刑法(強盗予備罪)

強盗予備罪(5) ~「強盗予備罪の犯意が途切れた場合、次に新たに行う強盗予備罪は別個の強盗予備罪として成立する」「共犯者が異なっても、1個の強盗目的で犯意が継続している場合、1個の強盗予備罪が成立する」を判例で解説~

強盗予備罪の罪数(強盗予備の犯意の個数・継続性、目的とする強盗の個数により評価が分かれる)

 強盗予備罪(刑法237条)の罪数について説明します。

 強盗予備の行為が複数であっても、1個の強盗を目的として、意思を継続して行う限り、1個の予備罪が成立します。

 ただし、目的とする強盗行為が明確に複数あり、本番の強盗自体がそれぞれ別罪を構成する場合ならば、強盗予備罪もそれぞれについて成立すると解されます。

 また、目的とする強盗行為が個別に意識され明確に複数あり、本番の強盗自体がそれぞれ別罪を構成する場合でも、強盗予備行為が1個であるならば、1個の強盗予備罪が成立すると解されます。

 しかし、目的とする強盗行為が個別に意識され明確に複数あるわけではなく、単に強盗をしようという程度の目的の場合には、1個の強盗予備罪が成立するにすぎません。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

名古屋高裁判決(昭和47年12月6日)

 この判例は、同一犯人が、 同一被害者に対する強盗を目的とする意思を継続して、十数日の間に数回にわたり、被害者方に赴き、その都度実行にいたらず、強盗予備に終わった後、強盗の実行行為に着手し、その目的を遂げた事案について、行為全体を包括的に観察して1個の行為とするのが相当であるとし、1個の強盗罪が成立するとしました(なお、強盗予備罪は強盗罪に吸収されて成立しない)。

 裁判官は、

  • 被告人は、生活費や借金の返済に窮して、被告人の父Cおよび母Dが居住する借家の家主で、老夫婦だけで燃料商を営むA方に目をつけ、同人方に押し入り、金員強取することを企て、前後4回にわたり、右A方庭内において、金品強取の機会をうかがったものの、いずれも気おくれがして、これを実行するまでに至らず、他日を期して引き返したのであるが、さらに、同月22日、ついに意を決して、同人方屋内に押し入り、金員を強取するに至ったものである
  • ところで、強盗を遂行する意思で、その予備行為をなし、その意思の発動として、これに接着して強盗を実行したときは、右の予備行為は、当然、強盗の実行行為に吸収され、強盗既遂もしくは未遂の一罪が成立するにとどまる
  • しかし、本件のように、A方から金員を強取するという一つの目的のために、はじめの強盗予備から最後の強盗既遂までの前後17日の間に、5回にわたり、終始強盗の意思を継続して反覆累行したものについては、数次の予備行為がいずれも最後の強盗の実行行為に吸収されるものとは解し難く、また、これを各別に観察して、それぞれ独立した強盗予備ならびに強盗の各罪が成立するものとすることも妥当でなく、結局、右各行為全体を包括的に観察し、1個の行為として評価し、1個の強盗既遂の行為とみなし、強盗の一罪として、被告人を処断すべきものとしなければならない
  • 強盗が一罪であり、意思を継続している以上、強盗予備としては包括して一罪しか成立しないのは当然であり、しかも、予備から強盗の実行の着手へと発展したのであるから、強盗罪のみが成立することもまた当然の結論である

と判示しました。

 なお、強盗予備罪が強盗罪に吸収されることについては前の記事参照。

強盗予備罪の犯意が途切れた場合、次に新たに行う強盗予備罪は別個の強盗予備罪として成立する

 1個の強盗を目的としていても、一旦、予備行為を終了した段階で、強盗を断念し、さらに再び同一の強盗を思い立って予備行為を新たに行ったときには、それぞれ別個の強盗予備罪が成立して、2つの強盗予備罪の関係は併合罪になります。

共犯者が異なっても、1個の強盗目的で犯意が継続している場合、1個の強盗予備罪が成立する

 1個の強盗を目的として、その実行に向けての意思が継続している限り、その強盗予備行為を行うに当たって、別々の共犯者と共謀してこれをした場合でも、1個の強盗予備行為が成立します。

 共犯者が異なると、共謀共同正犯の主体がそれぞれ別個に成立することになりますが、強盗予備の行為者が、前後を通じて同一強盗に向けての意思を継続している限り、強盗予備罪は包括して一罪と解さざるを得ないことになります。

 ただし、当初の共謀と後の共謀とが、それぞれ犯意を別にしている場合には、当初の共謀に基づく強盗予備罪と後の共謀に基づく強盗予備罪は別個に成立し、1個の強盗予備罪ではなく、2個の強盗予備罪が成立します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和26年4月3日)

