盗犯等の防止及び処分に関する法律(盗犯等防止法)の制定経緯
盗犯防止法盗犯等の防止及び処分に関する法律(以下「盗犯等防止法)という)は、昭和5年、当時世間をにぎわせた説教強盗の出没などの事態に鑑み制定された法律です。
その内容は、正当防衛の要件に関する特則を定めた1条と、強窃盗罪について特別の加重類型を設けた2~4条とに分かれます。
窃盗罪に関しては、以下で記載する条文のとおり、第2条に常習特殊窃盗が、第3条に常習累犯窃盗が規定されています。
いずれも法定刑は、3年以上の有期懲役であり、窃盗罪(刑法235条)の法定刑(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)よりも重い罪になっています。
盗犯等防止法の条文
第1条 左の各号の場合において、自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危険を排除するため犯人を殺傷したるときは刑法第36条第1項の防衛行為ありたるものとす
1 盗犯を防止し又は盗贓を取還せんとするとき
2 凶器を携帯して又は門戸牆壁等を踰越損壊し、もしくは鎖鑰を開きて人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶に侵入する者を防止せんとするとき
3 故なく人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶に侵入したる者又は要求を受けて、これらの場所より退去せざる者を排斥せんとするとき
② 前項各号の場合において、自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危険あるに非ずといえども、行為者恐怖、驚愕、興奮又は狼狽により、現場において犯人を殺傷するに至りたるときは之を罰せず
第2条 常習として左の各号の方法により刑法第235条、第236条、第238条もしくは第239条の罪又はその未遂罪を犯したる者に対し、窃盗もって論ずべきときは3年以上、強盗をもって論ずべきときは7年以上の有期懲役に処す
1 凶器を携帯して犯したるとき
2 二人以上現場において共同して犯したるとき
3 門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき
4 夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき
第3条 常習として前条に掲げたる刑法各条の罪又はその未遂罪を犯したる者にして、その行為前10年内にこられらの罪又はこれらの罪と他の罪との併合罪につき3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例による
第4条 常習として刑法第240条の罪(人を傷したるとき限る)又は第241条第1項の罪を犯したる者は無期又は10年以上の懲役に処す
常習特殊窃盗(第2条)を解説
常習特殊窃盗とは?
常習特殊窃盗は、常習として凶器携帯などの―定の方法で窃盗を犯すことを構成要件とします。
一般の窃盗(刑法235条)に比し、危険な方法により窃盗を行うことを常習とする犯人を重く処罰するために設けられた条文です。
また、2条で「その未遂罪を犯したる者に対し刑を科すべきとき」と規定しているので、窃盗行為が未遂に終わった揚合でも、未遂減軽をすることはできません。
常習性とは?
「常習として」の意味は、刑法中の同一用語(186条1項)と同じ意味であり、「反復して2条1~4号の方法による窃盗を行う習癖」をいいます。
常習特殊窃盗が成立するためには、窃盗を常習として行う習癖があるというだけでは足りず、2条1~4号に規定する特定の方法による窃盗を行う性癖がある場合でなければなりません。
常習性の認定は、ー般に、犯人の前科・前歴・性格・素行、犯行の動機・態様・回数・間隔を総合して決められます。
判例
2条2号『二人以上現場において共同して犯したるとき』について
この判例は、直接の財物奪取行為が複数の者によってなされる必要はなく、集団万引の場合に、ある者は見張り、ある者は幕、ある者は持出しの役を分担するようなときにも、第2号に該当するとしました。
裁判官は、
- 2条は、特殊の犯罪手口を用いる習癖のある強盗又は窃盗の常習者を特に重く処罰しようとする趣旨の規定である
