盗品等に関する罪(刑法256条)の行為は、
刑法256条1項の
刑法256条2項の
の5種類と定められています。
※( )内は、平成7年改正前の旧刑法の罪名の呼び方です。
今回の記事では、有償譲受け(盗品等有償譲受け罪)について解説します。
盗品等有償譲受け罪を解説
「有償譲受け」とは?
有償譲受けとは、
窃盗犯人が盗んだ盗品を、金銭を払って買い取る行為
をいいます。
有償譲受けの範囲
有償譲受けの範囲(内容)は、盗品を買い取るだけでなく、
- 債務の弁済(大審院判決 大正12年4月14日)
- 利息付消費貸借(福岡高裁判例 昭26年8月25日)
などの名目でも成立します。
上記の大審院判決(大正12年4月14日)において、
と判示し、売買によらずとも、盗品の所有権を有償で取得すれば、盗品等有償譲受け罪となります。
要物性(現実の物の引き渡しを要する)
盗品等有償譲受け罪は、有償譲受けの契約をするだけでは成立せず、現実に物の引渡しを受けることが必要です。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(大正12年1月25日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)は、贓物たる情を知って、売買交渉等の有償行為により、これを受領するによりて成立するものにして、単に売買を約するも受領の事実に伴わざるは、その罪(盗品等有償譲受け罪)を構成せず
と判示しました。
大審院判決(昭和14年12月22日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)の成立には、情を知りて、売買交換その他有償行為により、贓物を受領することを要し、贓物の売買を約するのみにては足らざるものとす
と判示しました。
盗品等有償譲受け罪が、現実の物の引き渡しを要する点については、盗品等無償譲受け罪、盗品等運搬罪、盗品等保管罪と同じです。
盗品買取りの契約の細部が決められていなくても、盗品の引き渡しがあれば、本罪は成立する
盗品買取りの契約の細部が決められていなくても、有償の約束で、現実に盗品の引渡しを受ければ、盗品等有償譲受け罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例(盗品であるガソリンを買い受けた事案)で、裁判官は、
- 贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)は、犯人が贓物たる情を知って買受けることを承諾し、その引渡を受けた以上、その目的物の数量やその代金額について、具体的の取り極めがなくても成立するものである
- 被告人Cは、相被告人Bから、贓物たるガソリンをその情を知りながら買受けることを承諾したものであり、そのガソリンは被告人Cが自宅から持ってきた同人の石油缶に注入されたのであるから、注入と同時にガソリンの引渡を受けたものである
- 然らば、その目的物の数量や代金額等が具体的に取り極められなくとも、被告人Cに対して贓物故買罪が成立する
- 数量や価格について具体的の交渉がなされていないとしても、既にその買受を承諾し、引渡を受けた以上、それをもって単なる売買の下交渉の程度で本件贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)が不成立であると言うことはできない
と判示しました。
代金額の協定を後日に行うことにした場合でも、本罪は成立する
盗品買取り金額の協定を後日に行うことにした場合でも、盗品等有償譲受罪け罪は成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判例(大正14年2月24日)
この判例で、裁判官は、
- 情を知りて、贓物の売買を諾したる者が、代金額を後日、協定すべき旨約したりとするも、目的物の引き渡しを受けたる以上は、これと同時に贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)は成立するものとす
と判示しました。
代金の支払を受けていなくても、現実に盗品の引き渡しを受けている以上、本罪は成立する
窃盗犯人が、盗品の買取り人から、盗品の買取り代金の支払いを受けていなくても、現実に盗品の引き渡しを受けていれば、盗品等有償譲受け罪は成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(大正12年5月31日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物たる情を知って、購入を約し、既にこれを受け取りたる以上は、未だ代金を支払わざるも、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)の成立を妨げず
と判示しました。
逆に、代金を支払っていても、盗品等の引渡しを受けていない場合は、盗品等有償譲受け罪は成立しません。
この点については、以下の判例があります。
広島高裁判決(昭和25年4月19日)
この判例で、裁判官は、
- 贓物罪に関する規定は、贓物が移転して被害者がその物の回復をすることが困難になるのを防止することをもって、目的としているので、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)が成立するには、単に売買等の有償譲渡の契約をし、又は代金等を支払っただけでは足らず、贓物を受領することを要する
と判示しました。
代金は支払っているが、盗品の引き渡しを受けていない場合は、盗品等有償譲受け罪に未遂規定はないので、未遂罪も成立し得ません。
ただし、この場合、本犯(窃盗等の犯人)の幇助犯が成立する可能性があります。
対価の合意がないまま、対価を一方的に支払っても、本罪は成立する
盗品買取りの対価の合意がないまま、窃盗犯人が、盗品の買取り人に対し、対価を一方的に支払っても、盗品等有償譲受け罪は成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 窃盗犯人が対価を得る目的で持参した贓物を、これが贓物であることの情を知った者において、後日その窃盗犯人に対価を支払う意志をもって、これを取得したときは、該取得者において、後日その対価を一方的に定めて支払った場合といえども、贓物収受罪(盗品等無償譲受け罪)が成立することなく、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)か成立する
