侵入した場所が住居の一部か否かの判断
住居のどの部分に侵入すれば、住居侵入といえるのでしょうか?
住居とは、居室内に限る必要はありません。
たとえば、
は、住居部分と認められ、そこに足を踏み入れれば、住居侵入罪が成立します。
家の屋根の上については、以下の参考となる判例があります。
警察官に追われた窃盗犯人が、他人の家の屋根に上がり、3軒の屋根の上を伝って逃げた事案で、裁判官は、
- 住居侵入罪の「侵入」の対象となる住居又は人の看守する建造物の範囲は、住居等の平穏を保護法益とする法の趣旨に則して考うべきところ、住居及び建造物の屋根は構造上それらの構築物の重要な一部であって、その目的からいって通常屋内にて起居している者の頭上に位置するものであるから、屋内で起居する者に無断でそれらの屋根の上にあがることは、住居等の平穏を害する「侵入」に当るといわなければならない
- すなわち、住居等の屋根の上は、 住居侵入罪の住居又は建造物の一部であると解する
と判示し、屋根の上は住居の一部であり、そこに足を踏み入れれば、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立するとしました。
ちなみに、アパートやマンションなどの集合住宅の共用部分については論争があります。
公務員の集合住宅の通路について、「住居侵入罪」ではなく、「邸宅侵入罪」を認定した判例(最高裁判決 平成20年4月11日)があり、集合住宅の共用部分が「住居」なのか「邸宅」なのかに論争があります(詳しくは、前回記事参照)。
囲繞地(生け垣や塀などにより囲まれた庭などの部分)の住居性
住居の生け垣や塀などにより囲まれた庭などの部分を
囲繞地(いにょうち)
といいます。
囲繞地に侵入した場合、囲繞地は住居や建造物の一部として、住居侵入罪や建造物侵入罪の成立が認められるかどうかが疑問になります。
結論は、囲繞地も住居に含むとして、囲繞地に侵入すれば、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立すると解するのが通説になっています。
この点について、以下の判例があります。
東京高判決(昭和30年8月16日)
この判例で、裁判官は、
- 刑法130条にいわゆる住居とは、人の起臥寝食に用いる場所をいうものであるが、家屋が住居に使用されている場合にはその家屋の附属地として専ら住居者が使用し、外来者がみだらに出入りすることを禁じているものと一見して認識され、又は設備によって区割りされた場所は、これを住居の一部とみるべきものと解すべきである
- 被告人の入った場所は、その上の全部に屋根がなく、入口にたまたま被告人侵入の当夜だけは空箱等の障害物が存在しなかったとしても、住居を構成する建造物の間に存する空き地を置いて竹垣の代用としていたような状況で、一見して居住者が看守しているものと認識される場所であったのであるから、これを被害者方住居の一部であると認めるのを相当とする
と判示し、囲繞地も住居の一部だとして、囲繞地に侵入すれば、住居侵入罪が成立するとました。
この判例で、裁判官は、
- 刑法130条にいう「人の看守する建造物」とは、単に建物を指すばかりでなく、その囲繞地を含むものであって、その建物の附属地として門塀を設けるなどして、外部との交通を制限し、外来者がみだりに出入りすることを禁止している場所に故なく侵入すれば、建造物侵入罪が成立するものであることは、当裁判所の判例(昭和24年25年9月27日大審院判決)の示すところである
- A建物の西側に設置されたC構内を外部から区画する塀、通用門及び南側に設置されたテニスコートの金網など既存の施設を利用し、これら施設相互間及びA建物との間の部分に、前記金網柵を構築してこれらを連結し、よって完成された一連の障壁に囲まれるに至った土地部分は、A建物のいわゆる囲繞地というべきであって、その中に含まれる本件土地は、建造物侵入罪の客体にあたるといわなければならない
と判示しました。
この判例で、裁判官は、
- 刑法130条に建造物とは、単に家屋を指すばかりでなく、その囲繞地を包含するものと解するを相当とする
- 本件工場敷地は、工場の附属地として、門塀を設け、外部との交通を制限し守衛警備員等を置き、外来者が、みだりに出入することを禁止していた場所であることは、記録上明らかであるから、所論敷地は刑法130条にいわゆる人の看守する建造物と認めなければならない