- そのうち2条2号が「二人以上現場において共同して犯したるとき」と規定しているのは、集団のすり、万引、または強盗など二人以上の者によって犯罪の現場において共同して強盗又は窃盗の犯行がなされる場合、その犯行は組織的、集団的かつ大規模であることが多く、これによる被害もしたがって甚大なものとなりやすいのに対し、その取締り、検挙は容易ではなく、犯人の悪性も通常の単独犯に比してより強いとみるべきであるからである
- 以上の諸点にかんがみ、これらを常習とする者を特に重く処罰すべきものとしたものと解される
- ところで、集団万引においては、直接に財物の占有奪取行為をなす者のほか、本件原判決の判示するような見張り、幕、持ち出し等の役割を分担する者など数名の者の犯行現場における協力行為によって、迅速、確実に犯行の実現がはかられる点にその特殊性があるということができる
- そして、見張り、幕、持ち出し等は、直接の占有奪取行為者の行為と相まって、財物の占有取得を完成させるための不可分の共同行為であって、全体として一個の窃盗行為を組成するものと評価すべきものと考える
- それであるから、原判決の判示するような集団万引の場合についても、二人以上現場において共同して窃盗の犯行をなしたものとして、2条2号の適用があるといわなければならない
- もし、直接の占有奪取行為が、二人以上の者の共同によってなされた場合にのみ、2条2号の適用があるものと解するならば、窃盗に関するかぎり、2条2号の適用される範囲が極めて狭少なものとなり、規定のもうけられた前述の趣旨は全く没却されることにもなるであろう
と判示しました。
2条4号『夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入して犯したるとき』について
この判例で、夜間とは、犯罪地における日没後、日出前をいい、かつ、侵入または窃取のいずれか一方が夜間に行われれば第4号に該当するとしました。
裁判官は、
- 盗犯等の防止及処分に関する法律2条4号にいわゆる夜間とは、天然の暦に従い日没後、日出前を意味する
- したがって、四季及び地方の差異によって必ずしも一様ではない
- また2条4号は、「夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若は艦船に侵入して犯したるとき」とあって、夜間は所定の場所に侵入して盗罪を犯すという包括的一事実に掛かり、侵入することと盗むこととが共に夜間に行われた場合はもちろん、そのいずれか一方が夜間に行われた場合でも、2条4号の夜間侵入窃盗に当たる
と判示しました。
常習累犯窃盗(第3条)
常習累犯窃盗とは?
常習累犯窃盗は、常習として窃盗罪等(窃盗罪・強盗罪・事後強盗罪・昏睡強盗罪,これらの未遂罪)を犯した犯人に、窃盗等の実刑前科がある場合に、刑を加重し、その犯人を通常の窃盗罪よりも重く処罰するものです。
窃盗を繰り返す犯人の危険性に着目し、より重く処罰するという目的があります.
常習性とは?
常習累犯窃盗の常習性とは、反復して窃盗を行う犯人の性癖をいいます。
この常習性の認定は、犯人の前科・前歴・性格・素行・犯行の動機・態様・回数・間隔等を総合してなされます。
常習性の認知に当たり、今回犯した窃盗行為の態様と、犯人の窃盗前科の存在を総合して認定しても差し支えないとされます(最高裁判例 昭和33年7月11日)。
また、犯行手口が特殊な熟練性を要するものであることは必要ではないし、前科にかかる犯行と今回の犯行との間で、犯行手口の同一性、類似性があることは常習性認定の一要素となり得ます(広島高裁判例 平成10年3月19日)。
とはいうものの、犯行手口の同一性、類似性が、常習性認定の必須要素というわけではありません。
東京高裁判例(平成10年10月12日)において、裁判官は、
- 窃盗の常習性は、窃盗を反復累行する習癖の問題であって、手口の熟練性や同一性、類似性までをも必要とするものではない
と判示しています。
ちなみに、犯行動機、態様が、窃盗前科のものとは著しく異なるとして、常習性を否定し単純窃盗罪の成立を認めた以下の判例があります。
東京高裁判例(平成5年11月30日)
- 被告人には、前科(10年以内に3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受けた前科)があるので、その点では、盗犯等の防止及び処分に関する法律3条所定の処罰歴の要件を備えているということができる
