強制わいせつ罪(刑法176条)と
- 公然わいせつ罪
- 強制性交等罪
- 特別公務員暴行陵虐罪
- 逮捕監禁罪
- わいせつ目的略取・誘拐罪
- 住居侵入罪
- 強盗罪
- 児童福祉法違反、児童ポルノ製造罪、青少年保護育成条例違反
との関係について説明します。
① 公然わいせつ罪との関係
強制わいせつ罪と公然わいせつ罪(刑法174条)との関係について説明します。
強制わいせつ罪が公然と犯された場合について、判例は、強制わいせつ罪と公然わいせつ罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとしています。
大審院判決(明治43年11月17日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
なお、強制わいせつ罪と公然わいせつ罪の両者の成立が認められる場合は、両罪の構成要件を充たす場合です。
たとえば、強制わいせつを屋外で行っても、不特定多数の人の目に触れるような場所でなかった場合は、公然わいせつの構成要件を満たさず、強制わいせつ罪のみが成立することになります。
② 強制性交等罪との関係
強制わいせつ罪と強制性交等罪(刑法177条)との関係について説明します。
同一の被害者に対して接着して強制わいせつ行為と強制性交行為が行われた場合は、両者を包括して強制性交等罪の一罪が成立します。
この点について判示した以下の判例があります。
東京地裁判決(平成元年10月31日)
この判例で、裁判官は、
- 強制わいせつとこれに接着して強姦が行われた場合は、これを包括して1個の強姦行為と評価すべきである
と判示しました。
③ 特別公務員暴行陵虐罪との関係
強制わいせつ罪と特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)との関係について説明します。
特別公務員暴行陵虐罪の暴行として強制わいせつ行為が行われた場合、特別公務員暴行陵虐罪と強制わいせつ罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になります。
参考となる判例として、以下のものがあります。
大審院判決(大正4年6月1日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
大阪地裁判決(平成5年3月25日)
この判例は、現職警察官が、職務遂行中に所持品検査を装い、15歳の少女に対し、パトカー内等でわいせつ行為に及んだ事案について、強制わいせつ罪及び特別公務員暴行陵虐罪(観念的競合)の成立を認め、実刑を言い渡した事例です。
裁判官は、
- 被告人の弁護人は、本件において、強制わいせつ罪は特別公務員暴行陵虐罪に包摂されると主張するが、両罪は観念的競合の関係に立つと解すべきである
と判示しました。
④ 逮捕監禁罪との関係
強制わいせつ罪と逮捕監禁罪(刑法220条)との関係について説明します。
逮捕・監禁を手段として、強制わいせつ罪又は強制性交等罪を犯した場合には、逮捕・監禁行為が、そのまま強制わいせつ罪の手段である暴行となっているような場合には、観念的競合が成立する余地もありますが、通常は併合罪と解すべきとされます。
参考となる判例として、以下のものがあります。
この判例は、恐喝の手段として行った監禁について、恐喝罪と監禁罪の両罪が成立し、両罪は併合罪となるとしました。
恐喝罪と監禁罪の事案ですが、考え方は、強制わいせつ罪と監禁罪の場合も同様です。
裁判官は、
- 恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても、両罪は、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものとは認められず、牽連犯の関係にはないと解するのが相当である
とし、恐喝罪と監禁罪は牽連犯の関係にはならず、併合罪の関係になるとしました。
仙台高裁判決(昭和40年4月8日)
この判例は、婦女を不法監禁し、その継続中に強姦の犯意を生じて実行された場合も、両者は強姦実行の時点でたまたま重なり合うにすぎないから、1個の行為ではなく、別個独立の2個の行為と解すべきであり、右不法監禁行為と強姦行為とは想像的競合(※観念的競合のこと)の関係にあるのではなく、併合罪の関係にあるものというべきであるとしました。
監禁罪と強制性交等致傷罪とが観念的競合の関係にあるとされた事例
