刑法(殺人予備罪)

殺人予備罪(2) ~「殺人を計画していない者が殺人予備を行った場合、殺人予備罪の共同正犯(共犯)が成立する」「決闘罪の準備行為として殺人予備罪が成立する」を解説~

殺人を計画していない者が殺人予備を行った場合、殺人予備罪の共同正犯(共犯)が成立する

 殺人予備罪(刑法201条)は、

他人を殺す目的で、凶器を用意したり、予定の現場を下見したりする罪

です。

 通常は、殺害の実行を計画している犯人自身が、殺人の予備行為をし、殺人予備罪の犯人となります。

 ここで、問題になるのは、自己には殺人を行う目的がなく、専ら他人が行う殺人のためにする殺人の準備行為をした場合に、殺人予備罪が成立するかという点です。

 この点、判例は、このような場合も、殺人予備罪が成立する(正確にいうと、殺人予備罪の共同正犯(共犯)が成立する)としています。

名古屋高裁判決(昭和36年11月27日)

 他人の殺人行為のために青酸ソーダ(毒物)を準備した者に対し、殺人予備罪の共同正犯(共犯)が成立するとしました。

 また、この判決は、予備罪において幇助犯従犯)が成立しないとことを明示した点も参考になります。

 裁判官は、

  • わが刑法は、予備罪の従犯を処罰するのは、特に明文の規定がある場合にこれを制限し、その旨の明文の規定のない場合は、一般にこれを不処罰にしたものと解すべきである
  • すなわち、総則規定としての刑法62条の規定は、予備罪が独立に処罰される場合においても、当然にその適用があるものではない、ということになるわけである
  • してみれは、殺人罪の予備罪の幇助行為について、特にこれを処罰する法律の規定はないのであるから、被告人の所為を殺人予備罪の幇助 (予備幇助罪)として処罰した原判決は、既にこの点において法律の解釈を誤った違法があるものというべきである

と判示し、原判決(一審判決)がこの事件を殺人予備罪の幇助を認定したことを否定し、殺人予備罪の共同正犯が成立するとしました。

 この事件は、最高裁(最高裁決定 昭和37年11月8日)でも争われ、最高裁裁判官は、上記高裁判決の判断を是認しました。

東京高裁判決(平成10年6月4日)

 オウム真理教によるサリン生成用化学プラントの建設等に関与した教団信者について、殺人予備罪の共同正犯の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 被告人の弁護人は、殺人予備罪が成立するためには、予備行為を行った者が自ら殺人を実行する目的を有していることが必要であるから、大量殺人の目的を有しない被告人に殺人予備罪の成立を認めることはできないという
  • しかし、殺人予備罪の成立には、自己の行為が殺人の準備行為であることの認識があれば足り、その殺人が自ら企図したものであるか共犯者である他の者か企図したものであるかは、その成否を分ける要件ではないと解される
  • したがって、被告人自身に大量殺人の意図がなくても、自己の行為がAらの企図する殺人の準備行為であることの認識がある以上、殺人予備罪が成立するといわなければならない

と判示しました。

決闘罪の準備行為として殺人予備罪が成立する

 殺人の意思をもって決闘をした場合、決闘罪 (決闘を行なったり、その立会人となったり、また、その場所を貸したりするなど、決闘に関係することによって成立する犯罪)(決闘に関する法律第3条)が成立します。

 そして、決闘の際に、殺人の意思をもって決闘の準備をした場合には、殺人予備罪が成立します。

最高裁判決(昭和26年3月16日)

 裁判官は、

  • 決闘とは、当事者間の合意により、相互に身体又は生命を害すべき暴行をもって争闘する行為を汎称するのであって、必ずしも殺人の意思をもって争闘することを要するものではない
  • しかし、決闘にも殺人の意思をもって為されるものもあり得るのであるから、その場合には決闘の罪のほか、殺人の罪の成立することは前記決闘に関する法律第3条に「決闘によって人を殺傷したる者は、刑法の各本条に照らして処断す」とあるによっても明らかである
  • それゆえ、殺人の意思をもって決闘の準備をした場合には、殺人予備罪が成立するものといわなければならない

と判示しました。

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