- しかしながら、同条の罪が成立するためには、常習性のあること、すなわち本件が窃盗の習癖の発現としてなされたものであることが必要である
- 本件は、スーパーマーケットで買い物をした折に缶詰2缶を万引きした事案であって、他に万引の事犯は全く行われず、多数ある窃盗前科も、その犯行がアパートでの侵入盗などで本件とはその動機、態様を著しく異にし、結局本件が窃盗の習癖の発現としてなされたもので常習性があるとは認められない
と判示し、これまでの窃盗前科における窃盗の犯行態様と、今回の窃盗の犯行態様が異なり、常習性が認められないとして、常習累犯窃盗は成立せず、窃盗罪が成立するとしました。
常習累犯窃盗が成立する要件となる前科
常習累犯窃盗が成立するためには、今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内に、
- 窃盗罪・強盗罪・事後強盗罪・昏睡強盗罪、これらの未遂罪
または
- 上記窃盗罪等と他の罪との併合罪
により、3回以上、6月の懲役以上の刑の執行を受けていること(または刑の執行の免除を得たこと) が要件になります。
具体的には、窃盗罪を犯して捕まった犯人に、前に窃盗罪等の罪を犯して、6か月以上の実刑に処せられ、刑務所で受刑している前科が3回以上ある場合、今回の窃盗罪は、常習累犯窃盗として成立することになります。
常習累犯窃盗が成立する要件となる前科には未遂、教唆、幇助も含まれる
常習累犯窃盗を成立させる窃盗等(または窃盗と他の罪との併合罪の前科には、窃盗・強盗等の既遂の正犯のほか、窃盗等の未遂、教唆、幇助も含まれます。
もちろん、常習累犯窃盗罪も含まれるし、強盗致死傷罪(刑法240条)や強盗強制性交等罪及び同致死罪(刑法241条)の罪の前科も含まれます。
なお、幇助が含まれることつき、最高裁判例(昭和43年3月29日)で、強盗致死傷罪(刑法240条)が含まれることにつき、名古屋高裁判例(平8年11月13日)で示されています。
常習累犯窃盗が成立する要件となる前科には少年の時の前科も含まれる
常習累犯窃盗を成立させる前科には、少年時の前科も含まれます。
この手について、以下の判例で明らかにされています。
東京高裁判例(昭和51年10月5日)
【犯人の弁護人の主張】
犯人の弁護人は、
- 少年法60条によれば、「少年のときに犯した罪により刑に処せられて、その執行を受け終わり、又は刑の免除を受けた者は、人の資格に関する法令の適用については、将来に向かって刑の言渡を受けなったものとみなす」とされている
- だから、少年の時の前科については、常習累犯窃盗の要件とすることはできない
と主張しました。
【裁判官の判断】
弁護人の主張に対し、裁判官は、
- 少年法の条項は、執行猶予または累犯に関する刑法に関する規定はこれに該当しないと解されている(昭和27年2月21日、東京高等裁判所判決参照)
- この趣旨からすれば、累犯の場合に準ずべき本件常習累犯窃盗に関する盗犯等の防止及び処分に関する法律3条、2条の場合にも、少年法60条1項は適用されないものと解すべきである
と判示し、少年の時の前科についても、常習累犯窃盗の要件にできるとしました。
『今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内』とは?
『今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内』とは、 今回処断される窃盗等の行為の開始前10年以内(行為開始の前日からさかのぼって10年目の日以降)という意味です。
具体的には、前に窃盗罪等で懲役刑に処せられて、その懲役刑の受刑を終えて、刑務所から出所した日が、上記10年以内に3回あれば、常習累犯窃盗の成立要件を満たすことになります。
また、常習累犯窃盗は、複数の窃盗を犯しても、常習一罪として、まとめて1個の罪が成立することになります。
たとえば、今回犯人が3回の窃盗行為をして逮捕されていて、常習累犯窃盗で起訴される場合、3回の窃盗罪をまとめて1個の常習累犯窃盗の罪で起訴されることになります。
なので、数個の窃取行為がある場合は、その最初の窃盗行為の日が、上記10年内に入っていれば、常習累犯窃盗の成立要件を満たすことになります。
『6月の懲役以上の刑の執行を受けていること』とは?