 Aが、B、Cと強盗を共謀し、被害者方に侵入しようとしてその予備をした後、さらに、別の意思決定に基づき、別個にC、Dと同一被害者方に強盗に押し入ることを共謀し、その目的を遂げたAの行為について、強盗予備罪と強盗罪(強盗予備罪は強盗罪に吸収される)の両罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

 裁判官は、

  • 判示第二の強盗予備罪の行為主体は、被告人及び相被告人(共犯者)A、Bの3人であり、判示第三の強盗既遂罪のそれは、被告人及び相被告人(共犯者)C、Aの3人であって、両者はその行為主体を異にするのみならず、両者は各別の意思決定に基くものであることが明らかである
  • よって、両者が、たとえその被害者を同一にしても、前者が後者に吸収せらるべき筋合でない
  • 従って、原判決が両者を各別に処断したことは相当である

と判示し、強盗予備罪と強盗罪(強盗予備罪は強盗罪に吸収される)の両罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

福岡高裁判決(昭和48年10月17日)

 この判例は、継続した1個の強盗の意思のもとに、強盗予備を行い、次いで強盗致傷に及び、所期の目的を遂げたときは、強盗予備罪と強盗致傷罪における共犯を異にする場合であっても、強盗致傷罪の一罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、B銀行C支店の集金人Aが、日曜日を除き、毎日継続して株式会社D別館から集金し、これを手提鞄に入れて業務上保管したものを強取しようと決意し、まず相被告人(共犯者)Eと共謀のうえ、右犯行に使用するための大型両ロスパナを携えて、Eの運転する軽乗用自動車に同乗し、Aの携えた手提鞄内の現金を狙って強盗の予備をしたが、その間にAが通らなかったり、あるいは途中でAを見失ったため実行するに至らなかった
  • 更に相被告人Fと共謀の上、Aが前記別館から集金を終えて、現金を入れた手提鞄を同所に駐車していた原動機付自転車の後部に積もうとした際、これを強取して当初の目的を達成し、その際、Aに重傷を負わせたことを肯認することができる
  • そして、2回の強盗予備(これが1個の強盗予備となるかどうかについては、ここで触れない)と1回の強盗致傷との関係をみるのに、これらの犯行は、被告人が当初計画したのであり、犯行の際に利用した自動車も、その都度、被告人が調達し、前記スパナも被告人の所有であって、被告人が終始犯行の主動的役割を果したこと、犯行の目的は主として同一被害者が同一場所から集金した現金を奪うことであり、犯行日時、場所は極めて近接しているし、計画ないし実行された犯行の手段、態様であることが明らかである
  • 以上の事実を考え合わせると、2回の強盗予備はEが加担したのに、強盗致傷はFが加担したので、共犯者を異にすることを考慮するとしても、被告人の原判示第一の一、二の各強盗予備と同第二の強盗致傷とは単一、特定の犯意の発現たる一連の動作であると認めるのが相当である
  • してみると、右のような事実関係においては、これを強盗致傷の一罪と認定するのが相当であって、独立した2個の犯罪として認定するのは誤謬といわねばならない
  • 従って、原判決が2回の強盗予備と1回の強盗致傷を独立した3個の犯罪行為として、それぞれ認定したのは事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つた違法がある

と判示し、被告人に継続した1個の強盗の意思を認定できるとして、強盗致傷罪の一罪が成立するとしました。

宮崎地裁判決(昭和52年10月18日)

 この判例は、3回にわたってなされた強盗及び殺人の各予備につき、1個の強盗予備罪及び殺人予備罪が成立するとされ、また、共犯者を異にする強盗及び殺人の各予備と強盗殺人とにつき、1個の強盗殺人罪が成立するとされた事例です。

 裁判官は、

  • 検察官は、被告人がK及びTと共謀のうえ、猟銃、実包、刺身包丁等の凶器を持ち、被害者N方に赴いてなした強盗並びに殺人の予備の事実につき、被告人とK両名の共謀による強盗殺人罪の併合罪として起訴している
  • しかし、関係証拠によれば、被告人が当初からKと相謀って計画し、その犯行の目的、被害法益、場所も同一で犯行日時も近接し、計画ないし実行された犯行の手段、態様、被告人の役割も同様であることが明らかである
  • これらの事実に徴すると、犯行は終始継続した1個の犯意に基づく一連の行動により所期の目的を達成したと認めるのが相当であるから、右の強盗並びに殺人の予備は、当然に実行行為に吸収され、強盗殺人の一罪が成立するにとどまると解する
  • また、S方の各強盗並びに殺人の予備のように、単一の目的のために、同一の犯行態様で10日間に、3回にわたり、終始、強盗殺人の意思を継続して反覆累行したものについては、それが既逐に至らなかった場合においても、各予備行為全体を包括的に観察して、1個の強盗並びに殺人の予備の行為と評価し、強盗予備並びに殺人予備の各一罪が成立すると解する

と判示しました。

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