と判示し、工場の囲繞地に侵入した事案について、建造物侵入罪の成立を認めました。
囲繞地に塀の上は含まない
囲繞地は、塀などにより囲まれた庭などの部分をいいます。
では、塀の上によじ登るなどして、塀の上に上がった場合、囲繞地に侵入したとして、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立するかが疑問になります。
結論として、塀の上は囲繞地に含まず、塀の上に上がったとしても、住居侵入罪や建造物侵入罪は成立しません。
なお、この場合、軽犯罪法違反1条32号(立ち入り禁止場所への侵入)の罪は成立する可能性があります。
この点について、以下の判例があります。
- 本件塀は建造物とはいえず、これに上って立った被告人の行為は建造物侵入罪を構成しない
- また、八尾警察署の敷地内に入り込む意思のなかった被告人について、建造物侵入未遂罪を適用する余地もないから、建造物侵入の公訴事実については、刑事訴訟法336条前段に基づき無罪を言い渡すべきものである
と判示し、塀の上に上がったとして建造物侵入罪で起訴された犯人に対し、裁判官は無罪を言い渡しました。
囲繞地といえるためには、どの程度の囲障の設備が必要か?
囲繞地といえるためには、どの程度の囲障の設備があることを要するかが問題になります。
この点については、以下の判例でその基準を示しています。
大審院判決(昭和14年9月5日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
この判例は、門構はあるが、門の戸がない敷地内を囲繞地と認め、囲繞地といえるための設備の一定の判断基準を示しました。
東京地裁判決(昭和63年4月26日)
公務員の合同宿舎(アパート)に接して、その周囲に位置し、周囲は塀、金網製フェンスなどの囲障が設置され、出入口のうち2か所は、鎖などを用いて車両などの出入りを規制できる設備が設けられ、他の出入口は階段式になっていて、車両の出入りはできない敷地内に侵入した事案で、
- 管理者の職員が2,3日に一度巡回しており、また、居住者自治会の当番が日常の管理を任され、敷地内への違法駐車の取締りなどをしているという管理状況を考慮して、集合住宅に付属する囲繞地である
と判断しました。
この判例は、囲障などの設備だけでなく、敷地内の管理状況も考慮して、敷地の囲繞地性を判断した点が参考になります。
人が不適法に居住する家に侵入しても、住居侵入罪は成立する
不適法に人が居住する家に侵入した場合、住居侵入罪が成立するかという点が疑問になります。
この疑問に対する答えは、
不適法な住居であっても、その住居の平穏は保護されるべきなので、その住居に侵入すれば住居侵入罪が成立する
となります。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(昭和3年2月14日)
家屋の賃貸借契約が解除された後も、借家人が退去しないでそこに居住していたところ、賃貸人がその家屋に侵入した事案につき、住居侵入罪の成立を認めました。
名古屋高裁金沢支部判決(昭和26年5月9日)
裁判で明け渡しが調停された賃貸家屋について、賃借人が未だその家屋を賃貸人に明け渡していなかったところ、その家屋の賃貸人が、家屋の塀を乗り越えて家屋に浸入した事案で、裁判官は、
- 賃借人は、被告人(賃貸人)の所有する家屋を不法に占有するものであって、被告人は賃借人に対し、即時該家屋の明け渡しを請求する権利を有するものである
- しかしながら、権利者が自己の権利を実現するためには、すべからく公力の救済を仰ぐべく、別の事情もないのに、合法の手段もよらず、占有者の意思に反して、他人の看守する家屋に浸入した被告人の所為は、刑法130条に該当する
と判示し、不法に賃借物件に居座る賃借家屋に、賃貸人が侵入した行為に対し、住居侵入罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和27年12月23日)
家屋の貸主が、賃借契約の終了を理由として、家屋明渡を求める正当管理権の行使として、借主の管守する家屋に対し、自力による救済に訴えた行為に対し、裁判官は、
