公訴時効とは?
公訴時効とは、
犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると犯人を処罰することができなくなる(検察官が起訴することが出来なくなる)という定め
をいいます。
公訴時効が経過し、公訴権が消滅した事件(検察官が起訴することができなくなった事件)については、検察官は事件を不起訴処分とし、起訴がなされた場合には、裁判所はその事件について免訴の判決を言い渡さなければなりません(刑訴法337条4号)。
公訴時効の期間(時効期間)
公訴時効の期間(時効期間)は、刑訴法250条で以下のとおり定められています。
1 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑に当たるものについては、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
- 無期拘禁刑に当たる罪については30年
- 長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については20年
- 前二号に掲げる罪以外の罪については10年
2 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
- 死刑に当たる罪については25年
- 無期拘禁刑に当たる罪については15年
- 長期15年以上の拘禁刑に当たる罪については10年
- 長期15年未満の拘禁刑に当たる罪については7年
- 長期10年未満の拘禁刑に当たる罪については5年
- 長期5年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪については3年
- 拘留又は科料に当たる罪については1年
3 前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる罪についての時効は、当該各号に定める期間を経過することによって完成する。
- 刑法第181条の罪(人を負傷させたときに限る。)若しくは同法第241条第1項の罪又は盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和5年法律第9号)第4条の罪(同項の罪に係る部分に限る。) 20年
- 刑法第177条若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪 15年
- 刑法第176条若しくは第179条第1項の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法第60条第1項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。) 12年
4 前二項の規定にかかわらず、前項各号に掲げる罪について、その被害者が犯罪行為が終わった時に18歳未満である場合における時効は、当該各号に定める期間に当該犯罪行為が終わった時から当該被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間を経過することによって完成する。
公訴時効の起算点
公訴時効の起算点の考え方は、刑訴法253条で以下のとおり定められています。
1 時効は、犯罪行為が終った時から進行する。
2 共犯の場合には、最終の行為が終った時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。
公訴時効の起算点の考え方を詳しく説明します。
結果犯の公訴時効の起算点
結果犯(例えば、窃盗罪)の公訴時効の起算点は、犯罪行為が終わった時であり、その時から公訴時効が進行します。
例えば、令和6年3月10日に窃盗罪(公訴時効7年)を犯した場合(窃盗罪の犯行終了をさせた場合)、令和6年3月10日が公訴時効の起算点となり、時効完成日は7年後の令和13年3月9日になります。
参考となる以下の判例があります。
犯罪行為とは刑法各本条所定の結果をも含む趣旨と解するのが相当であるから、業務上過失致死罪の公訴時効は、当該犯罪の終了時である死亡の時点から進行を開始すると判示しました。
包括一罪の公訴時効の起算点
包括一罪の公訴時効の起算点は、最終の犯罪行為が終わった時であり、その時から公訴時効が進行します(最高裁判決 昭和31年8月3日)。
例えば、夜の2時間のうちに、3回にわけて、倉庫から米俵を盗んだ場合、3個の窃盗罪ではなく、1個の窃盗罪が成立します(最高裁判例 昭和24年7月23日)。
この場合の窃盗罪の公訴時効の起算点は、最後の窃盗行為が終わった時となります。
