窃盗罪㉙ ~「常習累犯窃盗罪の成立要件(前科の要件)」を説明~
前回の記事では、常習累犯窃盗罪の成立要件である
- 常習性の要件
- 前科の要件
のうち、「①常習性の要件」を説明しました。
今回の記事では、「②前科の要件」を説明します。
② 前科の要件
常習累犯窃盗罪が成立する要件となる前科
1⃣ 常習累犯窃盗罪が成立するためには、今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内に、
または
- 上記窃盗罪等と他の罪との併合罪
により、3回以上、6月の懲役以上の刑の執行を受けていること(または刑の執行の免除を得たこと) が要件になります。
具体的には、窃盗罪を犯して捕まった犯人に、前に窃盗罪等の罪を犯して、6か月以上の実刑に処せられ、刑務所で受刑している前科が3回以上ある場合、今回の窃盗罪は、常習累犯窃盗として成立することになります。
2⃣ 教唆犯・幇助犯が含まれることは法文に規定はありませんが、教唆犯や幇助犯を除外する理由はなく、当然含まれるものであるため法文に規定されなかったと理解されています。
幇助犯(従犯)が常習累犯窃盗罪が成立する要件となる前科に含まれることを判示した判例があります。
裁判所は、
- 盗犯等の防止及び処分に関する法律第3条にいう「これらの罪」には、同法第2条に掲記された刑法各条の罪の従犯が含まれる
と判示しました。
常習累犯窃盗が成立する要件となる前科には未遂、教唆、幇助も含まれる
常習累犯窃盗罪を成立させる窃盗等(または窃盗と他の罪との併合罪の前科には、窃盗・強盗等の既遂の正犯のほか、窃盗等の未遂、教唆、幇助も含まれます。
もちろん、常習累犯窃盗罪も含まれるし、強盗致死傷罪(刑法240条)や強盗強制性交等罪及び同致死罪(刑法241条)の罪の前科も含まれます。
なお、幇助が含まれることつき、最高裁判例(昭和43年3月29日)で、強盗致死傷罪(刑法240条)が含まれることにつき、名古屋高裁判例(平8年11月13日)で示されています。
常習累犯窃盗が成立する要件となる前科には少年の時の前科も含まれる
常習累犯窃盗罪を成立させる前科には、少年時の前科も含まれます。
この手について、以下の判例で明らかにされています。
東京高裁判例(昭和51年10月5日)
【犯人の弁護人の主張】
犯人の弁護人は、
- 少年法60条によれば、「少年のときに犯した罪により刑に処せられて、その執行を受け終わり、又は刑の免除を受けた者は、人の資格に関する法令の適用については、将来に向かって刑の言渡を受けなったものとみなす」とされている
- だから、少年の時の前科については、常習累犯窃盗の要件とすることはできない
と主張しました。
【裁判所の判断】
弁護人の主張に対し、裁判所は、
- 少年法の条項は、執行猶予または累犯に関する刑法に関する規定はこれに該当しないと解されている(昭和27年2月21日、東京高等裁判所判決参照)
- この趣旨からすれば、累犯の場合に準ずべき本件常習累犯窃盗に関する盗犯等の防止及び処分に関する法律3条、2条の場合にも、少年法60条1項は適用されないものと解すべきである
と判示し、少年の時の前科についても、常習累犯窃盗罪の要件にできるとしました。
「今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内」とは?
「今回処断すべき窃盗等の行為の前10年内」とは、 今回処断される窃盗等の犯行の開始前10年以内(犯行開始の前日からさかのぼって10年目の日以降)という意味です。
具体的には、前に窃盗罪等で拘禁刑に処せられて、その拘禁刑の受刑が開始された日が、上記10年以内に3回あれば、常習累犯窃盗の成立要件を満たすことになります。
また、常習累犯窃盗は、複数の窃盗を犯しても、常習一罪として、まとめて1個の罪が成立することになります。
たとえば、今回犯人が3回の窃盗行為をして逮捕されていて、常習累犯窃盗で起訴される場合、3回の窃盗罪をまとめて1個の常習累犯窃盗の罪で起訴されることになります。
なので、数個の窃取行為がある場合は、その最初の窃盗行為の日が、上記10年内に入っていれば、常習累犯窃盗罪の成立要件を満たすことになります。
「6月の拘禁刑以上の刑の執行を受けていること」とは?
