盗品等に関する罪(刑法256条)の行為は、
刑法256条1項の
- 無償譲受け(収受)
刑法256条2項の
の5種類と定められています。
※( )内は、平成7年改正前の旧刑法の罪名の呼び方です。
1項の無償譲受けは、本犯(窃盗等の犯人)の事後従犯的、助長犯的性格が薄いことから、軽い刑が定められています(法定刑:3年以下の懲役)。
これに対し、運搬、保管、有償譲受け、有償処分のあっせんは、本犯の犯行を容易にし、事後従犯的性格が強いことから、1項の無償譲受けよりも重い刑が定められています(法定刑:10年以下の懲役及び50万円以下の罰金)。
これから、この5種類に行為について、複数回の記事に分けて解説していきます。
今回の記事では、無償譲受け(盗品等無償譲受け罪)について解説します。
盗品等無償譲受け罪を解説
判例の定義
無償譲受けについて、判例(大審院判例 大正6年4月27日)は、
- 贓物収受罪(盗品等無償譲受け罪)は、贓物(盗品等)たるの情を知り、無償にてこれを取得したる場合に限り成立す
と判示して定義し、無償譲受け罪の要件は、盗品等の知情、無償、取得の3つが必要となることを示しています。
「無償の譲受け」とは?
無償とは、窃盗の犯人から盗品を譲り受けるに当たり、現金などの対価を支払わずに譲り受けるという意味です。
判例において、
は、無償譲受け行為に該当すると判断されています(大審院判決 大正6年4月27日、福岡高判決 昭和26年8月25日)。
反対に、判例で、無償譲受け行為に該当しないと判断された行為として、
があります(大審院判例 明治45年4月8日)。
さらに、以下の判例で、
- 一時使用目的の借受け
についても、無償譲受け行為に該当しないと判示されています。
※ 盗品の一時使用目的の借受けは、盗品等保管罪の方を成立させると考えられます。
この判例で、裁判官は、
- 贓物収受の罪(盗品等無償譲受け罪)は、贓物であることの情を知りながら、これを無償で収得すること、例えば、その情を知りながら、贓物の贈与を受け、又は、無利息消費貸借にって借受ける場合のように、無償でその所有権を取得することによって成立する
- 単に一時使用の目的で借受けるが如きは、贓物寄蔵の罪(盗品等保管罪)となることはあっても、贓物収受の罪(盗品等無償譲受け罪)とならない
- 被告人は、Aより同人が窃取した空気銃1丁をその情を知りながら、使用の目的で借受けたというのであって、その所有権を取得したものでないことは明らかである
と判示し、一時使用目的の借受けは、盗品等無償譲受けに当たらないとしました。
物の受渡しを要する
無償譲受けは、単に約束や契約だけで成立せず、現実の物の受渡しがあって成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例は、盗品であることを知りながら、盗品の一部の贈与を受ける約束で、ひとまず盗品の全部を受け取った場合、盗品の全部を受け取った者が、あとで盗品全部のうち贈与を受ける部分を選択することになっていても、盗品の全部を受け取った時点で、盗品等無償譲受け罪が成立するとしました。
裁判官は、
- 被告人は、A、Bの両名から、A、Bが他から窃取したものであることを承知の上で、洋服生地5碼半のうち、約2碼半をもらい受けることとし、その部分は被告人の選択にまかされ、5碼半全部の引渡を受けたことが認められるのである
- 従って、5碼半のうち、約2碼半については、贓物収受罪(盗品等無償譲受け)を構成する
と判示しました。
盗品等無償譲受け罪の成立時期が、選択の時でなく、物の受渡しの時であるとするのは当然といえます。