刑事訴訟法(公判)

裁判⑧~「管轄違いの裁判」を説明

 前回の記事の続きです。

管轄違いの裁判の裁判

 終局裁判の種類は、

に分けられます。

 刑事訴訟法などの訴訟法上において「裁判」とは、

裁判所又は裁判長・裁判官の意思表示的な訴訟行為

をいいます。

 一般的には、刑事事件の公判手続などの訴訟手続の全体を指して「裁判」ということが多いですが、訴訟法上は、訴訟手続の中の、裁判所又は判長・裁判官の意思表示的訴訟行為だけを「裁判」といいます。

 この記事では、管轄違いの裁判について説明します。

管轄違いの裁判

 被告事件が、その裁判所の管轄(審級管轄、事物管轄、土地管轄)に属しないときは、原則として、判決で管轄違いの言渡しがなされます(刑訴法329条本文)。

 受訴裁判所(検察官からの起訴を受理した裁判所)が、起訴を受けた事件について管轄権(裁判を行う権限)を有することは、公訴提起・審判を有効にするための条件(訴訟条件)です。

 なので、管轄権利を欠く場合は、審理を進めることができないため、管轄違いという形式裁判によって訴訟係属を打ち切ることをします。

 例えば、東京地方裁判所に

住居侵入罪刑法130条前段

で検察官が起訴したところ、審理の途中で

軽犯罪法違反(不法侵入、軽犯罪法1条23号、法定刑は科料であるため簡易裁判所の専属管轄)

に当たることが判明したときには、受訴裁判所は、事物管轄を有しないため、刑訴法329条により「管轄違い」の判決をして訴訟手続を打ち切ることになります。

 そして、検察官は、あらためて東京簡易裁判所に対し、軽犯罪法違反(不法侵入)の訴因で公訴を提起することになります。

※ 訴因の説明は前の記事参照

 なお、審級管轄と事物管轄は、 審理の全過程を通じて存在しなければなりませんが、土地管轄は、公訴提起時にあればよいので、審理の途中で、被告人が裁判所の管轄地外に引っ越したなどで土地管轄がなくなっても、管轄違いとはなりません。

管轄違いの判決が言い渡されない場合

 例外として、以下の①~③の場合は、管轄違いの判決は言い渡されません。

① 被告人が土地管轄がないことに異議がない場合

 土地管轄については、被告人からの申立てがなければ、管轄違いの言渡しはできません。

 また、被告人からの土地管轄違いの申立ては、証拠調べを開始した後はすることができ
ません(刑訴法331条1項

 土地管轄は、主として被告人の防御の便宜のためのものです。

 例えば、東京に住む被告人が東京の裁判所ではなく、北海道の裁判所で裁判を受けさせられた場合、遠方の裁判所ゆえに被告人が裁判の準備を十分にすることができないおそれがあり、被告人に不利となります。

 土地管轄は被告人の防御の便宜のためにあるので、土地管轄がなくても、被告人がそれに異議がなく審理に応じた場合には、その裁判所に土地管轄を創設することにしたものです。

② 高等裁判所の専属管轄である内乱罪を騒乱罪に認定する場合

 高等裁判所が第一審事物管轄を有する事件(特別権限に属する事件:内乱罪に係る事件が該当)として公訴が提起された事件が、下級の裁判所の管轄に属するものであるときは、管轄違いの言渡しをせず、決定で管轄権を有する裁判所に移送します(刑訴法330条)。

 これは、内乱罪刑法77条)の訴因で高等判所に起訴したが(裁判所法16条4項)、後で訴因を騒乱罪刑法106条)に変更したような場合に生じます。

③ 準起訴手続によって審判に付された事件

 準起訴手続付審判手続)によって審判に付された事件は、仮に管轄違いの場合であっても、管轄違いの言渡しができません(刑訴法329条ただし書)。

 これは、審判に付する裁判所が管轄を間違えることはまずない上、管轄違いの言渡しをするとその後の手続が煩雑になるため、管轄権を創設することにしたものです。

管轄違いの場合であっても、それまで行われた訴訟手続は効力を失わない

 管轄違いの場合であっても、それまで行われた訴訟手続は効力を失いません(刑訴法13条)。

 これは「手続維持の原則」に基づくものです。

 訴訟手続は、前の手続と後の手続との連鎖からなっており、後の手続は前になされた手続が有効であることを前提として進められます。

 なので、前になされた手続が無効であった場合に、後でなされた手続まで無効ということになると、訴訟手続の計画性・安定性が損なわれ、訴訟経済に反します。

 そこで、仮に前の手続が無効であっても、後の手続はなるべく有効なものとして取り扱う必要があるので、管轄違いの場合であっても、それまで行われた訴訟手続は効力を失わないとされます。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

移送の裁判

を説明します。

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