刑法(盗品等に関する罪)

盗品等に関する罪④ ~「即時取得・加工・付合による盗品等としての性格の喪失」「被害者による2年間の回復請求権」「盗品等を処分して得た現金の盗品等該当性の否定」「盗品である現金を両替しても盗品等該当性は否定されない」を判例で解説~

即時取得による盗品等としての性格の喪失

 即時取得民法192)とは、たとえば、

本当は時計の所有者ではないBさんから、時計を買ったAさんについて、Aさんが、Bさんを時計の所有者だと信じて買った場合に、Aさんは、時計について完全な権利を取得できる

とする民法の制度です。

 この即時取得の制度により、善意無過失で物を取得した者は、取得した物がいわくつきだったとしても保護され、その物を正当に取得することができます。

 この即時取得の制度は、盗品等の買い受け人にも適用され、盗品等の買い受け人が善意無過失だった場合は保護されます。

 具体的には、即時取得により、善意無過失の第三者(たとえば、盗品の買い取り人)が、盗品の所有権を取得した場合には、その買い取った盗品は、盗品等としての性格が失われることになり、盗品を取得した者が、盗品等に関する罪(刑法256条)で処罰されることはありません。

 たとえば、窃盗犯人から、リサイクルショップの店長が、善意無過失で盗品を買い取った場合、買い取った盗品は、即時取得により、盗品として性格が失われるので、リサイクルショップの店長に対し、盗品等に関する罪(盗品等有償譲受け)は成立しません。

 判例も同様の考え方を採用しています。

大審院判決(明治39年2月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗の贓物といえども、善意の占有者が、その盗品に対し、所有権を取得したる以上は、完全なる処分権を有するものとす
  • 従って、占有者より、その物件を収受し、又は、寄蔵故買し、もしくは、牙保したる者は、たとえ情を知り、これを行うも、贓物に関する犯罪を構成すべきものにあらず

と判示しました。

大審院判例(大正6年5月23日)

 この判例で、裁判官は、

  • 「甲」は、贓物たるの情を知らずして、善意無過失にて、横領罪の犯行者たる「乙」よりこれを取得したる場合において、物件は贓物たるの性質を喪失するをもって、たとえ、被告において、片面的に贓物たることを知り、これを「甲」より買い受けたるとするも、贓物故買罪(盗品等有償譲受け)を構成すべきものにあらず

と判示しました。

 この場合、窃盗の被害者は、窃盗犯人に盗まれた被害品に対する追求権(財産犯の被害者が被害物を追求・回復する権利)が認められず、違法状態も存しないという考え方がとられます。

 しかし、それでは窃盗の被害者があまりにも救われません。

 なので、民法は、窃盗などの財産犯全般の被害者を救済するため、次で説明する「盗品等の例外規定(被害者による2年間の回復請求権)」を用意しています。

盗品等の例外規定(被害者による2年間の回復請求権)

 先ほど、盗品を即時取得民法192)した者に対し、窃盗の被害者は、被害品に対する追求権(財産犯の被害者が被害物を追求・回復する権利)が認められないという話をしました。

 普通に考えると、これでは、あまりにも窃盗の被害者が救われません、

 そこで、民法193条で例外規定(救済規定)が設けられています。

 民法193条の規定で、

盗品・遺失物について、被害者・遺失者は、盗難・遺失の時より2年間は、占有者(盗品・遺失物を入手した者)に対して、その物の回復を請求することができる

としました。

 この規定により、盗品・遺失物の所有権は、善意取得者に帰属することになるものの、旧権利者(窃盗被害者など)は、2年間に限り、回復請求権(現所有者に対する被害品の返還や買取り請求)をすることができます。

 判例(最高裁決定 昭和34年2月9日)も、

  • 贓物に関する罪は、被害者の財産権の保護を目的とするものであり、被害者が民法の規定により、その物の回復を請求する権利を失わない以上、その物につき贓物罪(盗品等に関する罪)が成立する

と判示し、盗品等の被害者に、法律上の回復を求める権利がある以上、盗品等は、盗品の性格を失わず、盗品等に関する罪が成立するという立場をとっています。

 ちなにに、盗品・遺失物以外の物には、民法193条の2年間の回復請求権はありません。

 なので、盗品・遺失物以外の物については、新権利者の即時取得により、盗品等としての性格が問答無用で失われることになるので、たとえ悪意の人がその物を買い取るなどしても、盗品等に関する罪は成立しません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治38年3月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 民法193条は、盗品もしくは遺失物におけるがごとく権利者の意思に反して占有の喪失ありたる場合にのみ適用せらるべきものとす
  • 従って、取締役がその職務上保管せる財物を不正に処分したる場合には、これ(民法193条)を適用することを得ず