- 解除後といえども、その借家人において、事実上これを住居に使用している限り、たとえ所有権者又はその管理者において、その権利の行使として適法な手段による官憲の救済によることなく,自力による救済に訴えることは、法の容認しないところである
として、家屋の貸主が賃借契約の終了を理由として、家屋明渡を求める正当管理権の行使として、借主の管守する家屋に対し、自力による救済に訴えることは、住居侵入罪を構成するとしました。
この判例は、
- 住居侵入罪は、故なく人の住居又は人の看守する邸宅、建造物等に侵入し、又は要求を受けて、その場所より退去しないことによって成立するであり、その居住者又は看守者が法律上正当の権限をもって居住し、又は看守するか否かは犯罪の成立を左右するものではない
と判示し、人が法律上正当な権限をもって住んでいる家でなかったとしても、その家に侵入すれば、住居侵入罪が成立するとしました。
住居の所有関係は問題にならない
住居侵入罪の成立にあたり、住居の所有関係が問題になりません。
たとえ、住居の所有権が住居侵入の犯人にあったとしても、その住居に他人が住んでいる場合、その住居に侵入すれば、住居侵入罪が成立します。
たとえば、アパートの大家さんが、自分が所有するアパートだからといって、アパートの借主の部屋に勝手に入れば、住居侵入罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
札幌高裁函館支部判決(昭和25年11月22日)
この判例で、裁判官は、
- 住居侵入罪は、現に平穏にその住居において生活している人の安寧を保護するすることを目的とし、その所有権が誰に帰属するかは、これを問わない
- 仮に被告人(住居侵入をした犯人)に本件家屋の所有権があったとしても、係争中の本件家屋に、住居者の反対を無視し、しかも単なる訪問又は何かの要件があってではなくて、家屋を住居に使用する目的で入ったことが認められるから、住居侵入罪が成立する
と判示しました。
「人の住居」における「人」とは?
刑法130条は、『人の住居…に侵入し…た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する』と規定しています。
「人の住居」とは、
犯人以外の他人の住居
という意味です。
平たく言うと、他人の家に侵入すれば、住居侵入罪が成立します。
犯人も居住する共同生活住居への侵入
共同生活がされている住居について、もし犯人自身がその共同生活を営む者の一人であったとしても、共同生活を一時的に離脱しているという状況があれば、その共同生活住居は、他人の住居という認定になり、その共同生活住居に侵入すれば、住居侵入罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例は、家出中の息子が、強盗の目的で実父宅へ侵入した事案について、住居侵入罪の成立を認めました。
裁判官は、
- 強盗の目的で、しかも共犯者3名をも帯同して、深夜、家宅内に侵入したとあっては、たといそれがかつては自らも住み慣れたなつかしい実父の家であるとしても、父としても、世間としても、これを目して正当な「故ある」家宅の侵入とは認みえないであろう
- されば、被告人らの所為は、数人共同して住居侵入罪を実行した場合に該当することもちろんである
と判示しました。
死者の住居への侵入
死者の住居も、人の住居といえる場合があり、その住居に侵入すれば、住居侵入罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判決(昭和57年1月21日)
東京のマンションに一人で住んでいた女性をおびき出して殺害した上、約25時間後に、殺害した女性の家に侵入した事案で、裁判官は、
- 被告人らは、A子を殺害する前から、A子を殺害した後、A子方に侵入することを企図していたものであり、その実行に及んだものであること、殺害現場とA子方住居との距離や時間的経過の点は、…それほど大きいものではないと考えられること、A子の死亡の事実は被告人らだけが知っていたものであること、A子方は施錠され。A子の生前と同じ状況下にあったことなどの諸点からすれば、A子方の住居の平穏は、被告人らの侵入の時点においても、A子の生前と同様に保護されるべきものである
- 被告人らは、その法益を侵害したものと解される
と判示し、殺害して死亡しているA子の家に侵入した行為について、住居侵入罪の成立を認めました。