6月以上の懲役とは、判決で宣告された刑が6月以上の懲役という意味です。
宜告された刑が6月以上であればよいので、現実に上記10年の期間内に執行を受けた期間が6月以上である必要はありません。
『3回以上』とは?
懲役刑を宣告されて、実際に刑務所に刑の執行ために収容された回数が3回以上という意味です。
具体的には、窃盗等の懲役刑の実刑前科が3回以上ある状態です。
これらの3回以上の実刑前科の間に、刑法56条の累犯関係がある必要はあません(最高裁判例 昭和44年7月8日)。
『刑の執行を受けたこと』とは?
『執行を受けたこと』とは、現実に刑務所に収容されて執行を受け、受刑を終えたことを意味します。
なお、受刑を開始して、本来の刑の執行終了日が到来する前に刑務所を出所できる「仮出獄」という制度があります。
仮出獄があった場合は、仮出獄期間(仮出獄日から本来の刑の執行終了日までの期間)の一部が10年の期間にかかっていれば、常習累犯窃盗の成立要件を満たします。
この点について、以下の判例があります。
東京地裁判例(昭和63年10月7日)
裁判官は、
- 「刑の執行を受け」とは、収監を必須の要件とするものではなく、法が予定した方法による刑の執行を受ければ足りると解するのが相当である
- 受刑者は、仮出獄期間が満了した揚合、その時点で、出獄中の日数を刑期に算入する方法で残余の刑の執行を受けたとされるとする
と判示しました。
仮出獄期間の開始日が、刑の執行終了日になるのではなく、仮出獄期間の満了日が、刑の執行期間の満了日になるという理解になります。
仮出獄しようがしまいが、刑の執行終了日は、予定どおり刑務所内で刑期を終えた場合と変わらないのです。
『刑の執行の免除を得たこと』とは?
『刑の執行の免除を得た』とは、刑の言渡しの効力は存続したまま、実際には刑の執行を受けることが法律上なくなった場合をさします。
具体的には、外国判決の効力による刑の執行の免除(刑法5条)、刑の時効完成による刑の免除(刑法31条)、恩赦による刑の執行の免除(恩赦8条)などが行われた場合に、刑の執行が免除されます。
ただし、刑の言渡しの効力自体が消減する場合(刑の執行猶予期間の満了、大赦、特赦)の場合は、刑の言い渡し自体がなかったことになるので、『刑の執行の免除を得た』に含まれません。
さらに、「刑の免除」(刑法43条ただし書など)の場合も、そもそも刑の言渡し自体がない状態なので、当然に『刑の執行の免除を得た』に含まれません。
常習特殊窃盗と常習累犯窃盗の抑えるべき共通のポイント
以下では、常習特殊窃盗と常習累犯窃盗のことを、常習窃盗ということにします。
未遂軽減は適用されない
2条(常習特殊窃盗)、3条(常習累犯窃盗)で、「その未遂罪を犯したる者に対し刑を科すべきとき」と規定していることから、窃盗行為が未遂に終わった場合でも、未遂減軽にり、未遂罪に適用する軽い刑を科すことはできません。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判例 昭和60年10月3日
第一審の判決で、常習累犯窃盗の罪を、窃盗行為が未遂であることを理由に、刑法43条を適用して未遂減軽したことに対し、高等裁判所の裁判官は、
- 常習累犯窃盗については、窃盗行為自体が未遂であっても、未遂減軽をすることはできない
- このことは、常習累犯窃盗の構成要件を規定した盗犯等の防止及び処分に関する法律3条、2条に照らし、明らかである
と判示しました。
累犯加重はできる
未遂軽減はできませんが、今回処断すべき罪と前科との間に刑法56条の累犯関係がある場合には、累犯加重(刑法57条)をすることができます(最高裁判例 昭和44年6月5日)。
常習性の認定は、自白だけではできず、補強証拠が必要である
受刑前科の存在、常習性は、常習累犯窃盗罪の重要な構成要件なので、その認定は、被告人の自白だけでは足りず、補強証拠が必要になります。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判例 平成2年5月10日
この判例で、裁判官は、
