刑事訴訟法(捜査)

捜索・差押え・記録命令付差押えとは?⑤ ~「電磁的記録(電子データ)の捜索・差押え」「不正アクセス禁止法との関係」「外国サーバデータの差押え(国際捜査共助)」「押収に対する不服申立て(準抗告)を判例などで解説~

電磁的記録(電子データ)の捜索・差押え

 差し押さえる物が、

電磁的記録(パソコンやスマホで作成された電子データ)

の場合は、電子データを

  • 複写(コピー)
  • 印刷(紙にプリント)
  • 移転(切り取りコピー)

する方法で差し押さえることができます。

 根拠法令は、刑訴法110条の2にあります。

刑訴法110条の2

 差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状の執行をする者は、その差押えに代えて次に掲げる処分をすることができる。公判廷で差押えをする場合も、同様である。

1 差し押さえるべき記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写し、印刷し、又は移転した上、当該他の記録媒体を差し押さえること。

2 差押えを受ける者に差し押さえるべき記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写させ、印刷させ、又は移転させた上、当該他の記録媒体を差し押さえること。

 差し押さえるべき電子データが、業務用のインターネットサーバ内に記録されている場合に、サーバ自体を差し押さえると、業務に多大な経済的損害を発生させてしまうなどの事態を招くことから、サーバー自体ではなく、電子データだけを差し押さえることができるように、上記のような規定が設けられています。

 「移転(切り取りコピー)」の方法で電子データを差し押さえた場合は、差押えを受けた者の手元から電子データがなくなっている状況なので、捜査の用が済んだら、その電子データを差押えを受けた者にコピーさせるなどして、還付(返却)しなければなりません(刑訴法123条3項222条1項)。

電子データの差押えを受ける者にパソコン・スマホを操作させることができる

 電子データを差し押さえるに当たり、差押えを受ける者に対し、パソコン・スマホを操作させるなどの協力を求めることができます。

 根拠法令は、刑訴法110条の2にあります。

刑訴法110条の2

 差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。公判廷で差押え又は捜索をする場合も、同様である。

 パソコンやスマホ内のどこに差し押さえるべき電子データが保存されているかについては、パソコンやスマホを扱っている者でなければ分からない場合が多いです。

 そこで、差押えを受ける者に、

  • パソコンやスマホの操作方法の説明
  • 電子データの保存場所の説明
  • 電子データや、スマホ・パソコンのパスワード解除

などの協力を要請することができます。

 あくまで協力要請ができるにとどまるので、強制をすることはできません。

 ここで、差押えを受ける者が捜査に協力せず、パソコン・スマホのログインパスワードや、差し押さえる電子データの暗号解除パスワードが分からない場合が問題になります。

 結論として、差押えを受ける者が、捜査機関に対し、パスワードの解除を拒否した場合は、パスワードの解除を強制することはできないので、電子データの差押えできないという結果になると考えられます。

パソコン・スマホのログインと不正アクセス禁止法との関係

 他人のパソコンやスマホに、ログインID、パスワードが分かっているからといって、パソコンやスマホの管理者の承諾なしに、勝手に他人のパソコンやスマホにログインすると、不正アクセス禁止法に違反することになります。

 捜査機関が、他人のパソコンやスマホのログインIDやパスワードを知っているからといって、パソコンやスマホの管理者の承諾なしに、勝手にログインすることはできないと考えれます。

 パソコンやスマホの管理者が「ログインしてもいいですよ」とログインを承諾していれば問題ないですが、ログインを承諾していない場合は、令状(記録命令付差押許可状)の発付を裁判官から受けた上でログインする必要があると考えられます。

インターネット・サーバ上の電子データの差押え

 差し押さえる電子データが、インターネットの接続先にあるパソコンサーバ内にある場合でも、その電子データを、USBメモリーなどに複写(コピー)して差し押さえることができます(刑訴法218条2項)。

 ここでのポイントは、差押えの方法が「複写(コピー)」に限定されることです。

 パソコンサーバ内の電子データを差し押さえる場合は、「移転(切り取りコピー)」による差押はできません。

電子データが外国にあるパソコン・サーバ内に保存されている場合の国際捜査共助

 日本の捜査機関の捜査権は、外国には及びません。

 なので、外国にあるインターネットに接続されたパソコンサーバ内に保存された電子データの差押えができるかが問題になります。

 結論として、日本の捜査機関が、勝手に、インターネット回線を通じて、外国に設置されているパソコンサーバ内の電子データを差し押さえることはできません。

 この場合、国際捜査共助の方法をとり、外国に対し、日本の刑事事件の捜査協力を要請することになると考えられます。

押収に対する不服申立て

 捜査機関がした押収(差押え・領置)に対して不服がある場合、押収の処分を受けた者は、裁判所に不服を申し立てることができす(刑訴法430条)。

 ちなみに、この時に行う不服申立てを『準抗告』と呼びます。

 押収に対する不服申立ての内容として、

  • 押収の取消し請求
  • 押収物の還付(返還)請求

が考えられます。

 なお、不服申立てができるのは「押収」に対してであり、「捜索」に対する不服申立てはできません。

 押収物の還付の不服申立てが認められる場合は、

押収物の留置の必要がない

のに、捜査機関が押収物の留置を継続している場合が該当します。

 根拠法令は、刑訴法123条1項にあり、

押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない

と規定されています。

 この点について、最高裁判例(平成15年6月30日)があり、裁判官は、

  • 捜査機関による押収処分を受けた者は、刑訴法222条1項において準用する123条1項にいう「留置の必要がない」場合に当たることを理由として、当該捜査機関に対して押収物の還付を請求することができる

と判示しています。

『捜索・差押え・記録命令付差押えとは?』の記事一覧

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