強盗罪と銃砲刀剣類所持等取締法違反・火薬類取締法違反との関係
強盗罪(刑法236条)と銃砲刀剣類所持等取締法違反(銃刀違反)・火薬類取締法違反との関係について説明します。
強盗の暴行・脅迫の手段として、
- ナイフ、日本刀などの刀剣類
- 拳銃、猟銃などの銃器類
を用いることが多々あります。
ナイフ、日本刀、拳銃、猟銃を所持すれば、銃刀法違反(銃刀類の不法所持)が成立します。
拳銃、猟銃などの銃器類を所持すれば、弾丸に入った火薬を不法に所持したことになり、火薬類取締法(火薬の不法所持)が成立します。
そして、強盗の際に、ナイフ・拳銃などを所持すれば、強盗罪が成立するほか、強盗罪とは別に、銃刀法違反や火薬類取締法が成立し、両罪は併合罪になります。
この点を判示した以下の判例あります。
この判例で、裁判官は、
- 銃砲等所持禁止令(現行法の銃刀法)違反罪と強盗罪との関係についても、前者は鉄砲等の不法所持自体によって成立し、その犯罪構成要件も被害法益も後者とは異なるのみならず、銃砲等の不法所持は強盗罪の要素に属するものではない
- それ故に、被告人が日本刀を所持したのは、時間的には、強盗行為の間だけであったとしても、強盗罪の中に銃砲等所持禁止令違反罪(銃刀法違反)が吸収せられて、強盗罪のほかに別罪が成立するのではないという所論(弁護人の主張)は採用できない
と判示し、銃刀法と強盗罪の両罪が行為として重なり合っていても、別罪が成立し、両罪はは併合罪であるとしました。
この判例で、裁判官は
- 短刀不法所持(銃刀法違反)と短刀を突付けての強盗とは、犯罪構成要件も異なり、被害法益も異なっているから、原判決が併合罪の規定を適用したのは正当である
- また、短刀不法所持(銃刀法違反)は、強盗罪の性質上、その手段として普通に用いられる関係にあるものと言うことができないから、両者は牽連関係を有しないのである
と判示し、銃刀法違反と強盗罪は、併合罪としてそれぞれ成立する上、牽連犯として一罪にならないことも明示しました。
名古屋高裁金沢支部判決(昭和30年3月17日)
この判例は、強盗予備罪(刑法237条)と銃刀法違反(拳銃の不法所持)の関係につき、
と判示し、強盗予備罪と銃刀法違反は、併合罪として、それぞれ成立するとしました。
強盗罪と銃刀法違反が観念的競合になる場合がある
上記説明のとおり、強盗罪と銃刀法違反(銃刀類の不法所持)とは、構成要件も、保護法益も異なるから、両者について別罪が成立して併合罪となり、一方が他方に吸収される関係にもありません。
しかしながら、稀なケースとして、強盗罪と銃刀法違反とが、併合罪ではなく、観念的競合の関係になって一罪として処断されることがあります。
観念的競合とは、一個の行為が二個以上の罪名に触れ(刑法54条前段)、法的評価を離れ、構成要件の観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいいます(最高裁判決 昭和49年5月29日)。
なので、たとえば、
- 強盗と銃刀法違反とが時間的に重なり合っている場合
- 入手と所持自体が当該強盗の予備として行われ、犯行後これを捨てたような場合
- 銃やナイフの携帯行為が、強盗のためにだけになされ、社会的事実としても一個の行為と考えられる場合
には、一個の行為が二個以上の罪名に触れるに当たり、両者を観念的競合と解する場面もあると思われます。
参考となる判例として、以下の判例があります。
大阪高裁判決(昭和24年12月19日)
この判例は、
- 本件日本刀の携帯所持は、強盗行為の時間中の所持を指すものと解さなければならないから、被告人の行為は刑法第54条第1項前段の1個の行為にして、2個の罪名に触れる場合にが当たる
と判示し、強盗罪と銃刀法違反の観点的競合を認定しました。
補足説明
上記説明のとおり、強盗罪と銃刀法違反は、通常、併合罪の関係に立ちます。
これは、強盗罪と火薬類取締法違反の場合も同じであり、強盗罪と火薬類取締法違反は、通常、併合罪の関係に立ちます。
対して、銃刀法違反と火薬類取締法違反の関係については、観念的競合にの関係になります。
拳銃などの銃砲類は、弾丸を発射して初めて武器としての威力を持つから、その所持・携帯が銃刀法違反となる場合の多くは、弾丸の不法所持である火薬類取締法違反が成立し、両者は観念的競合となります。