前回の記事の続きです。
前回の記事では、
公判廷への被告人・弁護人の出頭
を説明しました。
今回の記事では、
冒頭手続
を説明します。
冒頭手続とは?
公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。
そのうち、冒頭手続は、公判の一番最初に行われる手続きであり、
- 裁判官が被告人に対して行う人定質問
- 検察官による起訴状朗読
- 裁判官が被告人に対して行う黙秘権(供述拒否権)等の告知
- 被告人・弁護人による罪状認否の陳述
の4つの手続きがこの順序で行われます。
① 裁判官が被告人に対して行う人定質問
公判が始まると、まず最初に、裁判長は、被告人に対し、人違いでないことを確かめるに足りる事項(氏名・生年月日・本籍・住居・職業)を質問して確認します(刑訴法規則196条)。
この被告人に対する質問を「人定質問」といいます。
人定質問は、
被告人として公判廷に出頭している人物が、起訴状に被告人として記載されている者と同一人物であるかどうかを確かめるための手続
をいいます。
② 検察官による起訴状朗読
人定質問が終わると、次に検察官が起訴状朗読を行います(刑訴法291条1項)。
起訴状は、必ず朗読することを要します。
被害者・証人等特定事項の秘匿決定があった場合の検察官の起訴状朗読の方法
検察官の起訴状朗読の前に、
- 被害者特定事項の秘匿決定(被害者の氏名などの人定事項が傍聴人に知られないように公判廷で明らかにしないこととする決定)(刑訴法290条の2第1項・第3項)
- 証人等特定事項の秘匿決定(刑訴法290条の3第1項)
があった場合は、検察官は、起訴状朗読を被害者特定事項、証人等特定事項を明らかにしない方法で行わなければなりません(刑訴法291条2項前段、3項)。
具体的には、検察官は、起訴状朗読の際に、被害者や証人の氏名が、公判廷の傍聴席にいる傍聴人に知られないように、その氏名をAさん、Bさんなどの呼称で呼ぶ必要があります(刑訴法規則196条の4・7)。
さらに、この場合において、検察官は、被告人に起訴状を示さなければなりません(刑訴法291条2項後段、3項)。
裁判官による起訴状の求釈明
裁判官は、起訴状の公訴事実の記載が不十分であると考える場合などに、検察官に対し、起訴状の記載に対する釈明を求めることができます(刑訴法規則208条1項、2項)。
裁判官が、検察官又は弁護人に対し、釈明を求めることを「求釈明(きゅうしゃくめい)」といいます。
起訴状記載の公訴事実が訴因の明示を欠いている場合、裁判所は公訴棄却の判決を言い渡すことになります(刑訴法338条4項)。
しかし、裁判官は、いきなり公訴棄却の判決を言い渡すのではなく、検察官に釈明を求めるべきであり、検察官がこれに応じて訴因を明確にしないときに公訴を棄却すべきとされます(最高裁判決 昭和33年1月23日)。
求釈明は裁判官の権限である
釈明を求めることができるのは、裁判官の権限です(刑訴法規則208条1項、2項)。
なので、被告人・弁護人が、検察官に対し、直接、起訴状の内容について釈明を求めることはできません。
この場合、被告人・弁護人は、裁判官に対し、裁判官が検察官に釈明のための質問をするよう求めることになります(刑訴法規則208条3項)。
③ 裁判官が被告人に対して行う黙秘権(供述拒否権)等の告知
裁判官は、検察官の起訴状朗読が終わった後、被告人に対し、
- 終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができること(黙秘権(供述拒否権))(刑訴法291条4項前段)
- 個々の質問に対し陳述をすることもできること
- 陳述をすれば、自己に不利益な証拠ともなり、又は利益な証拠ともなること
を告げる必要があります(刑訴法規則197条1項)。
これは、被告人に対し、
- 黙秘権(供述拒否権)(憲法38条)があること
- 被告人が証拠方法たる地位にあることを知らせること
により、被告人を保護しようとするものです。
人定質問については、黙秘権はない
上記①の人定質問については、被告人に黙秘権はありません。
これは、被告人の人定事項(氏名・生年月日・本籍・住居・職業)は、被告人に不利益な事項ということはできないためです(最高裁判決 昭和32年2月20日)。
なので、裁判官が裁判の最初に被告人の人定確認のため、被告人の氏名を聞いた場合、被告人は黙秘権を行使できません。
④ 被告人・弁護人による罪状認否の陳述
裁判官は、黙秘権(供述拒否権)等の告知が終わった後、被告人・弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければなりません(刑訴法291条4項後段)。
具体的には、被告人・弁護人は、裁判官に対し、公訴事実を認めるか、それとも否認するかを陳述します(これを「罪状認否」といいます)。
次回の記事に続く
次回の記事では、証拠調べ手続の最初に行う
冒頭陳述
を説明します。