- 前科及び常習性は、常習累犯窃盗の重要な構成要件となっているから、これを認定するにあたっては、刑訴法319条に従い、被告人の自白のほか、補強証拠の存在を必要とする
- そうしてみると、原判決は、被告人の自白を補強するに足りる証拠を挙示することなく、有罪の認定をしていることになり、これは刑訴法319条に違反するものである
と判示しました。
このことから、常習累犯窃盗の前科、常習性の認定は、被告人の自白だけでは足りず、前科調書や被告人の自白以外の客観的な証拠で証明する必要があります。
また、常習累犯窃盗を構成する個々の窃盗を認定するについても、当然、被告人の自白だけでは足りず、補強証拠を要します。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判例(昭和61年8月7日)
この判例で、裁判官は、
- 常習累犯窃盗を構成する個々の窃盗行為を認定するには、被告人の自白がある場合でも、そのほかに各行為ごとに、これを補強する証拠を要する
- 原判決が、第3の事実について挙示する証拠は、被告人の自白のほかには、受刑の事実及び窃盗の常習性を証明する証拠にとどまり、個別的事実についての補強証拠足りうるものは掲げられていない
- そうすると、原判決は、第3の事実については、被告人の自白を唯一の証拠として有罪の言渡しをしたものであって、刑訴法319条2項に違反する
と判示しました。
数個の窃取行為があっても、それらは単純一罪(常習一罪)になる
常習特殊窃盗と常習累犯窃盗は、いわゆる集合犯であって、複数回の反復が構成要件上も予定されているので、数個の窃取行為があっても、それらは単純一罪(常習一罪)を構成します。
たとえば、3回の窃盗行為をしても、その3回は、常習的に行った窃盗一罪として認定されるということです。
犯行途中に、常習窃盗とは別種の確定裁判が存在する場合の罪数
常習窃盗の犯行途中に、確定裁判を経た罪が別種の罪である場合には、常習窃盗は2個に分割されず、常習窃盗はその確定裁判の後に終了したこととなって、常習窃盗とその確定裁判を経た罪とは、刑法45条後段の併合罪になりません。
この意味ついて、以下の例を用いて説明します。
R3.4.1 窃盗罪①を実行
R3.4.3 以前裁判にかけられた道路交通法違反の判決確定
R3.5.9 窃盗罪②を実行
R3.8.1 窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される
上記の例の場合、これから裁判を行う窃盗罪①と窃盗罪②の間に、道路交通法違反の確定判決が挟まっています。
この場合、今回行った犯罪と犯罪との間に、過去に行った犯罪の確定判決を挟む状態であるため、刑法45条が適用され、窃盗罪①と窃盗罪②は、併合罪の関係になりません。
すると、窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて懲役2年といった1個の判決を出すことはできません。
なので、この場合は、窃盗罪①につき懲役1年、窃盗罪②につき懲役1年というように、言い渡す刑を2個に分割して判決を出す必要があります。
これが併合罪の通常の考え方です。
しかし、常習窃盗のような常習犯の場合は、考え方が異なります。
常習窃盗は、窃盗罪①と窃盗罪②をひっくるめて1個常習窃盗の罪が成立するという考え方をとります。
つまり、犯行の開始日は、窃盗罪①の犯行に着手した日、犯行終了日は、窃盗罪②の犯行が終了した日となります。
考え方として、窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪とした場合、窃盗罪①の犯行は、窃盗罪②の犯行が終了するまで終わっておらず、窃盗罪②の犯行が終わった時に、窃盗罪①の犯行も窃盗罪②の犯行に合わせて終了したと考えることになります。
この考え方を先ほどの例に落とし込むと以下のようになります。
R3.4.1 常習窃盗となる窃盗罪①を実行(常習窃盗としての犯行開始日)
R3.4.3 以前裁判にかけられた道路交通法違反の判決確定
