線検査による撮影は令状がなければできない強制捜査である

 エックス線検査による荷物の撮影は、任意捜査で行うことは違法であり、令状による強制捜査で行わなければならないと判示した判例があります。

最高裁判例(平成21年9月28日)

 覚せい剤の密売容疑のある犯人の事務所に配達された荷物を、捜査機関が、エックス線を照射して中身を観察したことについて、裁判官は、

  • 本件エックス線検査は、荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について、捜査機関が、捜査目的を達成するため、荷送人や荷受人の承諾を得ることなく、これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものである
  • その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される
  • そして、本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって、検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は、違法であるといわざるを得ない

と判示し、荷物をエックス線検査する際には、裁判官の発する令状(検証許可状)が必要であり、強制捜査として行わなければ違法となるとしました。