6月以上の拘禁刑とは、判決で宣告された刑が6月以上の拘禁刑という意味です。
宜告された刑が6月以上であればよいので、現実に上記10年の期間内に執行を受けた期間が6月以上である必要はありません。
「3回以上」とは?
拘禁刑を宣告されて、実際に刑務所に刑の執行ために収容された回数が3回以上という意味です。
具体的には、窃盗等の拘禁刑の実刑前科が3回以上ある状態です。
これらの3回以上の実刑前科の間に、刑法56条の累犯関係がある必要はあません(最高裁判例 昭和44年7月8日)。
「刑の執行を受けたこと」とは?
1⃣ 「執行を受けたこと」とは、現実に刑務所に収容されて刑の執行を受け、「受刑が開始されたこと」を意味します。
「受刑が終了したこと(刑の執行が終了したこと)」の意味ではありません。
2⃣ 最初の刑の執行の考え方
「刑の執行を受け」とは、10年以内の3回の刑のうち最初の刑の執行終了が10年以内であれば足り、その執行開始が10年以内である必要はありません。
この点を判示したのが以下の裁判例です。
東京高裁判決(昭和58年9月21日)
裁判所は、
- 盗犯等防止法3条の罪にいう「刑の執行を受け」とあるのは、文理上、3回以上言い渡された刑がともに10年内に執行を開始された場合はもちろん、そのうちの第1回の刑は10年以前に開始されたものでもその終期が10年内にあるときは本条の要件を具備しているものと解するのが相当であり、かかる場合を除外すべき合理的な理由はないところ、これを本件についてみると、本件は昭和58年4月6日の犯行であるところ、原判決が判示罪となるべき事実の冒頭に摘示する3つの裁判のうち、最初の昭和47年9月21日静岡地方裁判所で言い渡された窃盗罪等により懲役3年に処するとの裁判は、昭和48年2月15日に確定し、同日右刑の執行が開始され、昭和50年8月10日その刑の執行が終了したことが認められ、従って、被告人の本件犯行が盗犯等防止法3条所定の要件を具備するものであることは明らかであって、原判決には所論のごとき法令解釈適用の誤りは存在しない
と判示しました。
東京高裁判決(昭和57年3月23日)
裁判所は、
- 刑の始期又は終期が行為前10年以内にあったか否かを問わず、行為前10年以内に刑の執行の全部又は一部を受けたことをその要件とする趣旨である
と判示しました。
2⃣ 受刑を開始して、本来の刑の執行終了日が到来する前に刑務所を出所できる「仮釈放(旧:仮出獄)」という制度があります。
仮釈放があった場合は、仮釈放期間(仮釈放の日から本来の刑の執行終了日までの期間)の一部が10年の期間にかかっていれば、常習累犯窃盗の成立要件を満たします。
この点について、以下の裁判例があります。
東京地裁判例(昭和63年10月7日)
裁判所は、
- 盗犯罪等の防止及び処分に関する法律(以下「盗犯法」と言う)3条は、犯罪行為の10年内に同条所定の「刑の執行を受け」たことを同条による処罰の要件としているところ、弁護人は、同条所定の「刑の執行を受け」には仮出獄中の期間は含まれないとして、被告人は判示(一)の前科の刑の執行を受けた際、昭和53年3月2日に仮出獄しており、被告人の判示各所為は、いずれも右仮出獄した日から10年を経た後に犯されているから、同条に該当しない旨主張する
- そこで、検討すると、なるほど、懲役刑の執行方法を定めた刑法12条2項に照らしても、盜犯法3条は、同条所定の罪につき、収監されて刑の執行を受けることを主に重視して、「刑の執行を受け」をその要件としていることは明白であり、他方、受刑者は、仮出獄の期間中、身柄を拘束されて現実の刑の執行を受けるわけではない
- 弁護人の主張は、この点に着目したものと思われる
- しかしながら、刑法は、例えば、21条で未決勾留日数の算入の方法による懲役刑の執行も認めていること、盜犯法3条は、「刑の執行を受け」ることと併せて、収監されることを必要としない刑の「執行の免除」も同じく同条による処罰の要件としていること、類似の制度である累犯に関する刑法56条についての解釈運用状況等に照らすと、盗犯法3条所定の「刑の執行を受け」とは、収監を必須の要件とするものではなく、法が予定した方法による刑の執行を受ければ足りると解するのが相当である