- けだし、贓物収受罪(盗品等無償譲受け罪)は、贓物であることの情を知りながら、無償でこれを取得した場合に限り成立するのに反し、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)は、贓物であることの情を知りながら、売買、交換等のほか、有償でこれを取得することによって成立し、その対価額について当事者間に合意のあると否とは贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)の成立に何らの影響を及ぼすものではないからである
と判示しました。
支払が一部か全額か未確定でも、本罪は成立する
窃盗犯人から買い取った盗品の支払額について、一部の額支払うのか、全額支払うのか未確定であっても、盗品等有償譲受け罪は成立します。
この点について、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 売買代金の額が未だ決定していなかったとしても、売買契約が成立して、物件の授受があった以上は、これによって故買罪(盗品等有償譲受け罪)は成立し、その売買代金額が確定していないということは、犯罪の成否には影響がないというべきである
- 従って、原判決が既に支払を了した金額を代金額と認定したとしても、事実誤認その他の違法はない
と判示しました。
譲受けは、法律上有効でない行為でも、本罪は成立する
盗品等有償譲受け罪の譲受け行為は、法律上有効か否かを問いません。
譲受け行為が、法律上有効でないものだったとしても、盗品等有償譲受け罪は成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(大正3年6月3日)
この判例で、裁判官は、
- 犯人が、その授受によりて達せんとしたる法律上の效果の発生すると否とは、犯罪の成立に影響を及ぼすことなし
と判示し、債務の弁済として、有償で盗品の引き渡しを受けた場合に、その債務の弁済が法律上有効か否かは、盗品等有償譲受け罪の成否に影響しないとしました。
大審院判決(昭和16年4月16日)
この判例は、別々の窃盗の本犯(窃盗犯人)2人が、それぞれ窃取した盗品を交換した場合について、その交換は、法律上の効果いかんにかかわらず有償譲受けとなるとしました。
裁判官は、
- 共犯にあらざる窃盗犯人が、互いに贓物たるの情を知りながら、財物を交換したるときは、両者につき、ぞれぞれ財物故買罪(盗品等有償譲受罪け罪)の成立あるものとす
と判示しました。
譲受けは、他人の利益のために行った行為でも、本罪は成立する
大審院判決(大正6年10月24日)
この判例は、盗品を買い取るに当たり、その買取りが、盗品の買主の損益計算であるか(盗品の買主自身の利益のためであるか)、盗品の買主ではない他人の損益計算であるか(他人の利益のための盗品の買取りか)を問わないとしました。
裁判官は、
- 現に贓物たるの情を知りながら、これを買い受けたる以上は、その買い受けが他人の損益計算において行わるると否とを問わず、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)を構成するものとす
と判示しました。
この判例では、盗品の譲受人が、自分の雇主の利益のために、盗品を譲り受けた事案で、盗品等有償譲受け罪の成立を認めました。
裁判官は、
- 現に賍物たるの情を知りながら、これを買受ける以上、その買受が他人の損益計算において行わるると否とを問わず、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)の成立を妨げるものではない
- 被告人(盗品の譲受け人)が、雇主A(譲受け人の雇主)に雇用され、同人のため、同人の損益計算(経済活動上の利益)において買受けたものであることは、まことに所論のとおりである
- けれども、B(盗品の譲渡し人)から買受方の申込を受けたのは被告人であり、雇主であるAに相談してこれが買受の承諾をし、更に被告人が物件の引渡を受けているのであって、雇主Aは、代金支払に際し、これを出金してやった程度で、本件物件の買入は被告人が雇主Aのため、同人の損益計算において買受けたものであることが窺知されるばかりでなく、引渡しを受けるに際し、本件物件の贓物たるの情も察知していたことが優に認められる
と判示し、被告人(盗品の譲受け人)が、他人である雇主Aのために、雇主の計算において買受け行為をしたとしても、被告人に対し、盗品等有償譲受け罪が成立するとしました。
盗品は、本犯から直接譲り受けることを要しない
【転売による譲受け】
盗品等有償譲受け罪は、本犯(窃盗等の犯人)からでなく、転売によって取得した場合も成立します。
しかも、転売の場合は、盗品の売主が、盗品等であることの知情がない場合でも、買主に盗品であることの知情があれば、買主に対し、盗品等有償譲受け罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(昭和8年12月11日)
この判例で、裁判官は、
- 転売の場合における贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)の成立は、転売人において、贓物たる性質を変せざる情を知りて、これを買い取ることをもって足る
- 贓物故買罪は、犯罪によりて領得したる物なることの情を知りて、これを有償取得するによりて成立するものにして、そのいかなる犯罪によりて領得したるものなりや、その犯人の何人なりやのごときは、その(盗品等有償譲受け罪)成立要件にあらず
- 転売人の贓物故買罪は、贓物たる情を知りて、これを有償取得するによりて成立し、そのほかに何らの事実を必要とせず
と判示しました。
【有償譲受者からの譲受け】
転売と同様、盗品を有償で譲り受けた者から、その盗品をさらに有償で譲り受けた場合も、本罪は成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(明治28年11月4日)
この判例で、裁判官は、
- 盗贓故買者(盗品の購入者)より更にこれを複買したる所為は、なお盗贓故買罪(盗品等有償譲受け罪)が成立す
と判示しました。
盗品を譲り受けるに当たり、盗品の場所的移動は必要か?