と判示しました。

加工・付合による盗品等としての性格の喪失

加工・付合によって、盗品等該当性は否定される

 盗品に対する加工付合によって、旧所有権者の所有権が否定されるような場合は、盗品は、盗品等に関する罪における「盗品等」としての性格を失い、本罪は成立しないことになります。

 判例も、この考え方を採用しています。

大審院判決(大正4年6月2日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強窃盗の犯人が、贓物の原形を変更したるのみにして、工作を加えたるにあらざるときは、被害者は、これがために、その所有権をう失うことなし
  • 窃取または強取し来たりたる貴金属類の原形を変して作りたる金塊を故買したる所為は、刑法第256条第2項の罪を構成するものとす

と判示し、盗品の原形を変更するのは盗品等としての性格を失わないが、盗品を工作(加工・符合)を加えた場合は、盗品等として性格を失うことを示しました。

 ちなみに、民法の規定は以下のとおりです。

 民法246条1項は、他人の動産に工作を加えた場合、その加工物の所有権は、材料の所有者に属するが、工作により生じた価格が著しく材料の価格を超えるときは、加工者が所有権を取得すると規定します。

 民法243条では、動産の付合につき、主たる動産の所有者に所有権が移ると規定します。

加工

 加工については、民法上、

  • 加工により新しい動産が生じたこと
  • 加工物は原材料(盗品等)より著しく価値が高いこと

の2点を満たせば、加工者に所有権が移転するとしています(民法246条1項)。

 さらに、民法では、加工が行われた場合で、原材料の所有者が不利益を被った場合、原材料の所有者は、加工者に対し、原材料の返還を請求することはできず、民法703条704条(不当利得)により償金を請求できるにすぎないとされます。

 これら民法の規定を踏まえると、刑法上の盗品等としての性格を喪失したかどうかは、

  • 新しい加工物といえるかどうか(新しい物でないとすれば盗品等としての性格が維持されていることとなる)
  • 著しい価値の変動があるかどうか

を考えればよいことになります。

 盗品等としての性格を喪失したかどうかの判断基準は、判例の傾向を追って理解することになります。

 判例の多くは、加工とはいえないとか、新しい加工物ではないとして、盗品等としての性格を肯定しています。

大審院判決(大正13年1月30日)

 この判例は、

  • 盗伐した木材の製材、搬出等は民法246条の加工ではない

としました。

大審院判決(大正4年6月2日)

 この判例は、

  • 強窃取した貴金属類の原形を変更して金塊としたものは金属に工作を加えたものではない

としました。

最高裁判決(昭和24年10月20日)

 盗品の婦人用自転車の車輪2個とサドルを、本犯(窃盗犯人)所有の男子自転車の車体に取り付けた事案で、

  • 組替え取付けて男子用に変更したからといって、両者は原形のまま容易に分離し得ること明らかであるから、これをもって両者が分離することできない状態において付合したともいえない
  • また、婦人用自転車の車輪及び「サドル」を用いて、Aの男子用自転車の車体に工作を加えたものともいうことはできない
  • されば、中古婦人用自転車の所有者たる窃盗の被害者は、依然としてその車輪及び「サドル」に対する所有権を失うべき理由はなく、従つて、その贓物性を有するものであること明白である

と判示し、サドルの取り付けは、工作を加えたものとはいえないとしました。

大審院判決(大正5年11月6日)

 この判例は、

  • 窃取したアルミニウム製弁当箱や鉛管をつぶし、又は溶解して原形を変更しても、被害者の所有権は失われない

としました。

大審院判決(大正11年4月28日)

 この判例は、

  • 窃取したアマルガムの一片に、火力を加えて金銀塊としても、外形の変更にこだわらず、鉱物として当初より包含せられる物質の主要部分は、依然、現存するから、盗品等としての性格に変わりはない

としました。

 これらの判例は、盗品等の同一性の点を判示したものです。

 現状の変更があっても、同一性があるということは、加工物ではないことを意味するので、これらの判例は、加工・付合に関する判例と理解することができます。

 次に、加工により新しい物が生じたが、著しい価値の変動がないとして盗品等に当たることを肯定した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治38年9月15日)