営業犯の公訴時効の起算点
営業犯の公訴時効の起算点は、最終の犯罪行為が終わったの公訴時効の起算点は、最終の犯罪行為が終わった時であり、その時から公訴時効が進行します。
営業犯とは、犯罪を職業として、または営業として行う場合であり、例えば、無免許医業罪(医師法31条1項1号・17条)が営業犯に該当します。
参考となる以下の判例があります。
営業犯の公訴時効は、いわゆる包括一罪の場合と同様に、その最後の犯罪行為が終ったときから進行すると解すべきものであると判示しました。
観念的競合の公訴時効の起算点と時効期間
観念的競合(例えば、公務執行妨害罪と傷害罪:警察官を殴ってけがをさせ、公務の執行を妨害するとともに傷害を負わせる)になる犯罪の公訴時効の起算点は、最終の犯罪行為が終わった時であり、その時から公訴時効が進行します。
そして、時効期間は、最も重い罪について定めた時効期間によります。
公務執行妨害罪(刑法95条)の法定刑は3年以下の懲役なので、時効期間は3年となります。
傷害罪(刑法204条)の法定刑は15年以下の懲役なので、時効期間は10年となります。
よって、観念的競合になる罪は、最も重い罪について定めた時効期間によるので、時効期間は傷害罪の10年となります。
参考となる以下の判例があります。
刑法54条1項前段のいわゆる観念的競合は、一個の行為が数個の罪名に触れる場合に、科刑上一罪として取り扱うものであるから、公訴の時効期間算定については、各別に論ずることなく、これを一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効期間によるを相当とすると判示しました。
牽連犯の公訴時効の起算点と時効期間
牽連犯(例えば、住居侵入罪と窃盗罪:窃盗をするために住居に侵入)になる犯罪の公訴時効の起算点は、最終の犯罪行為が終わった時であり、その時から公訴時効が進行します。
牽連犯は、観念的競合の場合と同様に、最も重い刑を標準に最終行為の時から公訴時効が起算されます。
住居侵入罪(刑法130条)の法定刑は3年以下の懲役なので、時効期間は3年となります。
窃盗罪(刑法235条)の法定刑は10年以下の懲役なので、時効期間は7年となります。
よって、牽連犯になる罪は、最も重い罪について定めた時効期間によるので、時効期間は傷害罪の7年となります。
参考となる以下の判例があります。
牽連犯において、目的行為がその手段行為についての時効期間の満了前に実行されたときは、両者の公訴時効は不可分的に最も重い刑を標準に最終行為の時より起算すべきものと解するのが相当であると判示しました。
公訴時効の停止
公訴時効は、 以下の①~⑤の場合に停止します。
- 被告人に対して公訴を提起したとき(刑訴法254条1項)
- 共犯者に対して公訴を提起したとき(刑訴法254条2項)
- 被告人が国外にいるとき(刑訴法255条1項)
- 被告人が逃げ隠れているため有効に起訴状謄本の送達(又は略式命令の告知)ができなかったとき(刑訴法255条1項)
- 少年事件について、一般の通告(少年法6条1項)又は調査官の報告(少年法7条1項)により家庭裁判所に係属した場合には、審判開始決定(少年法21条)があったとき、検察官等からの送致により事件が係属した場合には、事件送致を受けたときから保護処分の決定確定に至るまで(少年法47条)
公訴時効の停止につき、参考となる判例などを紹介します。
「①被告人に対して公訴を提起したとき」に関する判例
公訴提起による公訴時効の進行停止(刑訴法254条1項)は、起訴状の謄本が不送達となったため、公訴が棄却された場合(刑訴法339条1項1号)にも適用があります(最高裁決定 昭和55年5月12日)。
起訴状記載の訴因が特定していないため、公訴が棄却された場合(刑訴法338条1項)であっても、それが特定の事実について検察官が訴追意思を表明したものと認められるときは、公訴事実と同一にする範囲において、公訴時効の進行を停止する効力を有します(最高裁決定 昭和56年7月14日)
「②共犯者に対して公訴を提起したとき」について
刑訴法254条2項の「共犯」は、必要的共犯を含み、刑訴法9条2項の「共に犯したものとみなす。」場合を含みません。
「③被告人が国外にいるとき」に関する判例
刑訴法255条1項前段は、犯人が国外にいる場合は、そのことだけで、公訴の時効はその国外にいる期間中進行を停止することを規定したものです(最高裁判決 昭和37年9月18日)。
犯人が国外にいる間は、それが一時的な海外渡航による場合であっても、刑訴法255条1項により公訴時効は進行を停止します(最高裁決定 平成21年10月20日)。