刑法(住居・建造物侵入罪)

住居・建造物侵入罪⑫ ~「罪数(再度の侵入が併合罪とされた判例、複数の侵入が包括一罪とされた判例、ブロック塀をつたい歩く行為が観念的競合とされた判例)」を解説~

侵入罪の罪数についての判例

 刑法130条の侵入罪の罪数についての理解を深めるため、参考となる判例を紹介します。

1回目の侵入を終えた後、再び侵入行為した場合の罪数についての判例

 住居に侵入し、侵入行為を終え、住居から出た後、再び建物に侵入した場合、

2個の住居侵入罪が成立し、両罪は併合罪になるのか

それとも、2回の侵入行為は包括一罪として、2個ではなく、1個の住居侵入罪として評価されるのか

という疑問が生じます。

 判例は、2個の住居侵入罪が成立し、それぞれ併合罪になるという考え方をとっています。

札幌高裁函館支部判決(昭和25年11月22日)

 同じ住居に、1回目の侵入から約4か月後に、再度侵入した事案で、裁判官は、

  • 住居侵入罪は、人が不法に他人の住居に侵入することによって成立し、もし一旦同所を退去すればその状態は消滅して、その後に再び同所に侵入すれば別個の住居侵入罪を構成するものである
  • 侵入した人が一旦退去すれば、初めに侵入した時にその所持品をそのまま同所に置いていたとしても、その侵入の状態が引続き存在するものとはいえない
  • 被告人は、昭和24年11月6日本件家屋に侵入し、同月8日荷物を置いたまま退去したが、同月16日函館地方裁判所(において)被告人が右家屋に立ち入り、居住者Kの右家屋の占有を妨害してはならない旨の仮処分がなされているのであるから、被告人が、昭和25年4月4日前記のような事情にある右家屋に居住者Kが制止するのも聴かずに入ったことによって住居侵入罪が成立することは明らかである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和27年4月16日)

 約50分の間に国鉄宇都宮駅構内にある4個の建造物に順次侵入した事案で、裁判官は、

  • 建造物侵入罪は、なく他人の看守する建造物に立ち入ることによって直ちに成立し、もし一旦これにより退去すれば、その状態は消滅するものであるから、右退去後、再び該建造物あるいは更に別個の建造物に立ち入れば、前の罪とは別に新たな建造物侵入罪が成立することは疑いのないところである
  • それゆえ、犯人が相次いで多数の建造物に立ち入ったような場合は、その各行為が極めて短時間内になされ、かつ、その各建造物が鉄道の駅の構内のような一定の敷地内に比較的近接して存在する場合でも、犯人に対する建造物侵入罪は犯人が右各建造物に立ち入った回数と一致するものといわなければならない
  • されば、原判決が被告人において、現判示4個の建造物に相次いで立ち入った所為を目して、4個の建造物侵入罪が成立するものとし、これに対し、刑法45条前段その他の併合罪の各規定を適用したのは相当である

とし、4個の建造物侵入罪が成立し、併合罪となると判示しました。

 この判決は、併合罪となると判示していますが、もし、

  • これらの建物が同一の看守者の管理に属する
  • 被告人が一旦敷地内に入ってから、敷地外に出ることなく、敷地内に存在する4個の建造物に順次侵入したものである

という状況であったとしたならば、

  • 被害法益の同一性
  • 同種類の行為の主観的・客観的な継続性
  • 時間的・場所的近接性

という接続犯の判断基準からみて、接続犯として、併合罪ではなく、包括一罪として一罪として評価できるので、検討が必要になります。

複数の侵入行為について、包括して住居侵入罪一罪が成立するとした裁判例

 上記判例とは逆に、複数の侵入行為について、包括一罪と評価し、1個の住居侵入罪が成立するとした判例があります。

名古屋地裁判決(平成7年10月31日)

 この判例は、宗教団体を逃げ出した女性を教団施設に連れ戻すため、その女性の実家を監視する目的で約10日間にわたり、断続的に入れ替わり立ち替わり近くの共同住宅の共用部分に立ち入った事案です。

 宗教団体を逃げ出した女性を宗教団体に連れ戻すため、女性の家を監視する目的で、被告人らが10日間にわたり断続的に入れ替わり立ち替わり同所付近の共同住宅の共用部分に立ち入ったことにつき、包括して住居侵入罪1罪が成立するとしました。

2個の侵入行為(ブロック塀の上を歩く)を観念的競合とした判例

 不正な目的で、2軒の家のブロック塀の上をつたい歩いた行為について、2軒の家の敷地内に侵入したと評価し、2個の住居侵入罪が成立し、両罪は観点的競合の関係に立つと判示した判例があります。

東京地裁判決(昭和57年2月2日)

 この判例は、隣接する囲繞地(いにょうち)の境界に設置されたブロック塀の上を伝い歩く行為は、2個の住居侵入罪を構成し、両者は観念的競合の関係にあるとしました。

 事案の内容は、Hをを襲撃する準備として、Hを偵察する目的で、周囲を塀により囲まれたH方住居のコンクリート塀に上り、そこから隣接するF方住居のブロック塀の上を歩き、HとFの住居の敷地に侵入したというものです。

 裁判官は、

  • H方とF方のブロック塀の上をつたい歩く行為が、それぞれの住居に侵入したものとして2個の住居侵入罪を構成するか否かについて検討する
  • ブロック塀は、公道、空き地当外部からの右ブロック塀の上に立ち入るには、一旦別の塀を乗り越えるか、あるいはいずれかの囲繞地を通過しない限り、決して立ち入ることができない場所に設置されている
  • 換言すれば、右ブロック塀が存在しなくても、これら2個の住居の敷地は全体として囲繞地の一部となる関係にあること、また、右ブロック塀はの幅は、約10センチメートルすなわち、片足の靴幅程度しかなく、しかもそれは、H方家屋とは約80センチメートル、F方とは約70センチメートルしか離れていない、近接した位置に設置されていること、…右ブロック塀は双方の敷地の境界線上あるいはその北側が境界線に接する位置に構築されていることをそれぞれ認めることができる
  • 以上の事実関係の下では、右ブロック塀の上をつたい歩く行為は、囲繞地としての性質を有する双方の住居のそれぞれの敷地内に必然的に立ち入る行為にあたるというべきであるから、2個の住居侵入罪(既遂)を構成し、これらは観点的競合の関係に立つ

と判示ました。

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