 この判例は、

  • 遺失物の生地でがいとうを仕立てた場合でも、著しく服地の価格を超過しない

として、盗品等該当性を肯定しました。

 没収に関する判例ですが、加工により物の同一性が否定され、そのも物を没収することはできないとして判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正6年6月28日)

 この判例は、

加工により、該反物が他の物と合体し、ひとつの新しき衣類に変更したるものなれば、現物を没収することわざる

と判示しました。

付合

 付合について、盗品等の同一性が否定されなかった判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和24年10月20日)

 先ほども紹介した判例ですが、盗品の婦人用自転車の車輪2個とサドルを、本犯(窃盗犯人)所有の男子自転車の車体に取り付けた事案で、

  • 組替え取付けて男子用に変更したからといって、両者は原形のまま容易に分離し得ること明らかであるから、これをもって、両者が分離することできない状態において付合したともいえない

と判示しました。

 次の判例は、民事の判例ですが、盗品等に当たるか否かの認定の参考になる判例です。

大審院判決(昭和13年9月1日)(民事)

 この判例は、

  • カッターシャーリングマシーンの一部である口ーラー受ローラーブラシ等を撤去し、代わりに自己の特許装置を溶接付置した場合、付合により機械所有者がその所有権を取得する

としました。

大審院判決(昭和18年5月25日)(民事)

 この判例は、

  • 発動機を船に取り付けても付合は成立しない

としました。

 なお、民法245条の混和の場合にも、加工や付合と同じく、盗品等の同一性の問題を検討することになると考えられます。

盗品等の代替物

1⃣ 盗品等を処分して得た現金は盗品等該当性が否定される

 盗品等を売却して得た金銭について、現行法では、盗品等と同一性を失い、盗品等であることを否定する立場をとっています(大審院判決 明治24年7月6日)。

 この意味は、窃盗犯人が、盗んだ盗品である時計を売却して、現金化し、その現金を第三者に譲り渡したとしても、盗品等に関する罪(盗品等無償譲受け、運搬、保管、有償譲受け、有償処分あっせん)は成立しないということです。

 詐取した小切手を現金化して得た現金や、窃取した預金通帳から引き出した現金についても、盗品等該当性が否定され、第三者が、その現金を譲り受けるなどしても、盗品等に関する罪は成立しません。

2⃣ 盗品である現金を両替しても盗品等該当性は否定されない

 窃盗犯人が盗んだ盗品が、現金そのものだった場合は、その現金は、盗品等に該当し、第三者が、その現金を譲り受けるなどすれば、盗品等に関する罪が成立します。

 ここで、盗んだ現金を、両替や種類変更した場合に、盗品等としての性格に影響を与えるかが問題になります。

 結論として、判例は、盗んだ現金を両替・種類変更しても、盗品等の性格を失わないとして、盗品等に関する罪の成立を認めています。

大審院判決(大正2年3月25日)

 この判例は、 押収物の被害者還付に関する判例ですが、

  • 横領した紙幣の両替金について、両替しても通貨である点は異ならない

として盗品等該当性を認めています。

大審院判例(大正11年4月18日)

 この判例は、横領金に関して、

  • 金銭を横領して、自己の取引の証拠金に供し、取引後にその返還を受けた場合には、その金銭の盗品等該当性は失われない

としています。

 盗品が現金の場合には、現金の現物自体にさしたる意味がなく、現金の具有する価値だけが問題で、代替性自体現金個有のものとみられる関係から、現金の両替や種類変更は、盗品等としての性格に影響を与えないという考え方がとられます。

 判例も、このような考え方を採用しているものと考えられます。

森林窃盗(森林法199条)における贓物(盗品)の加工は、盗品等の性格を失わせない

 特別刑法による贓物罪として、

  • 森林窃盗の贓物収受罪(森林法201条1項,3年以下の懲役又は30万円以下の罰金)
  • 森林窃盗の贓物の運搬,寄蔵,故買,牙保罪(森林法201条2項,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)

があります。

 森林法199条は、

  • 森林窃盗の贓物を原料として木材、木炭その他の物品を製造した場合には、その物品は、森林窃盗の贓物とみなす

と規定して、加工によって財物の同一性を失い、加工物について贓物性が失われないことを定めています。

 森林窃盗の対象となる木材等は、加工を前提とするものであることから、この規定の存在理由があると考えられます。

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