前回の記事の続きです。
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
前回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、証人の負担軽減のための措置である
- 証人尋問の際の証人への付添い
- 証人尋問の際の証人の遮へい措置
を説明しました。
今回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、証人の負担軽減のための措置である
- ビデオリンク方式による証人尋問
を説明します。
証人の負担軽減のための措置
刑事訴訟法は、証人尋問を受ける証人の負担軽減のために、
- 証人尋問の際の証人への付添い
- 証人尋問の際の証人の遮へい措置
- ビデオリンク方式による証人尋問
の手続を定めています。
今回の記事では、③を説明します。
③ ビデオリンク方式による証人尋問
証人が性被害者の場合、法廷に立ち、被告人や傍聴人の面前で、性被害の内容を証言することは、かなり精神的負担が大きいです。
そこで、証人が法廷において、被告人や傍聴人に姿をさらさなくて済むように、
証人は裁判所の別室
にいて、その裁判所別室にいる証人の映像・音声を法廷に映して証人尋問を行う
ビデオリンク方式
という証人尋問の方法が採られる場合があります(刑訴法157条の6)。
ビデオリンク方式による証人尋問は、証人が入る別室には、証人のみが入り、裁判官、検察官、被告人、弁護人は、法廷に残ってモニターを通じて証人の姿を見ます。
ビデオリンク方式による証人尋問を行うことができる事件
ビデオリンク方式による証人尋問の方法を採ることができる事件は、
- 基本的には、性犯罪(以下①~⑨の罪名のもの)
であり、
- 事情によっては、性犯罪の以外の罪名
でもビデオリンク方式を採用することができます。
対象事件が基本的には性犯罪であることについて
ビデオリンク方式による証人尋問を行うことができる事件が性犯罪であることについては、刑訴法157条の6第1項1号に規定があります。
裁判所は、
- 不同意わいせつ罪(刑法176条)
- 不同意性交等罪(刑法177条)
- 監護者わいせつ(刑法179条1項)
- 監護者性交等罪(刑法179条2項)
- ①~④の致死傷罪(刑法181条)
- わいせつ目的誘拐罪、結婚目的誘拐罪(刑法225条)
- 児童福祉法における児童に対する淫行の罪(児童福祉法34条1項6号)
- 児童に対する有害支配の罪(児童福祉法34条1項9号)
- 児童買春法における児童買春の罪(児童買春法4条~8条)
などの犯罪の被害者を証人として尋問する場合において、相当と認めるときは、検察官、被告人又は弁護人の意見を聴き、証人を法廷の外の、法廷と同じ裁判所建物内の別室に在室させ、法廷にいる裁判官や訴訟関係人は、テレビモニターに映る証人の姿や声を見聞きしながら証人尋問を行う、いわゆるビデオリンク方式による証人尋問を行うことができると規定しています。
事情によっては、性犯罪の以外の罪名も対象事件になる
ビデオリンク方式による証人尋問を行うことができる事件が、事情によっては、性犯罪の以外の罪名も及ぶことについては、刑訴法157条の6第1項3号に規定があります。
裁判所は、性犯罪の被害者等以外の者でも、
- 犯罪の性質
- 証人の年齡
- 心身の状態
- 被告人との関係
- その他の事情
により、
裁判官、検察官、被告人又は弁護人が在席する場所において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者を証人として尋問する場合
において、相当と認めるときは、検察官、被告人又は弁護人の意見を聴き、ビデオリンク方式による証人尋問を行うことができると規定します。
例えば、
- 暴力団による組織的犯罪の被害者(理由:暴力団関係者が法廷内にいた場合は恐怖である)
- 年少者である被害者(理由:年少者が大勢の大人がいる法廷に立たされることは精神的ストレスが大きい)
を証人として尋問する場合が該当するといえます。
ビデオリンク方式による証人尋問に併用して、「証人の遮へい措置」、「証人の付添い」を行うことができる
法定の要件を満たす限り、証人尋問の際の証人の遮へい措置、証人尋問の際の証人の付添いは、ビデオリンク方式による証人尋問と併用することができます(刑訴法157条の4、157条の5)。
ビデオリンク方式の証人尋問により、証人が裁判所の別室にいるとしても、法廷内に設置されたモニターを通して、証人の姿は、被告人や裁判の傍聴人に見られてしまいます。