R3.5.9 常習窃盗となる窃盗罪②を実行(常習窃盗としての犯行終了日)
R3.8.1 窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される
そして、この時、常習窃盗となる窃盗罪①と常習窃盗となる窃盗罪②の間に、確定判決があるからといって、判決は2個に分割しません。
つまり、常習窃盗として窃盗罪①につき懲役1年、常習窃盗しての窃盗罪②につき懲役1年といった判決の出し方をすると違法判決になります。
この場合、窃盗罪①と窃盗罪②を1個の常習窃盗罪として、懲役2年といった1個の判決を出すのが適法になります。
この点については、以下の判例があります。
第一審で、常習特殊窃盗を分割して判決した点について、最高裁の裁判官は、
- 常習特殊窃盗罪について、数個の窃盗行為が常習としてなされた場合には、その全部は包括して一個の常習犯をなすものであり、その一個の常習犯の中間に別種の罪の確定裁判が介在しても、そのためにその常習犯が二個の常習犯に分割されるものではない
- そして右の場合一個の常習犯が別罪の裁判確定後に終了したのであるから、その終了時を基準として刑法45条の適用については、その常習犯は別罪の裁判確定後の犯罪と解するのが相当である
と判示し、第一審において、常習特殊窃盗罪の判決を分割した点を、常習犯の個数に関する法律上の判断を誤り、ひいて併合罪関係に関する法令の解釈を誤った違法があるとしました。
犯行途中に、常習窃盗とは同種の確定裁判が存在する場合の罪数
先ほどの例のように、犯行途中に、常習窃盗とは別種の確定裁判(道交法違反など)が存在する場合は、常習犯は二つに分割されません。
これに対し、確定裁判を経た罪が、常習犯と同種の確定裁判である場合(本来常習犯の一部を構成すべきものである場合)には、その確定裁判によって常習犯は二つに分割されます。
そして、確定裁判前の犯行は、確定裁判を経た罪と単純一罪の関係に立つから、既に確定判決を経たものとして免訴の判決を受けることになります。
他方、確定裁判後の犯行は,確定裁判を経た罪とは別罪を構成することになり、この犯行単独で常習窃盗して1個の判決が出されることになります(最高裁判例 昭和43年3月29日)。
今の説明を例にすると、以下のようになります。
R3.4.1 常習窃盗となる窃盗罪①を実行
R3.4.3 以前裁判にかけられた常習窃盗の判決確定
R3.5.9 常習窃盗となる窃盗罪②を実行
R3.8.1 窃盗罪②のみで常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される(窃盗罪①は免訴)
また、この場合、確定裁判時の罪名は、窃盗幇助などの罪名でもよく、罪名が常習窃盗である必要はありません(上記最高裁判例 昭和43年3月29日)。
常習窃盗と他罪との関係
窃盗罪との関係
常習性の発現とはいえない窃取行為は、常習窃盗の罪には包摂されません。
とはいえ、その窃取行為が、常習窃盗とは別個の単純窃盗罪(刑法235条)を構成し、常習窃盗と併合罪の関係に立つと解すると、常習窃盗と窃盗罪の2つの罪で処罰されることになり、かえって処断刑が重くなって犯人に不利益になります。
そのため、その単純窃盗は、常習窃盗に吸収されるとする裁判例があります(福岡高裁宮崎支判例 昭和33年4月18日)。
窃盗目的住居侵入罪との関係
常習窃盗を犯す目的で住居侵入を行った場合には、実際に窃盗行為にまで進んだ場合であれ、窃盗行為にまで進まなかった場合であれ、住居侵入罪は、常習窃盗と一罪の関係にあり、別罪を構成しません(最高裁判例 昭和55年12月23日)。
侵入具携帯罪との関係
機会を異にして犯された常習累犯窃盗と侵入具携帯(軽犯罪法1条3号)の両罪は、侵入具携帯が常習性の発現と認められる窃盗を目的とするものであったとしても、併合罪の関係になります(最高裁判例 昭和62年2月23日)。
侵入具携帯は、常習累犯窃盗に吸収されず、常習累犯窃盗とは独立した罪として成立するということです。
この場合、侵入具携帯と常習累犯窃盗の2つの罪名で起訴されて裁判を受けることになります。