監禁罪と強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪 刑法181条2項)とが観念的競合の関係にあるとされた事例があるので紹介します。
強制性交等致傷罪の事案ですが、強制わいせつに置き換えて考えることができます。
広島地裁判決(昭和52年5月30日)
この判例で、裁判官は、
- 被告人らが、被害女性を自動車後部座席に強引に座らせ、同車を発車させた時点に、強姦の着手行為があったと認めるのが相当である
- 年若い女性が深夜、車に閉じ込められ、しかも、その車が発進するときは、それだけでも脱出が著しく困難となり、かつ畏怖の念をつのらせるのが通常であるうえ、本件においては、乗車させられた車内に男4人が座乗し、かつ、その内の2名に両脇から挾まれて事実上脱出不能にされたのであるから、車の発進によって、被害者が反抗し救援を求めることが物理的に不可能となるのみならず、被害者は当然に強姦の危険を直感し畏怖の念を生じるとともに、抵抗の無力さを悟り抵抗心、反抗心を喪失するに至ったものと認定するのはさほど困難ではなく、また、かような現実の事態を把握し、あわせて被告人らの強姦の犯意の強さを考慮するならば、かかる行為の段階で、既に被害者の反抗を著しく抑圧するに足る脅迫行為(すなわち強姦の着手)の存在が認められるからである
- ところで、右強姦の着手時点が、同時に本件監禁の着手に当たることは多言を要しない
- そして、強姦行為の終了とほぼ時を同じくして被害者の拘束は事実上解かれ、その後帰途についているのであるから、監禁行為の終了時もそのときと認定して妨げない
- 以上の認定によれば、本件強姦致傷(現行法:強制性交等致傷)と監禁は、行為の主体、客体ともに同一人であり、かつ犯行の着手、終了の全過程において時間的、場所的に完全に合致するところから、文字通り自然的観察のもとにおいても社会通念上「1個の行為」によって実現されたものといわなければならない
- したがって、当裁判所は、本件判示の所為を、刑法54条1項前段の観念的競合と解するを相当とするものである
と判示しました。
札幌高裁判決(昭和53年6月29日)
この判例も、監禁罪と強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)とが観念的競合の関係にあるとされた事例です。
裁判官は、
- 頭初の脅迫が、監禁罪の実行の着手であると同時に強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)の実行の着手でもあると解され、監禁と強姦の両行為が、時間的・場所的にも全く重なり合うのみならず、監禁行為そのものも強姦の手段たる脅迫行為をなしている場合においては、行為を、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個の評価を受けるか否かの観点にたって考察すると、右両罪は観念的競合の関係にあると解するのが相当である
と判示しました。
⑤ わいせつ目的略取・誘拐罪との関係
わいせつ目的略取・誘拐罪(刑法225条)と強制わいせつ罪との関係について説明します。
わいせつ目的略取・誘拐罪(刑法225条)と強制わいせつ罪は、通常、わいせつ目的略取・誘拐行為と強制わいせつ行為が手段と結果の関係になるので、両罪は牽連犯の関係になります。
参考となる判例として、以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和45年12月3日)
この判例は、強制わいせつの犯行が、わいせつの目的をもって誘い出したその場所において行われている場合には、そのわいせつ誘拐と強制わいせつとは、刑法54条1項後段で規定する牽連犯の関係にあるとしました。
裁判官は、
- わいせつ誘拐と強制わいせつとは、通常、手段・結果の関係にあり、従って、刑法第54条第1項後段で規定する牽連犯の関係にあるものと解せられる
と判示しました。
⑥ 住居侵入との関係
住居侵入(刑法130条)を手段として強制わいせつ罪を犯した場合、住居侵入罪と強制わいせつ罪は、手段と結果の関係になるので、両罪は牽連犯となります。
⑦ 強盗罪との関係
強盗罪(刑法236条)と強制わいせつ罪との関係について、以下の判例が参考になります。
東京高裁判決(昭和50年12月4日)