そこで、ビデオリンク方式の証人尋問に、証人の遮へい措置を併用することにより、証人を移すモニターと被告人や傍聴人の間に衝立(パーテーション)を設置することができ、証人は、被告人や傍聴人に姿を見られずにすみます。
また、証人が裁判所の別室にいた場合でも、証人の付添いを付けることが認められれば、証人の精神的な負担軽減につながります。
構外ビデオリンク方式による証人尋問
証人と被告人が、裁判所の同一構内に出頭すること自体により、精神の平穏を著しく害されたり、その身体・財産に対する加害行為などがなされるおそれがある場合があります。
そこで、証人の負担を適切に怪減しつつ証人尋問を行うことができるようにするため、平成28年の刑事訴訟法改正により、
裁判所の同一構内以外
の場所であって、裁判所規則で定めるものに証人を在席させ、法廷にいる裁判官や訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)は、テレビモニターに映る証人の姿や声を見聞きしながら証人尋問を行うという
構外ビデオリンク方式
による証人尋問の規定が設けられました(刑訴法157条の6第2項)。
この制度の目的は、性犯罪の被害者は、裁判官、検察官、被告人、弁護人、傍聴人がいる法廷で証言をすることにより、二次的被害といわれるような強い精神的圧迫を受けることがあるため、こうした精神的圧迫を減することにあります。
さらに、
証人が遠隔地に居住し、その年齢、職業、健康状態その他の事情により、裁判所の同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき
も構外ビデオリンク方式が採用できる場合に該当します(刑訴法157条の6第2項4号)。
これは、証人が遠隔地に居住することに伴う出頭の困難性に着目したて設けられた規定です。
これにより、例えば、証人が福岡県在住で、裁判が東京地方裁判所で行われる状況であった場合に、証人がわざわざ東京地方裁判所に出頭せずとも、福岡地方裁判所に出頭し、ビデオリンク方式により東京地方裁判所とモニターで通信して証人尋問を受けることが可能になります。
ビデオリンク方式や遮へい措置による証人尋問は合憲である
ビデオリンク方式や遮へい措置が採られても審理が公開されていることに変わりはない上、被告人においても証人の供述を聞くことはでき、自ら尋問することもできます。
よって、被告人の証人審問権を侵害しないことから、ビデオリンク方式や遮へい措置による証人尋問は判例で合憲である判断されています。
裁判官は、
- 証人尋問が公判期日において行われる場合、傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られ、あるいはビデオリンク方式によることとされ、さらには、ビデオリンク方式によった上で傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られても、審理が公開されていることに変わりはないから、これらの規定は、憲法82条1項、37条1項に違反するものではない
- また、証人尋問の際、被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られた場合、被告人は、証人の姿を見ることはできないけれども、供述を聞くことはでき、自ら尋問することもでき、さらに、この措置は、弁護人が出頭している場合に限り採ることができるのであって、弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから、前記のとおりの制度の趣旨にかんがみ、被告人の証人審問権は侵害されていないというべきである
- ビデオリンク方式によることとされた場合には、被告人は、映像と音声の送受信を通じてであれ、証人の姿を見ながら供述を聞き、自ら尋問することができるのであるから、被告人の証人審問権は侵害されていないというべきである
- さらには、ビデオリンク方式によった上で被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られても、映像と音声の送受信を通じてであれ、被告人は、証人の供述を聞くことはでき、自ら尋問することもでき、弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから、やはり被告人の証人審問権は侵害されていないというべきことは同様である
と判示し、ビデオリンク方式や遮へい措置による証人尋問は合憲であるとしました。
ビデオリンク方式による証人尋問の録画