- そこで、仮出獄と刑の執行との関係について検討すると、仮出獄期間の満了による効果を直接定めた規定はないものの、刑法29条2項が仮出獄の処分が取り消された場合の効果として、「出獄中の日数は刑期に算入せず」 と規定していることに照らすと、受刑者は、仮出獄期間が満了した場合、その時点で、出獄中の日数を刑期に算入する方法で残余の刑の執行を受けたこととされ、刑の執行を受け終わったことになると解するのが相当である
- ちなみに、改正刑法草案の規定を見ると、84条2項は、刑法29条2項と同旨の定めであるものの、81条は 刑の執行を中止して…仮釈放する旨を、84条は仮釈放の期間を経過したときに刑の執行を終わったものとする旨をそれぞれ定めていて、前記の解釈をより明確にしたものと解することができる
- なお、受刑者は、仮出獄期間中、犯罪者予防更生法に基づき、遵守事項を指示され、保護観察に付されたりし、また、刑法29条2項により仮出獄の処分を取り消されることもあり得るから、行動面、精神面で一定の制約を受けることは明らかである
- しかし、このことを主たる根拠として、仮出獄の処分を受けていることが、直ちに、盗犯法3条の「刑の執行を受け」に当たると解するのは、相当な論拠を持っていることは否定できないものの、前記のような制約は保護観察付き執行猶予の場合にも生じること、刑法29条2項が仮出獄の処分が取り消された場合、出獄中の全日数を一律に刑期に算入しないこととしていること、刑罰規定解釈の謙抑性等から見て、なお、疑問の余地があったと言える
- そうすると、被告人は、昭和53年7月3日に仮出獄期間を満了しているから、その時点で、前記の方法で残余の刑の執行を受け終わっているのであり、包括一罪をなす判示の各所為中1ないし4の各所為はその後10年内に犯されたものであるから、被告人の判示各所為が前記のとおり全体として盗犯法3条に該当することは明白である
と判示しました。
3⃣ 最後の刑(一番直近に受けた刑)が仮釈放中の犯行であった場合の刑の執行の考え方
「刑の執行を受け」とは、10年以内の3回の刑のうち最後の刑の執行に着手すれば足り、刑の執行が終了したことを要しません。
これは刑法56条(再犯の規定)の「執行を終わった」の意味とは異なります。
よって、最後の刑について、
- 仮釈放になり、仮釈放中に常習として窃盗罪を行った場合
又は
- 最後の刑の受刑中に逃走し、その逃走中に常習として窃盗罪を行った場合
にも、「刑の執行を受け」に該当し、常習累犯窃盗の成立要件を満たすことになります。
この点に関する以下の裁判例があります。
裁判所は、
- 盗犯等の防止及処分に関する法律第3条の「刑の執行を受け」とは、同条所定の前科の刑の執行の着手さえあればたり、その執行の終了を要するものでないと解すべきである
と判示しました。
名古屋高裁金沢支部判決(昭和32年3月30日)
裁判所は、
- 被告人は本件犯行当時仮釈放中であって、本件は最後の刑期の満了する以前の犯行に係ることを看取し得ない訳でないけれども、盗犯等の防止及処分に関する法律第3条は、「その行為前10年内にこれらの罪(窃盗、強盜、同未遂等)又はこられの罪と他の罪との併合罪につき3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受け…(中略)…たるおのに対し」云々と定めるに止まり、「執行を完了したるものに対し」と定めていないところから考えると、盜犯等の防止及処分に関する法律第3条の罪が成立するためには、窃盗、強盗又はこれ等の罪の未遂罪などを常習として犯した者が、該行為前10年以内に、これ等の罪につき、3回以上6月の懲役以上の刑に処せられ、かつ、その執行を受けた事実があれば足り、必ずしもその執行の完了を要しないと解すべきである
と判示しました。
「刑の執行の免除を得たこと」とは?
「刑の執行の免除を得た」とは、刑の言渡しの効力は存続したまま、実際には刑の執行を受けることが法律上なくなった場合をさします。
具体的には、外国判決の効力による刑の執行の免除(刑法5条)、刑の時効完成による刑の免除(刑法31条)、恩赦による刑の執行の免除(恩赦8条)などが行われた場合に、刑の執行が免除されます。
ただし、刑の言渡しの効力自体が消減する場合(刑の執行猶予期間の満了、大赦、特赦)の場合は、刑の言い渡し自体がなかったことになるので、『刑の執行の免除を得た』に含まれません。
さらに、「刑の免除」(刑法43条ただし書など)の場合も、そもそも刑の言渡し自体がない状態なので、当然に『刑の執行の免除を得た』に含まれません。