この判例は、暴行により抵抗できない状態にある子供に対する強制わいせつ行為中に、財物奪取の意思を生じ、子供のズボンに手をさしこんで財布を取り出して奪取し、わいせつ行為を続けた後、強制わいせつ及び強盗の犯行発覚を免れようとして子供を殺害した場合には、強盗殺人が成立し、強制わいせつ罪との観念的競合になるとしました。
裁判官は、
- 被告人が被害者を襲ったそもそもの目的が強制わいせつ行為にあったことはもとよりであっても、強制わいせつ行為の過程における強盗の成立を認めながら、その直後の殺害行為を強盗から切り離し、強盗殺人罪の成立を否定すべき理由はないのである
- すなわち、被告人の行為は強盗殺人罪を構成し、刑法240条後段を適用すべきものである
- 強制わいせつと強盗殺人の所為とは1個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法54条1項前段、10条により一罪として重い強盗殺人罪の刑で処断することとして、所定刑中無期懲役刑を選択する
と判示しました。
大阪高裁判決(昭和61年10月7日)
この判例は、強制わいせつ目的でされた暴行、脅迫によって反抗を抑圧された被害者から、その畏怖状態を利用して金員を領得する行為を強盗罪とし、強制わいせつ罪と強盗罪とは併合罪の関係にあるした事例です。
裁判官は、
- 被告人が、強制わいせつの犯行の際、被害者からの提供に基づくとはいえ、現金5万円を奪取したことは明らかである
- しかも、その方法は、同女の手から直接交付を受けたか又はいったん同女がその面前で台所のテーブルの上に置いたのを奪ったかのいずれかであり、右のいずれの方法によったとしても、当時被告人が被害者の前示金員提供の趣旨と、それまでの自己の言動により被害者が痛く畏怖していることをよく認識していたことを推認するに難くないところである
- よって、少なくとも右金員提供の段階において、被告人がこれを奇貨として金員取得の犯意を生じ、自己の先行行為による被害者の畏怖状態を利用するとの意思のもとに右金員を強取するに至ったことは否定できないものというべきである
- 両罪(強制わいせつ罪と強盗罪)は、刑法45条前段の併合罪である
と判示しました。
⑨ 児童福祉法違反、児童ポルノ製造罪、青少年保護育成条例違反との関係
強制わいせつ罪と「児童福祉法違反」、「児童ポルノ製造罪」、「青少年保護育成条例違反」との関係について説明します。
児童福祉法違反との関係
18歳未満の児童に対し、暴行・脅迫によってわいせつ行為をすることが同時に、児童に淫行をさせることに当たる場合は、強制わいせつ罪と児童福祉法の淫行をさせる罪(児童福祉法34条1項6 号・60条1項)との双方が成立する場合があり得えます。
この場合、両罪における保護の重点のおきかたの違いからみて、強制わいせつ罪と児童福祉法の淫行をさせる罪は、観念的競合になると解すべきとされます。
児童ポルノ製造罪との関係
児童ポルノ製造罪(児春7条3項)と強制わいせつ罪は、併合罪になると解されています。
ちなにみ、児童ポルノ製造罪(児春7条3項)と児童福祉法の淫行をさせる罪(児童福祉法34条1項6 号・60条1項)とは、併合罪の関係になると判示した以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては、児童福祉法34条1項6号違反の児童に淫行をさせる罪と児童買春・児童ポルノ等処罰法7条3項の児童ポルノ製造罪は、観念的競合の関係にはなく、併合罪の関係にある
と判示しました。
少年保護育成条例違反との関係
各都道府県の条例で制定される青少年保護育成条例における児童と淫行をする罪は、強制わいせつ罪に吸収されます。
強制わいせつ罪の記事まとめ(全5回)
強制わいせつ罪(1) ~「強制わいせつ罪とは?」「保護法益」「主体・客体」「強制わいせつ罪における暴行・脅迫の程度」を判例で解説~
強制わいせつ罪(2) ~「わいせつ行為の定義と具体的行為」を判例で解説~
強制わいせつ罪(3) ~「強制わいせつ罪の故意(性的意図、年齢の認識)」を判例で解説~
強制わいせつ罪(4) ~「13歳未満の者に対して暴行・脅迫によってわいせつ行為をした場合には、刑法176条の前段後段を問わず刑法176条の一罪が成立する」「複数の被害者がいる場合、被害者の数に応じた個数の強制わいせつ罪が成立する」を判例で解説~
強制わいせつ罪(5) ~「強制わいせつ罪と①公然わいせつ罪、②強制性交等罪、③特別公務員暴行陵虐罪、④逮捕監禁罪、⑤わいせつ目的略取・誘拐罪、⑥住居侵入罪、⑦強盗罪、⑧児童福祉法違反・児童ポルノ製造罪・青少年保護育成条例違反との関係」を判例で解説~