判例の中に、盗品の米俵について、場所的移動を伴わないことを理由に盗品等有償譲受け罪を否定した以下の判例があります。
福岡高裁判決(昭和25年11月14日)
【事案の内容】
被告人(盗品の譲受人)が、本犯(窃盗犯人)が他人の家から盗み、被告人の家まで持ち込んでおいてあった玄米2俵を、被告人がそれが贓物であることを知りながら、自宅内に搬入した。
その後、被告人は、本犯(窃盗犯人)から、遊興費の持ち合わせがないので、被告人自身が自宅に持ち込んだ米による代物弁済の相談を持ち掛けられた。
被告人は、その代物弁済の相談を受け、その玄米2俵による代物弁済の相談を受け、玄米2俵のうち1俵を遊興費債務の代わりに引き取ることを承諾した(盗米の代物弁済契約がなされた)。
【判決の内容】
裁判官は、
- 刑法が贓物に関する罪を規定し、これに制裁を科するゆえんは、贓物の移転を防止し、もって贓物の被害者の返還請求権を保護せんとするにあるのであるから、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)が成立するためには、その贓物について売買交換その他の形式における有償行為によりこれを受領することを要する
- 単に売買等有償契約をしただけで、受領の事実がこれに伴わないときは、その罪を構成しないこと、そして物の授受は一般的には社会的観念に従ってその有無を決定すべきであって、必ずしも常に物理的観察のみによってこれを決定すべきものではないが、贓物に関する罪を処罰する理由が、前叙(ぜんじょ)のごとくである以上、贓物の授受によって、あたかも場所的移動が生じない場合には、これを贓物罪の場合における授受と目することはできない
- 本件事犯発覚に至るまでの間に、米俵を他所に置き換え、蔵置する等場所的に移動した事実は認められない
と判示し、盗品の譲受人が、窃盗犯人から、盗品の場所の移動がない状態で譲り受けた場合は、盗品等譲受罪け罪は成立しないとしました。
なお、この判例に対しては、学説では反対意見があり、
- 盗品等に関する罪の保護法益は、被害者の回復請求権(追求権)である
- 被害者が、盗まれた物に対する正常な回復をするに当たり、盗品の譲受けで場所的移動がなかったとしても、本犯とは異なる人物が被害品を所持することになるわけである
- なので、被害品の正常、迅速な回復が容易でなくなることは明らかであって、盗品の譲受けに場所的移動を伴う必要はないというべき
という反論がさなれています。
被害者に返還するための盗品の譲受け
盗品等であることを知って有償取得した場合でも、被害者に返還する目的でこれを取得した場合には、盗品等有償譲受け罪は成立しません。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判決(昭和28年1月31日)
日蓮宗の信者が、盗品である日蓮が書いたと伝えられる掛け軸の買取りを求められ、相手の風体、態度、人柄などから、ただちに買い取らなければ散逸や滅失のおそれがあり、警察に連絡していれば相手が逃亡し、又は破棄するおそれがあると思い、譲り受けて寺に返還しようとして、盗品である掛け軸を買い取った行為は、盗品等有償譲受け罪に当たらないとしました。
盗品を譲り受けた後における被害者の承諾
窃盗犯人から盗品を譲り受けた後、事後に被害者に返還する意思が生じた場合や、事後に被害者から盗品買取りの承諾を得た場合については、盗品等有償譲受け罪が成立します。
後から返還の意思が生じ、被害者の承諾を得たとしても、それらは犯罪成立を妨げる要件にはなりません。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(大正14年2月24日)
この判例で、裁判官は、
- 情を知りて贓物を買受くべきことを約したる者が、その支払うべき代金額の協定を後日に譲りたるとするも、その買い受け方の申し込みに対して承諾の意を表し、目的物の引き渡しを受けたる以上は、贓物故買罪(盗品等有償譲受け罪)は、当事者の協定により、代金額の確定せらるるを待つことなく、物の引き渡しを受けると同時に成立すと解す
- 被告人の犯罪は、贓物の引き渡しを受けると同時に完成したりとなす以上、その後、被害者において、被告人の買得行為に承認を与えたる事実ありとするも、これがために、被告人の罪責上、何ら消長を来するに足らざる
と判示し、事後的に被害者の盗品買取りの承諾があったとしても、それは犯罪の成立を妨げる要件にはならず、盗品等有償譲受け罪が成立するとしました。