刑法(窃盗罪)

窃盗罪⑧ ~「他人を道具として利用した財物の占有移転(間接正犯)」「刑事未成年者を道具として利用した窃盗」を判例などで解説~

他人を道具として利用した財物の占有移転

 窃盗罪において、財物を窃取し、被害者が有する財物の占有を自己に移転する場合において、その占有の移転行為を、犯人自らが行わなければならないということはありません。

 事情を知らない他人を利用して、窃取した財物の占有移転行為を行った場合でも、窃盗罪は成立します。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判例(昭和27年11月11日)

 犯人が、鉄道手荷物の荷札を被害者が知らない間にもぎ取り、その手荷物が犯人の家にに輸送されるように荷札につけ替え、手荷物を犯人の家に到着させて窃取した事案について、裁判官は、

  • 情を知らない他人をして目的物の占有を自己に移転させる場合にも窃取たるを妨げない

と判断しました。

東京高裁判例(昭和42年3月24日)

 犯人である郵便局係員が、取扱中の郵便物の宛名を犯人の自宅宛に書き替え、情を知らない配達係員に、その郵便物を犯人の自宅に配達させた行為は、窃取であるとして、窃盗罪が成立すると判断しました。

他人を道具として利用して犯罪を実行する『間接正犯』

 上記の判例の事案のように、

人を道具として使って犯罪を実行すること

間接正犯

といいます。

 たとえば、善悪の判断ができない子供に「あのコンビニからチョコレートをとってきて」と言って、子どもを使って万引きをすれば、窃盗罪の間接正犯となります。

 犯人自身は、直接手を下して万引きはしていません。

 しかし、間接正犯という考え方があることで、犯人を、万引きを間接的に実行した者として処罰できるのです。

 間接正犯については、前の記事で詳しく説明しています。

刑事未成年者を道具として利用した窃盗

 刑事未成年者を利用して窃盗を行った場合について、窃盗の間接正犯を認めた事例として、以下の判例があります。

仙台高裁判例(昭和27年9月27日)

 この判例は、13歳未満の少年を利用して、その少年に盗みをさせた事案について、窃盗の間接正犯の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人は、刑事責任をあざむき、少年を利用して自己の犯罪を遂行したものと認めるべきであるから、窃盗罪の正犯である
  • 被告人は、場所を指定し、売って金になるような物を盗ってこいと命じただけであるが、このような場合にも窃盗の間接正犯が成立する

旨を判示しました。

最高裁判例(昭和58年9月21日)

 この判例は、被告人の日頃の言動に畏怖し、意思を抑圧されている12歳の養女を利用して、窃盗を行ったと認めらえる事実関係のもとにおいては、たとえ養女が是非善悪の判断能力を有する者であったとしても、被告人に窃盗罪の間接正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、12歳の養女に対し、日頃、被告人の言動に逆らうそぶりを見せる都度、顔面にタバコの火を押しつけたり、ドライバーで顔をこすったりするなどの暴行を加えて、自己の意のままに従わせていた
  • その養女に対し、窃盗を命じて行わせていたというのであり、これによれば、被告人が、自己の日頃の言動に畏怖し、意思を抑圧されている養女を利用して窃盗を行ったと認められるのである
  • よって、たとえ養女が是非善悪の判断能力を有する者であったとしても、被告人については、本件窃盗の間接正犯が成立する

旨を判示しました。

大阪高裁判例(平成7年11月9日)

 被告人の言動に畏怖し、意思を抑圧されている10歳の少年を利用して、4,5メートル先にあるバッグを盗ませた事案について、たとえ少年がある程度の事理弁識能力を有していたとしても、被告人に窃盗罪の間接正犯が成立するとしました。

 被告人の弁護人は、

  • 仮に被告人が少年に対して、被害者のバッグをとってくるよう指示命令した事実があったとしても、少年は、刑事未成年者であるにせよ、窃盗行為の意義を十分理解し、指示命令にて抗するだけの能力を備えている年齢であった
  • また、少年は、被告人の極めて強い支配の下にあって、被告人の指示命令に反して反対動機を形成する可能性がないとか、犯行直前、被告人により強固な拘束が加えられ、反抗した場合、直ちに大きな危害が加えられかねない状況にあったというような事情は認められない
  • 少年自身も、窃盗行為に迎合的、協力的であったとうかがえるから、被告人には、共謀共同正犯が成立するに過ぎない

と主張しました。

 これに対し、裁判官は、

  • 少年は、事理弁識能力が十分とはいえない10歳(小学5年生)の刑事未成年者であったのみならず、弁護人が指摘するような、直ちに大きな危害が被告人から加えられるような状況ではなかったとしても、少年の年齢からいえば、日ごろ怖いという印象を抱いていた被告人から、にらみつけられ、その命令に逆らえなかったのも無理からぬものがあると思われる
  • その上で、本件では、少年は、被告人の目の前で、4,5メートル先に落ちているバッグを拾ってくるよう命じられており、命じられた内容が単純であるだけにかえってこれに抵抗して被告人の支配から逃れることが困難であったと思われる
  • また、少年が行った窃盗行為も、被告人の命令に従って、とっさに機械的に動いただけで、かつ、自己が利用しようという意思もなかったものであり、判断及び行為の独立性ないし自主性に乏しかったということができる
  • そのような状況の下で、被告人は、自己が直接窃盗行為をする代わりに、少年に命じて自己の窃盗目的を実現させたものである
  • 以上のことを総合すると、たとえ少年がある程度、是非善悪の判断能力を有していたとしても、被告人には、自己の言動に畏怖し、意思を抑圧されているわずか10歳の少年を利用して、自己の犯罪行為を行ったものとして、窃盗の間接正犯が成立する

旨を判示しました。

窃盗罪①~㉖の記事まとめ一覧

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