裁判所は、ビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合(刑訴法157条の6第2項4号の規定による場合を除く)に、
その証人が、後の刑事手続において同一の事実につき再び証人尋問を受けることがあると思料される場合
であって、証人の同意があるときは、検察官及ひ被告人又は弁護人の意見を聴き、
その証人尋問の状況をビデオテープ等の記録媒体に録画
することができます(刑訴法157条の6第3項)。
その記録媒体は、訴訟記録に添付され、公判調書の一部になります(刑訴法157条の6第4項)。
そして、このような記録媒体が添付された公判調書は、訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)に当該証人を尋問する機会を与えることを条件として、証拠とすることができます(刑訴法321条の2第1項)。
ビデオリンク方式による証人尋問の録画を行う目的
ビデオリンク方式による証人尋問の録画を行う目的は、性犯罪が共犯で犯された場合に、各被告人の公判が分離されているときは(別々の裁判で行われているときは)、被害者がそれぞれの公判において同一の被害事実について繰り返し証言させられることになります。
そのため、被疑者に、複数回、被害状況を法廷で証言させることになり、これは、二次的被害を繰り返す事態となり得えます。
そこで、被害者が、後の公判において、被害の状況を一から改めて証言する弊害を避けるため、ビデオリンク方式による証人尋問を録画して記録媒体に残し、その記録媒体を共犯事件でも使えるようにすることで、繰り返し被害者が証言をしなくても済みます。
その記録媒体は、モニターを通じてではあるものの、裁判官の面前で、かつ証人が宣誓をした上で証言したものである上、その記録媒体に記録された内容は、正に、先の公判で、裁判官がモニターを見て心証を得たものと同一の内容であることから、訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)に反対尋問の機会を保障することを条件に、証拠能力が認められ、犯罪事実を認定する証拠となります。
なお、刑訴法157条の6第2項4号に基づくビデオリンク方式による証人尋問は、証人が遠隔地に居住することに伴う出頭の困難性に着目したものであり、証人に繰り返し証言を強いることによる二次被害を防ぐという趣旨に妥当しないことから、録画の対象から除外されています。
ビデオリンク方式による証人尋問を録画した記録媒体の証拠として採用方法
ビデオリンク方式による証人尋問を録画した記録媒体を添付した公判調書は、訴訟関係人(検察官、被告人又は弁護人)に当該証人を尋問する機会を与えることを条件として、証拠とすることができます(刑訴法321条の2第1項)。
記録媒体が添付された公判調書は、刑訴法321条の2第1項により証拠能力を認めることになりますが、その場合には、裁判官は、必ずその記録媒体を再生して取り調べる必要があります(刑訴法321条の2第2項)。
刑訴法321条の2第1項の規定により取り調べた公判調書に記録された証人の供述は、刑訴法295条1項前段、321条1項1号・2号の適用については、当該公判において証言されたのと同様に扱われます(刑訴法321条の2第3項)。
なので、裁判官は、刑訴法295条1項により、当該調書の取調べ後に行われる証人尋問において、重複する尋問等を制限することができます。
また、尋問調書に記録された供述の内容が、他の裁判官面前調書(裁判官が作成した供述調書、刑訴法321条1項1号)や検察官面前調書(検察官が作成した供述調書、刑訴法321条1項2号)と異なる相反供述であった場合、その裁判官面前調書、検察官面前調書を刑訴法321条1項1号又は2号により証拠として採用することができます。
ビデオリンク方式による証人尋問の状況を記録した記録媒体の謄写はできない
検察官、弁護人は、裁判記録(公判調書や裁判に提出された証拠など)を裁判所に申請して閲覧・謄写することができます(刑訴法40条1項、180条1項、270条1項)。
しかし、ビデオリンク方式による証人尋問の状況を記録した記録媒体については、当該記録媒体が、様々な人の目に触れるようなことがあれば、証人のプライバシー、名誉、心情が害されることが考えられる上、万一これが流出すれば、その被害が拡大することから、検察官、弁護人は、 記録媒体の謄写をすることはできないとされます(刑訴法40条2項、180条2項、270条2項)。
次回の記事に続く
次回の記事では、証拠調べ手続のうちの証人尋問に関し、
- 鑑定人・鑑定証人の尋問
- 通訳人・翻訳人の尋問
を説明します。