刑事訴訟法(公判)

裁判を始めるまでの準備手続③ ~「訴訟関係人(検察官、被告人・弁護人、裁判官)の事前準備」を説明

 前回の記事の続きです。

 公判準備(裁判が始めるまでの手続)は、

  1. 被告人への起訴状謄本の送達
  2. 被告人への弁護人選任権の告知
  3. 公判期日の指定
  4. 被告人を裁判に召喚する手続
  5. 訴訟関係人(検察官、被告人・弁護人、裁判官)の事前準備

に分けられるところ、前回の記事では、「③ 公判期日の指定」「④ 被告人を裁判に召喚する手続」を説明しました。

 今回の記事では、「⑤ 訴訟関係人(検察官、被告人、裁判官)の事前準備」を説明します。

訴訟関係人(検察官、被告人・弁護人、裁判官)の事前準備

 公判を迅速かつ円滑に進めるためには、訴訟関係人(検察官、被告人・弁護人、裁判官)が公判前に十分な準備を行っておく必要があります。

 訴訟関係人は、第1回公判期日前に、以下の準備を行う必要があります。

① 検察官、被告人・弁護人の事前準備

 検察官、被告人・弁護人は、以下の事前準備が行う必要があります。

裁判官に提出する証拠の整理の整理と被告人・弁護人への証拠の開示

 検察官は、第1回公判期日前に、裁判官に提出する証拠を整理し、裁判官に提出する証拠を被告人・弁護人に開示して閲覧させる必要があります。

 そして、証拠の開示を受けた被告人・弁護人は、検察官に対し、開示された証拠に対する意見の見込みを伝える必要があります。

 意見の見込みとは、開示された証拠を検察官が裁判官に提出してよいとするのか、それともよいとせずに意義を申し立てるのかという意見をいいます。

 この点についての法の規定は、以下の①~③のとおりです。

  1. できる限り証拠の収集・整理をすること(刑訴法規則178の2)
  2. 検察官は、被告人・弁護人に対し、なるべく速やかに証拠書類・証拠物の閲覧の機会を与えること(刑訴法規則178の6条1項1号、2項3号)
  3. 相手方に対し、なるべく速やかに、閲覧した証拠書類・証拠物についての意見の見込みを通知すること(刑訴法規則178の6条3項1号)

【補足説明】検察官が被告人・弁護人に開示して閲覧させる証拠は、裁判官に提出する証拠に限る

 検察官が裁判官に提出する証拠を被告人・弁護人に開示して閲覧させることについては、刑訴法299条1項本文後段に規定があります。

 この規定は、被告人・弁護人に事前閲覧の機会を与える義務のある証拠について定めたものです。

 事前閲覧の機会を与える義務のある証拠とは、検察官(場合によっては被告人・弁護人)が、裁判官に提出しようとする証拠をいいます。

 なので、裁判官に提出する意思のない証拠、又は、裁判官に提出するか未確定の証拠は、被告人・弁護人に開示して閲覧させる必要はありません。

 この点について、参考となる判例として以下のものがあります。

最高裁決定(昭和34年12月26日)

 裁判官は、

  • 刑訴法299条1項は、検察官、被告人又は弁護人が証拠書類又は証拠物の取調べを請求する場合に関し、請求の条件として、あらかじめその証拠方法を相手方に閲覧する機会を与えなければならないことを規定し、刑訴規則178条の3は、第一回の公判期日前に、右規定により、訴訟関係人が相手方に証拠書類等を閲覧する機会を与える場合には、できる限り、5日(簡易裁判所では3日)の余裕を置かなければならないことを規定するが、これらの規定は当事者が特定の証拠書類等の取調べを請求する場合にのみ関する規定であって、その取調べを請求すると否と、また証拠書類等が証拠能力、事件との関連性を有すると否とを問わず、その所持の証拠書類等の全部を無差別に相手方に閲覧させる機会を与えるべき義務を定め、もしくは裁判所がこれを命令しうべきことを定めたものではない
  • 単に当事者の攻撃防御を適切、迅速、集中的に行わせるため、第一回の公判期日前もしくはその後の公判の段階において、当事者が特定の証拠書類等の取調を裁判所に請求するについては、相手方にあらかじめこれを閲覧させるべきことの条件を定め、もって相手方にその証拠の存在、内容を知らせその取調に関し速かに異議を申立てることをえさせようとするに過ぎないものである
  • 当事者が取調べを請求することを決するに至らない証拠書類等をまで、あらかじめ相手方に閲覧の機会を与えなければならないことを定めたものではない

と判示しました。

最高裁決定(昭和35年2月9日)

 裁判官は、

  • 検察官が未だ取調を請求することを決定するに至らない証拠書類についてまで、公判において取調を請求すると否とにかかわりなく、あらかじめ被告人若しくは弁護人に閲覧させるべき義務はない

と判示しました。

証拠開示以外の準備

 上記の証拠開示以外の準備として、以下のものがあります。

  1. 検察官、被告人・弁護人の間で、起訴状に記載された訴因・罰条(犯罪に適用する条文)を明確にし、又は事件の争点を明らかにするための打合せを行うこと(刑訴法規則178の6条3項1号)
  2. 裁判所に対し、審理に要する見込時間、審理の必要回数を申し出ること(刑訴法規則178の6条3項2号)
  3. 相手方に対し、なるべく早い時期に証人等の氏名・住居を知る機会を与えること(刑訴法規則178の7)
  4. 第1回公判期日において取り調べられる見込みのある証人を、在廷させるよう努めること(刑訴法規則178の13)
  5. 弁護人は、被告人その他の関係者に面接するなどの適当な方法によって、事実関係を確かめておくこと(刑訴法規則178の6条2項1号)
  6. 検察官は、事件に関して押収している物について、被告人・弁護人が訴訟の準備をするに当たりなるべくその物を利用することができるようにするため、その押収物について、還付仮還付を考慮すること(刑訴法規則178の16)

② 裁判官(裁判所)の事前準備

 裁判官(裁判所)も、検察官、被告人・弁護人の事前準備に対応して、以下のような措置を採る必要があります。

  1. 検察官及び弁護人の訴訟の準備に関する相互の連絡がすみやかに行なわれるようにするため、必要があると認めるときは、裁判所書記官に命じて、検察官及び弁護人の氏名を相手方に知らせる等適当な措置を採ること(刑訴法規則178の3)
  2. 検察官又は弁護人に対し、審理の見込み時間を通知すること(刑訴法規則178の5)
  3. 検察官又は弁護人に対し、裁判所書記官に命じて準備状況を問い合わせ、又は、準備を促す処置を採ること(刑訴法規則178の14)
  4. 検察官及び弁護人を出頭させて、訴訟の進行に関する打合せを行うこと(刑訴法規則178の15)

 ④につき、予断排除の原則があるので、事件の予断を生じさせるおそれのある事項(例えば、証拠の内容などの事件の実質に立ち入るおそれのある事項)にわたる打合せを行うことはできません。

 この場合の打合せの対象となるのは、

  • 公判期日の指定
  • その他訴訟の進行に関する事項

になります。